言語聴覚士(ST)になるためには、文部科学大臣または厚生労働大臣が指定した大学、短大、専門学校のいずれかの養成校で所定の単位を取得し、国家試験に合格する必要があります。

学校では生理学や解剖学などの基礎医学からはじまり、失語症や高次脳機能障害、摂食嚥下障害、聴覚障害など座学での授業のほか、検査器具や道具を使用する手順、訓練の演習などを行い、病院での実習を経てSTに必要な課程を学びます。

どの学校も国家試験の合格を第一の目標として学びますが、単位取得までにかかる年数や授業内容の傾向、卒業までにかかる学費など、学校によってさまざまな違いがあるため自分にあった学校選びが大切です。

今回はSTを目指せる大学と短大、専門学校についてご紹介します。

大学と専門学校の違いや学校選びで確認しておきたい大事な5つのポイントについても解説していますので、ぜひ学校選びの参考にしてみてください。

1.言語聴覚士(ST)の養成校は大学と短大と専門学校

STの養成校には、大学(2年制、4年制)、短大(3年制)、専門学校(2年制、3年制、4年制)など様々な形態があり、それぞれ授業の密度や通う期間、授業料も異なります。

理学療法士(PT)や作業療法士(OT)が8割前後の合格率のため誤解されがちですが、STの合格率は60%台も多く決して簡単ではありません。

そのため、4年制の学校でじっくり学ぶのか2年・3年制で一気に学ぶかは自分に合った方法を選んだ方が良いでしょう。

学費に大きな違いが表れることに加え、学校の学部学科の種類や保有する施設、教授などによって各学校が得意とする分野や実習先、就職の際の進路にも影響してくるため学校選びはとても重要です。

2.各学校の違い

言語聴覚士(ST)の養成校は大きく分けて3つがあり、それぞれ学習のペースや内容、学習環境の雰囲気などが異なり、学費にも差があります。

学校生活を楽しみながら幅広く多くの知識を取り入れたいのか、STとしての専門知識や技術を重点的にしっかり学びたいのか、これから学んでいく自分をイメージしながら考えてみましょう。

大学

大学は最終学歴が大卒となり学士号が取得できる点が大きいです。言語療法以外の一般教養も学べるため、自分の興味のある科目を幅広く学ぶことができ、ST以外の一般企業への就職も可能です。

大学は学校の規模が大きく、言語聴覚学科以外にも医療系や福祉系、小児系の学部・学科などとの連携も多いため、様々な方面から言語聴覚療法を学びながら、他の資格の仕事の役割を理解したり、介護や子供とコミュニケーションなど働くうえで役立つ知識を取り入れたりしていくことも可能です。

専門学校に比べると在籍人数も多い傾向にあり、1学年数百名在籍することもあり、別学科の仲間とも協力して励まし合いながら勉強ができます。部活動やサークル活動を通じて、広い人間関係が築けるのも、カリキュラムに余裕のある大学ならではでしょう。

時間に余裕がある分、授業だけでなくサークル活動やボランティア活動などを通してさまざまな経験をたくさん積むことで、実習や臨床など今後の人生に役立つ経験もできるのが大学の大きな特徴です。

4年制大学の授業料は私立で年間150万円程度、国公立で年間約50万円程度が目安になりますので、国公立と私立で悩む場合は参考にしてみてください。その他にも入学金や教材費、施設利用料などが必要になりますので、候補を絞った後は詳しく調べることをおすすめします。

短期大学

短期大学は大学と同じく、言語聴覚療法の専門知識だけでなく一般教養まで幅広く学べることが特徴です。しかし3年制であり大学より1年期間が短くなるため、時間割は必修科目がほとんどとなります。

イメージとしてはじっくり幅広い知識を学ぶ大学と即戦力重視の専門学校のちょうど中間が短期大学の特徴と言えるでしょう。勉強面については、他の学校に比べてタイトなスケジュールで学校生活を過ごしていくことになりますので、学科の仲間と協力しながら効率よく進めていく必要があり、情報の共有や連携など就職後のチームリハにも活かすことができます。ただ学校数が少ないため、通いたくても通いにくい可能性があり難点と言えるかもしれません。

