言語聴覚士(ST)とは、コミュニケーションと飲み込みに関するリハビリを担う国家資格です。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)と共に病院で働くSTが多い現状ですが、教育や福祉・介護の場でも需要が高い職種です。

今回はそんなSTの具体的な仕事内容や勤務先について、給与や他のリハビリ職との違いなどの気になる点も含めてまとめてみました。

STという職業に少しでも興味をお持ちの方は、是非参考になさってみてください。

1.言語聴覚士(Speech-language-hearing therapist)とは

言語聴覚士(ST)とは、「話す」「聞く」「書く」「読む」「食べる」ことに関する専門家です。言語聴覚士テキストや私の経験から、まずは歴史や役割について解説していきます。

言語聴覚障害学自体は19世紀にはすでに脳と言語の関係について報告されるなどの歴史がありますが、言語聴覚士という職業は、1925年に米国において言語聴覚士の職能団体 (American Speech-Language-Hearing Association)が設立された比較的新しい職業です。

日本では、1971年に国立聴力言語障害センターにおいて言語聴覚士の養成が始まり、1997年に言語聴覚士法が制定され、国家資格化されました。

日本のSTは元来から医療や教育などの場で活躍しており、現在では福祉や介護などにも活躍の場を広げています。病院で働く際には医療職という位置づけであり、医師や歯科医師の指示の下に、嚥下訓練、人工内耳の調整などの診療の補助業務も担います。

現在は多くのSTが病院や医療施設で働いていますが、言語訓練や音声・構音訓練などは医師の指示を必要としないため、経験を積んだSTが開業して働く場合などもあり活躍の場が多岐に渡るのもSTの特長です。

仕事の内容としては、コミュニケーションに関わる「聴覚」「言語」「発声・構音」「認知機能」や、食べることに関する「咀嚼」「嚥下」などについて、その機能の維持向上を図るために、検査や助言、指導、援助などのいわゆるリハビリテーションを提供します

2.言語聴覚士(ST)が行うリハビリとは

それでは、具体的にSTが行うリハビリにはどのようなものがあるのか見ていきましょう。

コミュニケーション障害

まずはコミュニケーション障害に分類される障害について見ていきます。

言語障害(失語症・言語発達障害)

脳血管障害や交通事故などによる脳外傷後に、言葉が理解できない、思い出せない、字が書けない、読めないなどの症状をきたす「失語症」、言葉の発達の遅れである「言語発達障害」などによりコミュニケーションに障害がある方に対して、その問題がどのような機序で起こっているかを検査・評価を通して明らかにし、必要に応じてリハビリやご家族への指導、社会資源の活用などを提案します。

具体的には、各種言語検査、知能検査、高次脳機能検査、発達検査を対象者に合わせて選択して実施、その結果をもとに訓練が必要な方に対してプログラムを立案し、絵カードやプリントなどを用いた机上での言語訓練や対面でのコミュニケーション訓練を行います。

発声障害(音声障害)

肺や喉頭などの発声器官の異常・疾患による器質性障害、発声器官に異常・疾患が無いにもかかわらず声が出しにくい、思うように声が出ないなどの機能性障害、神経疾患などにより、発声に障害がある方に対して、評価・リハビリを行います。

STは耳鼻科医などと協力し、医学的な評価・診断・治療に基づき、発声行動の変容を促す行動学的治療を担当します。具体的には、発声に関する基礎的な内容を患者さんへ説明し、力を入れ過ぎずに話をする、声量を大きくする、呼吸の調整などを指導します。

発語障害(構音障害・吃音)

発語障害は「構音障害」とも呼ばれ、口唇、舌、下顎、口蓋、軟口蓋などの音を作る器官(構音器官)を正しく動かせない状態の方に対して、評価・リハビリを行います。原因により器質性、機能性、運動障害性に分かれるため、障害に応じた訓練を実施します。

