心臓のリハビリというと、理学療法士(PT)をイメージしやすい分野で、言語聴覚士(ST)ではなかなか思い浮かばない職場だと思います。

ただ、私自身が循環器病院で勤めていた経験がありますので、どういった現場で何を意識して働いていたのかを共有できると思いますので、今回は循環器外科や心臓血管外科におけるSTの仕事を紹介します。

具体的に循環器外科・心臓血管外科はどんなところなのか?STはどんなふうに活躍できるのかを伝えさせていただきます。

1.循環器外科・心臓血管外科で求められる役割

循環器科外科・心臓血管外科は、心臓の血管の病気を治療する診療科目です。「循環器」と「心臓血管」は言葉がちがうだけで意味は同じで、血液が身体を循環することから循環器とも呼ばれます。

この診療科目が対象となる具体的な病名は、狭心症・心筋梗塞・弁膜症・胸部大動脈瘤・静脈疾患などで、手術を必要とするレベルの患者様が対象です。

循環器外科・心臓血管外科での言語聴覚士(ST)の役割は、術前後の発声や嚥下機能の評価、術後の嚥下障害・発声障害に対するリハビリテーションです。

2.言語聴覚士(ST)の循環器外科・心臓血管外科での仕事

心臓や血管の手術は、全身麻酔や挿管し人工呼吸管理を行うなど非常に身体的に負荷の高い治療であり、手術が終わったあとも運動能力や身体の調節機能が低下しています。
そのため、口部や咽頭の感覚低下や筋力低下による嚥下機能の低下がみられ、手術内容によっては反回神経という声帯をつかさどる神経が障害されて、声門閉鎖不全を引き起こし、それによる嗄声や誤嚥性肺炎のリスクも生じます。

循環器外科・心臓血管外科でのSTの仕事は、術前の発声や嚥下機能の評価に加え、術後の発声や食事開始時期の嚥下評価、発声・嚥下障害に対するリハビリテーションが重要です

つまり適切な評価のもと、患者さんの状態に合わせた嚥下機能訓練(口の体操や嚥下関連筋の筋力アップなど)、安全な食事形態や食べ方の提案、どうしたら声が出やすいか評価し、発声訓練やコミュニケーションの取り方の助言を行います。

患者さんの特徴

他の診療科目と比べて、心臓の術後の患者様は、急性期はベッドをギャッジUPするだけでも心拍数や血圧が変動しやすいことが多々あります。

また、点滴やバイタルサイン管理の管も多く、抜管しないように細心の注意を払うなど、ベッドサイドでの行動にも細心の注意が必要です。

さらに嚥下評価を行う際は声門閉鎖不全がリスクとして予測されるので、気管に食物が入りやすい状態にあるという姿勢で、慎重に評価することが重要です。

リハビリの期間としては、術後の経過が良好な患者様は単発の評価で終わることも多く、リハビリが必要な方でも平均入院期間である2週間程度の短いリハビリで終わります。

一方で術後の経過が不良な場合や、脳梗塞や反回神経麻痺など合併症により長期の治療を求められる患者様の場合は、最長で3か月間入院しリハビリ転院や退院後も通院でリハビリされることが多いです。

チーム医療の中で求められる役割

循環器外科・心臓血管外科の心臓チーム医療では、手術による患者様の身体的負荷が大きいため、血圧・脈拍・心電図の波形などバイタルサインの把握や、「昨日より顔色がなんだか悪い」などちょっとした体調変化などの違和感を察知する力を求められます。

そして早期回復のために情報共有することも大切な役割です。リハビリ時の様子を医師や看護師に伝えることで、治療の経過の指標になることができますし、危険な状態にならないように予防することにもつながります。

また、心臓リハビリテーションを行う理学療法士(PT)・作業療法士(OT)との連携することで適切な運動負荷を把握して患者様と関わることができます。

ちなみに、心臓リハビリテーションとは、術後の運動機能の低下や身体調節機能の低下に対して、適切な負荷の運動療法を行って回復させていくものです。

ベッドUPから始まり、座ること・立つこと・歩くことを血圧・脈拍・心電図の波形などを見ながら徐々に負荷を増やして、元の生活ができるように運動療法を行います。

3.循環器外科・心臓血管外科で働くスケジュールや勤務イメージ

今度は、循環器外科・心臓血管外科での勤務スケジュールの一例を紹介します。

時間業務内容
08:45~09:00出勤。準備
09:00~09:30朝礼
09:30~12:00午前のリハビリ(3~4件)
12:00~13:00食事評価(1~2件)
13:00~14:00休憩
14:00~16:30午後のリハビリ(3~4件)
16:30~18:00記録入力・日によっては報告書・計画書作成
18:00~退社。勉強会などがあることも

上記のように大まかなスケジュールは「病院勤務」の言語聴覚士(ST)とあまり変わりはありません。

患者様の体調によって嚥下評価のタイミングが変わったり、理学療法と同行してベッドUPのバイタルを確認しながら介入することもあるため、他職種とのスケジュール調整が必要だったりします。

術後の経過が良好な患者様は特に嚥下状態がすぐ変化してしまうので、食事形態の見直しなど飛び込み評価も依頼されやすいです。

4.言語聴覚士(ST)が循環器外科・心臓血管外科で働く魅力

循環器外科や心臓血管外科で働く魅力は、状態変化やバイタルサインの見方や対応に強くなれることです。

心臓は全身の病気とつながっているので、心臓の機能や病態に詳しくなることで、呼吸状態の把握や適切なリハビリの負荷量の見立てが立てやすくなり、臨床現場に生かせる経験ができます。

また、急性期の現場が好きな人、シビアなバイタル管理ができるようになりたい人にもオススメです。

5.まとめ

循環器外科・心臓血管外科での言語聴覚士(ST)の仕事は、弁膜症・狭心症・大動脈瘤など心臓や血管に手術を要するほどの患者様を対象にした、評価やリハビリです。

特に術前後の嚥下機能の評価とリハビリや、反回神経麻痺による声帯の動作不全に対する発声訓練も求められます。

循環器外科・心臓血管外科の患者様は術後はベッドUPでもバイタルサインが変動することもあるので、慎重な体調状態の把握や他職種との連携が求められます。

今回の記事が皆さんの職場選びの参考になると幸いです。
言語聴覚士(ST)の求人・転職情報はこちら

関連記事

言語聴覚士(ST)の勤務先に関するおすすめ記事をご紹介。