1~3年で修了となる短期大学では就学期間が短い分、四年制大学よりも学費を抑えることができます。そのため、学費の負担で大学進学を諦めざるを得ない場合でも短大であれば進学できる可能性があります。

3年制短期大学の授業料は年間約130万円程度で、大学と同様にその他の費用も必要になります。

専門学校

専門学校では一般教養の科目はなく、言語聴覚士国家試験に必要な科目だけを集中して学び国家試験に挑みます。そのため、短期間で十分な知識と即戦力になる技術を身に着けることが可能です。

国家資格を取得し、現場に出ることを最大の目的としているため、現場を意識したボランティア実習やマナー研修も行い、早い段階から就職活動にも力を入れています。

専門学校は大学に比べると1学年の人数が少なく先生の目が行き届きやすいため、授業内容や就職について相談しやすい環境が魅力です。

専門学校の場合はさまざまな年代や経歴の学生が通っていることも多く、授業を通じて周りの人と交流することで、お互いにサポートしあう関係性を築くことができます。

社会人経験者から就活に関する情報が得られたり他分野での経験を知り、言語聴覚療法に活かせるなどより視野を広げられるのも特徴です。

専門学校の学費は年間約120万円程度で、その他の費用も大学・短大と同様にかかります。

3.大学と専門学校それぞれの期間の違い

短期大学は3年制のみですが、大学には2年制と4年制、専門学校には2年制、3年制、4年制があります。それぞれの違いは、学歴とカリキュラムにあります。

4年制大学と2年制大学の違い

4年制大学は高校卒業と同程度の学力を有することで受験資格が得られます。養成校の中では授業選択の自由度が一番高く、STとしての必修科目を中心にたくさんの知識を得られることが一番の魅力です。

一方、2年制の大学は4年制の大学を卒業した方のみが受験可能となっています。STは社会人経験者も多く、大学を卒業してからSTを目指して学びなおしたい方は2年制の大学が最短のルートになります。

しかし、授業内容の多さや専門的知識を補うために2年制ではなくあえて4年制大学を選択し、じっくり学ぶ人も多いようです。

3年制、4年制専門学校と2年制専門学校の違い

3年制と4年制の専門学校は高校卒業と同程度の学力を有することで受験資格が得られます。
大学に比べると授業料が安いこともあり、高校を卒業してすぐの人から社会人経験者まで幅広く在籍しています。

どちらも基礎から専門、国家試験対策まで言語聴覚療法についてのみじっくり学びます。4年制の専門学校を卒業すると大学で得られる学士と同等レベルの高度専門士の称号を得ることができます。

一方で、2年制の専門学校は2年制の大学と同様に、4年制大学を卒業した人だけが受験できます。2年間と短い期間ではありますが、大学のように一般教養の科目がなく高い水準の専門的な授業が行われるため、臨床でも即戦力としての活躍が期待できます。

4.養成校を選ぶ5つのポイント

言語聴覚士(ST)の養成校を選ぶにあたってまず確認することは、これまでご紹介した学歴、通学年数、カリキュラム、学費の4つです。

これらのふまえた上で、これからご紹介する5つのポイントも参考にすると、より希望に沿った学校が見つかるはずです。

①.カリキュラムや併設施設を比べてみよう

どの養成校でも国家試験合格を目指して勉強をしていきます。国家試験のための必修科目は同じですが、講義と実習時間の割合などそれぞれの学校で授業内容に少しずつ違いがあります。

学校によっては他学科と連携して、医療だけでなく小児分野や介護に力を入れている学校もあります。実習先やその後の就職にも関わってきますので、カリキュラムは見ておきましょう。

また、病院など施設を併設している学校では早期から病院での見学実習など、STが働いている現場を見ることができる場合もあります。現場を見る機会が多いと自分の将来がイメージしやすく、勉強のモチベーションアップに繋がります。