具体的には、正しい構音動作の獲得に向けて構音器官の運動を行う、正しい音を作るために患者さんに正しい音を聞かせ発音を真似してもらうなどがあります。

吃音は「どもり」とも呼ばれ、話したい言葉をスムーズに話すことができない発話障害のひとつです。多くが幼児期に発症する「発達性吃音」ですが、病気やストレスなどにより後天的に発症する「獲得性吃音」もあります。

STは話し方を変えるためにスムーズに話す、楽にどもる練習や、患者さんの周囲の方へ吃音に対する理解を深めてもらうための環境調整、吃音に対する不安や恐怖、否定的な考え方の改善をめざす心理療法などを行います。

聴覚障害(難聴)

言葉や音の聞こえに障害がある方、心配がある方に対し、評価・リハビリを行います。先天性と後天性の障害に分かれるため、患者さんの状況に合わせた対応が必要です。

障害の程度を把握するために聴覚検査を行い、必要に応じて補聴器や人工内耳の提案、調整を行います。人工内耳は音を電気信号に変えて神経に伝える装置であり、補聴器の装用効果が不十分な場合に適用することが多いものです。

補聴器や人工内耳での対応が難しい場合は、筆談、手話、読話などを利用し、患者さんのコミュニケーション手段確保に努めます。

その他の障害(認知症・高次脳機能障害)

認知症や高次脳機能障害がある方に対し、評価・リハビリを行います。「高次脳機能障害」とは、思考、記憶、行為、注意など脳機能の障害で、失語症もこれに含まれます。

高次脳機能障害がある方に対しては、失語症と同様に、検査・評価を通して問題が起きた機序を明らかにし、必要に応じてリハビリやご家族への指導、社会資源の活用などを提案します。

高次脳機能障害は、本人の自覚が難しく、外見では障害の有無がわかりにくいため、周囲から誤解されやすい障害ともいわれています。障害に対する理解を深めてもらうため、患者さんと関わる方々への環境調整もSTの重要な仕事となります。

摂食・嚥下障害

次に、摂食・嚥下障害について見ていきます。

脳血管障害や神経筋疾患、または頭頚部癌や廃用症候群などにより、咀嚼や飲み込みが難しい方に対して、医師や歯科医師と共に検査・評価を行い、リハビリテーションを実施します。

検査は、放射線下で実際の食品に薬剤を混ぜて飲み込みを観察する嚥下造影検査(VF検査)、内視鏡で嚥下状態を観察する嚥下内視鏡検査(VE検査)などの医師が行う医学的な検査と(STも検査に立ち合い一緒に評価する施設も多いです)、口腔咽喉頭の運動能力の評価や食事場面の観察を通して評価があります。

嚥下に関しては、食事姿勢や食具の選定も大切になることから、PT・OTなどのリハビリテーションスタッフとの連携が基本となります。また、食事形態の選定には栄養士や実際に食事を介助する看護師・介護士などとも相談しながら進めていくため、多職種協働でのチームリハビリが欠かせません。

3.言語療法士(ST)の仕事内容や求められること

前述のように、言語や音声、嚥下に関するリハビリを担当するSTですが、具体的な仕事内容や求められる役割について見ていきましょう。

仕事内容

先に述べたSTが行う各種訓練をきっちりと行うことが何よりも大切で、そのためにSTは働きながら学び続けることも重要な仕事になります。

さらに、患者さんのリハビリの目標は、病院や自宅などにおける非日常的なリハビリテーションに注力する状態から、日常の生活に戻りご本人らしい生活を送ることです。

そのため、お子さんであれば学校、社会人であれば職場、高齢者であれば地域など、患者さんが実際に生活をする場との懸け橋となることが大切になります。

具体的には、ソーシャルワーカーを中心に、教師、職場の所属長や産業医、障がい者職業センター、ケアマネージャーや地域でのリハビリ資源などと連携して、社会復帰を支援するところまでがSTの仕事となります。

