日本言語聴覚士協会には、高度な知識および熟練した技術を用いた高水準の業務の遂行と業務の質の向上を目的とした「認定言語聴覚士制度」というものがあります。

認定言語聴覚士は、言語聴覚士(ST)の専門性の高さと高齢化など社会的な需要の高まりにより少しずつ注目を集めている資格ですが、まだまだ資格取得者が少ないのが現状です。

今回は認定言語聴覚士についてまとめてみましたので、検討している方はぜひ参考にしてみてください。

1.認定言語聴覚士の特徴と目指す意義

言語聴覚士(ST)の中でも特に高い専門性を持つ認定言語聴覚士ですが、一般的にはまだあまり知られていません。まずは認定言語聴覚士がどのようなものかみていきましょう。

認定言語聴覚士とは

認定言語聴覚士とは、日本言語聴覚士協会によって「高度な知識および熟練した技術を用いて高水準の業務を遂行できる言語聴覚士を養成することにより、業務の質の向上をはかり、社会に寄与すること」を目的として2008年度から始まり、現在では以下の5つの領域があります。

  • 摂食嚥下障害領域
  • 失語・高次脳機能障害領域
  • 言語発達障害領域
  • 聴覚障害領域
  • 成人発声発語障害領域

STが行うリハビリには、失語症や高次脳機能障害、嚥下障害に対するリハビリが中心です。特に摂食嚥下障害に対するリハビリは誤嚥性肺炎の原因になる可能性もあるためリスクが大きく、リスク管理を含めたSTの技術が必要とされます。

また高次脳機能障害の場合、障害が単体で現れることは少なく、様々な障害が複雑に発症している症例が多いため、正確な評価が難しかったり発声や構音の評価ではSTの主観的な評価が必要になったりと高度な専門技術が求められます。

しかし、養成校で学ぶ知識や実習だけでは十分にその技術が得られているとは言えないのが実情です。

そのため、認定資格取得自体を目的とするのではなく、認定講習会を通してSTとしての技術を磨き、臨床業務の質を向上させることによって社会に貢献できるよう、高い志をもって取得するべき資格と言えるでしょう。

認定言語聴覚士を目指す意義

認定言語聴覚士を目指す道のりは大変ですし、学び続けて知識を更新していく必要もあります。残念なことに、資格取得によって職域が拡大することはなく資格手当がつくこともほぼありません。

しかし、コミュニケーションという目に見えず数値化しにくい分野、摂食嚥下という命に関わる分野のリハビリにおいて、リハ技術に自信を持ち、妥当で効果的なリハビリテーションを提供できることは大きな意義があるのではないでしょうか。

結果的に専門性の高い技術や知識をもったSTとして、職場や患者様、ご家族などから信頼されやすくなり現場で重宝されるものと思います。

また、摂食嚥下障害領域の認定言語聴覚士を取得していると、「日本摂食・嚥下リハビリテーション学会」の学会認定士を申請するだけで取得できます。この学会認定士は看護師や介護など違う職種の方が取ることが多い資格ですので、転職の際などには自身の強みとしてアピールポイントになります。

2.言語聴覚士(ST)の認定資格は臨床経験必須

日本言語聴覚士協会の生涯学習プログラムは、基礎講座の受講や症例検討などでポイントをためることで修了する「基礎プログラム」と、専門講座や学会参加などでポイントを取得して修了する「専門プログラム」の2種類があります。

この2つのプログラムを受け修了証を手にすることで、認定言語聴覚士講習会を受講する資格を得ることができますが、認定言語聴覚士になるには満5年を超える臨床経験が必要なため、早くても現場に出て6年目でやっと挑戦できる資格となります。

また、生涯学習プログラムの受講資格は日本言語聴覚士協会の正会員に限られていますので注意が必要です。

3.各プログラムの詳細

認定言語聴覚士の資格を得るために必要な2つの生涯学習プログラムと講習会について具体的にみていきましょう。

基礎プログラム

基礎プログラムを修了するためには基礎講座の受講と、論文や研究発表・学会などへの参加によるポイント、症例検討・発表の実績が必要です。

県士会の基礎講座(6講座全て)を受講(1)臨床のマネージメントと職業倫理 (2)臨床業務のあり方、進め方 (3)職種間連携 (4)言語聴覚療法の動向 (5)協会の役割と機構 (6)研究法序論
ポイント取得(計4ポイント以上)論文発表、研究発表、参加(日本言語聴覚士学会、協会主催の講習会・研修会、都道府県士会の学術集会・研修会)など
症例検討・発表臨床経験 6 年目以上の本協会員2名のスーパーバイズを必要とする(証明書の作成・提出が必要)。