②.国家試験の合格率を見てみよう

STの国家試験合格率は60~70%程度で、理学療法士や作業療法士に比べると低い傾向にあります。

合格率から考えると難易度の高い国家資格であると言えるため、学校ごとの合格率を比較して学校選びの参考にしましょう。

③.特待生制度や学校独自の奨学金の有無などを見てみよう

日本学生支援機構の奨学金のほかに、学校によって特待生や奨学金などの制度が設けられている場合があります。

成績での評価や付属病院がある場合は、卒業後に一定の年数就業することで免除される学校もありますので、希望する場合は制度の有無や条件を確認しておきましょう。

④.教授の専門分野を見てみよう

あなたがSTになりたいと思ったきっかけは何ですか?
将来の自分を想像した時にどんな人を対象にどんな仕事をしていますか?

STになると決めて学校を探しているあなたには何かしらの今の段階である程度明確なビジョン(成人や小児など)が見えている場合は、、教授の専門や著書、所属している学会の発表抄録を見てみるのも良いかもしれません。

内容は専門的なので難しいかもしれませんが、興味を惹くキーワードや、授業を受けてみたい教授が見つかるかもしれません。

⑤.オープンキャンパスなど実際に学校に行ってみよう

2~4年間、自分が通うことになる学校ですので、自分の目で見てみることが一番大事です。オープンキャンパスでは学校や学科の説明を聞きながら、学校案内を受けることができるため、学校生活のおおまかな流れやその学校の売りを知ることができます。

また文化祭のような学生主導で行われるイベントでは、学生たちが自分の学科をPRするような出し物も多く出ています。言語聴覚士の学科では学生が聴覚検査の機械を実演していたり、失語症検査や発達検査の一部を実施したりと、体験コーナーがある場合もあります。

実際に学校に行くことで、学校や学生の雰囲気を感じることができますので、ぜひ実際に学校に行ってみることをオススメします。

また、自宅から通う場合は希望する学校が遠い場合などは通学にかかる時間や混雑の度合い、乗り換え等の負担も事前に確認しておくと良いでしょう。

5.高卒者や社会人におすすめの学校は?

高卒者と社会人経験者では、これまでの学歴や生活環境による時間の問題、金銭的な問題など学校選びの際に重視するポイントや選択肢に差が出てきます。それぞれおすすめの学校選びについてみてみましょう。

高卒者は社会に出たときに役立つ一般教養も学べる学校がおすすめ

高校を卒業するタイミングで言語聴覚士(ST)を目指す方には4年制の大学がおすすめです。2章でも触れたように4年制の大学では言語療法以外の一般教養など幅広い分野の授業があり、サークル活動など自分の時間も確保しつつ、しっかりと基礎を学ぶことができます。

STとしての基礎を学ぶ時期に言語聴覚学科以外の医療や福祉、小児など様々な知識に触れておくことで、疾患の特徴や適した対処法など、関連する知識を効率よく勉強できることは、国家試験対策や臨床に向けた大きな強みとなります。

社会人は夜間学部で仕事と両立しながら目指すこともできる

社会人がSTの養成校を選ぶ際には、これまでの学歴と退職して資格取得に専念するのか、現在の仕事を継続しながら資格取得を目指すのかという点が学校選びのポイントになります。

高卒者との大きな違いとしては、社会人の中でも4年制大学卒の方は2年制の大学・専門学校のほか、昼夜間部・夜間部が設けられた養成校への進学も可能となるため、現在の仕事を続けながらSTを目指すことができます。

昼夜間部とは平日は夜間、土曜日は昼間に受講するカリキュラムのことで、大学や社会人生活で身につけた経験を活かしながら、最短2年で資格の取得が可能です。

生活スタイルに合せて時間を有効に使えることはメリットですが、実習に関しては昼夜間部・夜間部であっても実習先の施設にあわせて昼間に実施されるため、実習期間は仕事を調整しなければなりません。

実習は4週間程度の評価実習と8週間程度の臨床実習があり、入学前に実習時期や期間などを確認し、必要に応じて職場との調整をする必要があります。

日中の仕事と夜間の授業、さらに課題や予習復習にかける勉強時間の確保など体力負担も大きくなるため、学校を選ぶ際はカリキュラムだけでなく、仕事後に通える距離なのか、日常生活に支障をきたさないかなど無理が生じないよう考慮することが大切です。

6.卒業する学校によって就職後の給料や年収に差はある?