求められる役割

ST訓練は、基本的には言語療法専用の個室で行うことになりますが、個室内での患者さんの状態のみを評価するのではコミュニケーションの全体像が見えてきません。

大切なのは、ご本人の言語機能が実際のコミュニケーション場面でどのように発揮されているかについて把握することです。そのため、病棟での様子、ご家族との会話、他のリハスタッフとのやりとり、職場でのコミュニケーション、学校での授業理解度や会話などについて様々な人から聴取し、可能な限り自分で出向いて評価します。

また、実際に患者さんが生活する全ての状況でコミュニケーション能力が関わってきます。そのため、私が回復期病院に勤めていた際には、外出訓練、通勤訓練、買い物訓練、家屋評価などをPT・OTと共に行い、患者さんが安心して社会復帰できるようリハスタッフ一丸となって支援に取組みました。

STの個室に閉じこもっていては、患者さんの全体像や必要な支援を見逃してしまいがちですので、積極的に自ら情報収集していく行動力も大切になります。

4.理学療法士(PT)と作業療法士(OT)との違い

同じリハビリ専門職であるPTやOTとSTの違いはどのような部分になるのでしょうか?この章では、PTとOTの特徴についてそれぞれ見ていきましょう。

理学療法士(PT)

理学療法士は、立つ、座る、ベッドから起き上がる、歩くなどの基本動作のリハビリテーションを行います。呼吸や心肺機能、姿勢保持など嚥下や発声機能と関連していること、移動する際に高次脳機能がどのように影響するかなどについて、PTとSTは日常的に情報交換を行い協働します。

理学療法士の活躍の場は、医療・福祉分野を始め、スポーツトレーナーや介護予防などの広い分野に渡ります。

作業療法士(OT)

日常生活を送るための応用動作のリハビリを行います。「トイレに行く」「字を書く」「料理をする」「食事をする」「整容する」などの活動を、リハビリや自助具の選定などを通して支援します。

患者さんの自己実現を支えるリハビリを担っており、高次脳機能や精神機能についてのケアも担当するため、STと協働することが多い職種です。OTもPTと同様、活躍の場は多岐に渡ります。

PT・OTとSTの違いについては、以下の記事でも詳しく説明していますので是非ご参考になさってください。

5.ともに仕事をする機会の多い専門職の特徴

前章でご紹介したPT・OT以外にも、STとともに仕事をする機会の多い専門職があります。それぞれの専門職の特徴について見ていきましょう。

臨床心理士(PSY)

臨床心理学にもとづいた評価やカウンセリングを通して、“こころ”の問題にアプローチする専門家です。

障害を負った方々は心理的な問題を抱えることも少なくないため、リハビリ職は臨床心理士との連携が欠かせません。また、認知症や高次脳機能障害にも専門的に対応するため、検査やリハビリをSTとPSYで分担して協働することも多いです。

医療ソーシャルワーカー(MSW)

医療機関において、患者さんやご家族の経済的・心理的・社会的問題に対して、社会福祉の立場から支援する職業です。

具体的には、医療費や休職に伴う経済的な問題、退院に伴うサービスの調整、退院後の生活に必要な福祉サービスの導入などを、病院外の担当者などと連携しながら調整してくれる強い味方です。

6.言語聴覚士(ST)になるには

言語聴覚士になる方法として、日本言語聴覚士協会には以下のような記載があります。

言語聴覚士になるは、法律に定められた教育課程を経て国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受ける必要があります。

言語聴覚士学会 言語聴覚士になるには

大学・短大・専門学校などの教育課程、国家試験の概要・合格率・難易度については、以下の記事で詳しく説明していますので是非ご参考になさってください。

7.言語聴覚士(ST)の給料や職場・就職先について

次に、言語聴覚士(ST)の給与や勤務先、働き方についてご紹介します。

年収は約426万円

賃金構造基本統計調査によると、STの年収は426万円(2021年分のデータ)となっています。事業規模が大きくなると給与が高くなる傾向があり、また経験年数を積み重ねることで昇給していくことができます。