基礎プログラムは、STとして働いていれば当たり前に行う活動の中で、規則に則り申請することで修了できます。後から症例検討・発表の証明書を書いてもらったり、ポイントを集めなおすのは大変ですので、事前に症例検討開催の条件や申請手続きを確認して進めていきましょう。

言語聴覚士協会では、言語聴覚士免資格得後3年以内の修了を目安としています。

専門プログラム

専門講座も各都道府県での開催と協会が主催する全国研修会があります。また、学会の参加や研究発表などを通してポイント取得することで修了できます。

全国研修会・県士会の講座から 4 講座を履修全国研修会等において多数の講座が開講 (日本言語聴覚士協会ホームページより検索可)
ポイント取得(計8ポイント以上)基礎プラグラムでのポイント取得対象に加え以下でもポイントが取得できる ・出版活動(専門領域に関する) ・職能活動(臨床実習指導、患者会支援、協会や県士会における年間を通しての役員など)

専門プログラムは、STとしての専門性を高める活動によって取得することができます。学会や講習会への参加を積み重ねることで取得できるため、参加時には忘れずにポイントを貯めていきましょう。

言語聴覚士協会では、言語聴覚士資格取得後5年以内の修了を目安としています。

認定言語聴覚士講習会

前述の2つの生涯学習プログラムを修了し、満5年を超える臨床経験を有することで、認定言語聴覚士講習会へ参加することができます(受講費用8万円)

この講習会は1年間で2日間×3回開催されるので、全日程は6日間ということになります。受講単位を次年度に持ち越すことはできないため1年間で3回とも受け、最終日の試験に合格することで認定言語聴覚士の資格を得ることができます。

講習会は、摂食嚥下障害領域、失語・高次能機能障害領域、言語発達障害領域、聴覚障害領域、成人発声発語障害領域、吃音・小児構音障害領域の6領域があり、年によって開講する領域は変更されます。

講義、演習、実技、症例検討などで構成されており、それぞれ各領域のスペシャリストが担当する、専門的かつ実践的な内容で構成されています。

4.認定言語聴覚士を目指す際の注意点

認定言語聴覚士を目指すにあたっては、生涯プログラムを受講するために日本言語聴覚士協会の正会員であること、ポイント取得についての申請、症例検討会の開催について同席する言語聴覚士(ST)の条件など細かな条件があり、事前に確認しておかないとせっかくの機会を反映することができません。

また、認定言語聴覚士の資格取得後も5年を1クールとして更新が必要です。更新のためには5年の期限内に学会への参加や発表、認定領域に関する社会的貢献活動などの更新条件を満たす必要があり、申請を行わないと認定が取消となるため注意しましょう。

全国的に見て、まだ取得者の少ない資格ですので、不明確な点や疑問に感じる点は協会に確認するなど自身での情報収集が大切です。

5.認定言語聴覚士の取得状況

2008年度より認定言語聴覚士制度が始まり、2021年までに摂食嚥下障害領域394名、失語・高次脳機能障害領域311名、言語発達障害領域47名、聴覚障害領域65名、成人発声発語障害領域42名の総数859名が認定言語聴覚士と認定されています。

日本言語聴覚士協会の2021年会員数が19,789人であることから、認定資格を保有している会員はわずか約4%です。協会への入会は任意のため、実際にSTとして活躍している人数から考えると認定言語聴覚士の割合は、さらに低い数値となると考えられます。

高齢化やこども言語発達障害への早期介入など、社会的ニーズが高まっている現在、病院施設をはじめとした職場からは、専門性の高い知識・技術を持った貴重な人材として認められます。

6.まとめ

認定言語聴覚士はSTが専門とする分野のリハビリついて、幅広い知識と専門性の高い技術を持ち、患者様やそのご家族から深い信頼を得ることのできる資格制度です。資格を取得することで、スペシャリストとして信頼されSTとしての価値もあがります。

認定資格取得までの勉強期間も含め、貴重な経験であり、キャリアアップにもつながる良い機会になりますので、興味のある方は是非チャレンジしてみてください。

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【引用/参考サイト】
日本言語聴覚士協会HP
生涯学習プログラムについて
認定言語聴覚士講習会について

基礎プログラム
専門プログラム