結論から言うと、卒業した学校に関わらず言語聴覚士(ST)としての基本給は同じです。新卒時の給料に差が出る可能性があるとすれば、これまでに取得したST以外の医療や福祉に関する資格など、就職先の施設にとって有益と思われる能力が評価され、給料に反映された場合です。

在学中に優秀な学生であっても、1年目から十分な知識や経験があるわけではなく、日々の臨床で多くのことを学んでいきます。そのため、大学・専門など学校に関わらず、就職後の臨床に向き合う姿勢が大切です。

まずは国家試験に合格し、STとしてのスタート地点に立つことが第一目標ですので、カリキュラムや養成期間、校風などをよく検討し、自分に合った学校選びをすることをおすすめします。

7.言語聴覚士(ST)を目指せる全国の大学・短大一覧

STの養成校は全国的にみてもまだ数が少なく、なかなか情報を得にくいのが現状です。日本言語聴覚士協会のホームページから養成校を検索できますので、興味のある方は参考にしてみてください。こちらでは大学・短大一覧を抜粋して記載しています。

大学一覧

学校名都道府県種別課程出願資格
北海道医療大学北海道学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
弘前医療福祉大学青森県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
東北文化学園大学宮城県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
国際医療福祉大学 (大田原キャンパス)栃木県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
群馬パース大学群馬県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
目白大学埼玉県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
国際医療福祉大学 (成田キャンパス)千葉県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
東京工科大学東京都学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
帝京平成大学東京都学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
杏林大学東京都学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
武蔵野大学東京都学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
北里大学神奈川県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
新潟医療福祉大学新潟県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
福井医療大学福井県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
聖隷クリストファー大学静岡県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
愛知淑徳大学愛知県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
京都光華女子大学京都府学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
京都先端科学大学京都府学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
大阪保健医療大学大阪府学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
大和大学大阪府学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
大阪人間科学大学大阪府学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
関西福祉科学大学大阪府学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
大阪河﨑リハビリテーション大学大阪府学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
姫路獨協大学兵庫県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
川崎医療福祉大学岡山県 4年(昼間部)高校卒業(見込)
県立広島大学広島県大学法人(公立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
広島都市学園大学広島県学校法人(私立)2年(昼間部)大学卒業(見込)
広島国際大学広島県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
高知リハビリテーション専門職大学高知県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
福岡国際医療福祉大学福岡県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
熊本保健科学大学熊本県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)
九州保健福祉大学宮崎県学校法人(私立)4年(昼間部)高校卒業(見込)

短大一覧

学校名都道府県種別課程出願資格
仙台青葉学院短期大学宮城県学校法人(私立)3年(昼間部)高校卒業(見込)
大和大学白鳳短期大学部奈良県学校法人(私立)1年(昼間部)大学卒業(見込)

専門学校については、下記の協会サイトをご確認ください。
日本言語聴覚士協会 養成校検索

8.まとめ

今回は、言語聴覚士(ST)を目指すための養成校についてご紹介しました。

STの養成校は他の理学療法士や作業療法士に比べて、全国的に少なく、国家試験も難易度の高い狭き門です。しかし、病院や介護施設、学校など必要とされている場所も多く、毎日が勉強であり、新たな発見のあるとてもやりがいのある職種です。

授業も専門的な内容が多く、大変だと感じることもあるかもしれませんが、学校で学んだ知識はもちろん、STを目指す仲間達との学校生活は、働き始めたあなたの大きな力になると思います。

実りある充実した学校生活を送るためにも、じっくり時間をかけて、自分に合った養成校を選んでください。

不明点があれば、是非PTOT人材バンクのキャリアパートナーに遠慮なくご相談ください。
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【参照サイト】
日本言語聴覚士協会HP 養成校検索