下記の記事に詳しく書いてありますので、是非ご参考になさってください。

言語聴覚士(ST)と年収給与UPの方法や月給を総まとめ
言語聴覚士 給料

活躍できる場所は様々

STが活躍できる場所は様々あり、医療施設、介護施設、訪問型サービス、小児に関する施設、教育関連、一般企業など多岐に渡ります。

STの多くは医療施設で働いていますが、その中でも自分の得意を生かす働き方をしたり、興味のある分野へ転職したり、または全く異なる分野に挑戦したりと、キャリアを変化させていきやすいこともSTの特長です。

STの働く先については以下の記事で詳しく説明していますので、是非ご参考になさってください。

労働環境は施設によってさまざま

先にご紹介したように、STの勤務先は病院や施設、教育など様々ありますので、労働環境も業態や施設ごとに大きく異なります。

ある程度の規模がある病院のリハビリテーション科で働く場合の労働環境としては、就業時間内はリハビリやカンファレンスに忙しく、カルテや記録のまとめ、教材作成を残業として行う施設が多いです。

また、勉強会や症例報告会などが終業後に定期的に開催される施設が多いです。学びを確保できるという利点と、自分の自由時間が減ってしまうという欠点があるため、就職先を選ぶ際にはそのような教育体制や勉強会情報なども併せて情報収集するとよいでしょう。

経験を積んだSTは需要が高く転職しやすくなるため、最初の数年は勉強できる環境に身を置いて置くと後に自分の働きやすい労働環境を選びやすくなると思います。

8.言語聴覚士(ST)のスキルアップ・キャリアアップについて

STの国家資格を取得し、働き始めた後のスキルアップやキャリアアップについて気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか?この章では、認定資格や具体的なスキルアップ、キャリアアップ方法についてご紹介します。

認定言語聴覚士

日本言語聴覚士協会には、高度な知識および熟練した技術を用いた高水準の業務遂行と業務の質向上を目的とした「認定言語聴覚士制度」というものがあります。

2008年度から始まり、現在では摂食嚥下障害領域、失語・高次脳機能障害領域、言語発達障害領域、聴覚障害領域、成人発声発語障害領域、5つの領域があります。

認定言語聴覚士の資格取得には、協会が定める「生涯学習プログラム」の受講、論文や研究発表・学会への参加、症例検討・発表の実績などが必要となります。

認定言語聴覚士については、以下の記事で詳しく説明していますので、興味のある方は是非ご参考になさってください。

その他のスキルアップ・キャリアアップ方法

スキルアップには、院内勉強会への参加、県士会など地域の講習会の活用、大学院で博士号を取得する、資格を取得するなどの方法があります。

キャリアアップには、専門領域を広げる、新しい業務スキルを身につける、リーダーを目指すなどの方法があります。

スキルアップ、キャリアアップの具体的な方法については、以下の記事で詳しく説明していますので是非ご参考になさってください。

スキルアップ方法のひとつである「資格取得」については、以下の記事で詳しく説明していますので是非ご参考になさってください。

9.まとめ

今回は、言語聴覚士(ST)として働く場合の仕事内容、役割、給与、他の職種との違いなどについてまとめてみました。

STのイメージは個室の中で患者さんへ向き合う印象が強いかもしれませんが、コミュニケーション全体を把握して支援するために、私たちSTができる仕事はもっと幅広いと感じています。

今回の記事を通して、少しでもSTの魅力をお伝えできていれば幸いです。

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【引用】
言語聴覚士学会 言語聴覚士になるには

【参照】
言語聴覚士テキスト第3版 言語聴覚障害学総論 1言語聴覚士の歴史と現状―1歴史
言語聴覚士テキスト第3版 言語聴覚障害学総論 2言語聴覚士の業務と職業倫理 1業務
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