これから言語聴覚士(ST)を目指す方やリハビリに携わる仕事を検討されている方の中には、STと理学療法士(PT)や作業療法士(OT)との違いや役割が気になる方も多いのではないでしょうか。

いずれもリハビリテーションに関係する職種ですが、これらの違いについて知る機会は少なく、言語聴覚士の視点で語られているものはほとんどないと思います。

今回は、そんなリハビリ職の違いを仕事内容や職場環境などから具体的にご紹介します。

とても簡単に説明すると、PTは立つ歩くなどの大きな動作、OTは生活にまつわる細かい動作、STは言葉と飲み込みを専門としていますが、少しずつ重なる部分もありますので、最後まで読んでみてください。

1.言語聴覚士(ST)と他のリハ職の基本的な仕事や役割の違い

まずは、それぞれの職種の特徴から基本的な違いについて確認していきましょう。

言語聴覚士(ST)の特徴

言語聴覚士とは、speech therapistの略で、言語(話す、聞く、読む、書く)や摂食・嚥下(食べる)に特化した専門職です。職場によっては、高次脳機能という注意や思考、認知など脳の働きに関わる評価やリハビリの中心を担うことも多いです。

他職種が患者様や利用者様と円滑なコミュニケーションをとれるよう、評価から得られた伝わりやすい声掛けの仕方や苦手なことなどを伝達、共有していく役割も担っています。

また小児領域では、構音障害や自閉症や発達障害のある子供に対して発達の評価や発達を手助けするような訓練も行います。

STのリハビリは患者様や利用者様とコミュニケーションがなにより重要ですので、静かな環境で実施する検査やリハビリが多く個室での仕事が中心となります。

もちろん、症状などに応じてベッド上で評価や訓練を実施することもありますし、大人数でのグループ訓練なども行いますので、状況に応じて対応する柔軟性も求められるでしょう。

では、作業療法士(OT)と理学療法士(PT)についても見ていきましょう。

作業療法士(OT)との違い

OTはOccupational therapistの略で、机上の課題や家事動作など様々な作業を通して、身体的または精神的に障害を抱える方に対して基本的動作能力、応用的動作能力、社会的適応能力の維持・改善を図り、その人らしい生活が出来るよう支援する専門職です。

STとの違いとしては、PTと同様に運動中心のリハビリであることが挙げられますが、OTはより日常生活により密着したリハビリを行います。

また、高次脳機能障害の評価や食事を摂る際の評価など、STと情報を綿密に共有して、リハビリを進めていく場面はPTより多いでしょう。

OTの訓練室もSTの個室とは異なり、テーブルと椅子が並べられた作業室のような場所が多く、病院などでは実際に調理動作や、洗濯の動作のリハビリをするために調理器具や洗濯機など部屋のようになっていることもあります。

理学療法士(PT)の特徴から考える言語聴覚士(ST)との違い

PTはphysical therapistの略で、病気や怪我などで身体的に障害のある方に対して、起きあがる、座る、立つ、歩くなどの日常生活に必要な基本的な動きの改善や維持を目的とした訓練を行う専門職です。

STとの大きな違いは、運動中心のリハビリであることです。評価も学校のテストのような検査用紙のみでなく、実際に自分の体を使って評価やリハビリを行うので、理学療法の知識や経験のほか、体力が重要になります。

また、足の骨折時の松葉杖や退院後の福祉用具の選定、手すりの設置など住環境の整備を行うのもPTの仕事です。

訓練室もSTとは異なり、多くの場合はジムのような運動室で、複数のスタッフがそれぞれの患者さまとリハビリに励みます。訓練内容によっては自宅を想定した環境を作って実践練習したり、気分転換を兼ねて外で屋外歩行訓練なども実施します。

2.人口や働く場所、将来性、給料、難易度の違い

やりがいはもちろん大切ですが、どんな職場で活躍できるのか、給料はどれくらいか、STの今後はどうなっていくと予想されているのか、各職種の難易度なども気になりますよね。

ここからは、そんな言語聴覚士(ST)を目指すにあたって気になるあれこれを、各協会のデータを踏まえながらご紹介していきます。

人口の違い

STの歴史はとても長いのですが、日本で正式な資格ができてからは日が浅く、言語聴覚士協会によると国家資格となったのが1997年、日本言語聴覚士協会が設立されたのが2000年であり、有資格者の数は2022年3月時点で約3万8千人です。

男女比は1:3で女性の方が多く、リハビリ室の配置人数としてはPT、OT、STの中では1番少なく、施設の規模にもよりますが10人未満がほとんどで1人職場となることも多いです。

一方で、理学療法士(PT)は1965年から国家資格として制定され、理学療法士協会によると2022年3月時点で約13万6千人が有資格者として登録され、STより約4倍弱多いことになります。

男女比は6:4で、STとは違い男性が少し多いですが、リハビリ室内での人数配置も多く、大学病院など大きな病院ではPTだけで50人を超えることもあります。

作業療法士(OT)もPTと同様に1965年から国家資格として制定され、2020年3月時点で9万4千人ほど登録しており、STの約2.5倍です。ただ、男女比は3:7とSTに近いです。

勤務先の違い

STが活躍する場所としては医療施設、高齢者介護福祉施設、子供の福祉・療育施設 教育機関などが挙げられます。

コミュニケーションや食べることを専門とするため、病院や高齢者介護福祉/保健施設への就職が大半を占めます。また、言語や発達に遅れが生じている子供を対象とすることもあり、子供の福祉・療育施設や、教育機関にも活躍の場があります。

PTは最も勤務先の種類は豊富で、STと同じく医療施設、スポーツ関連施設、高齢者介護福祉/保健施設などに加え、スポーツ関係の分野など活躍の場は広がっています。

OTもST、PTと同様に医療施設、高齢者介護福祉/保健施設、障害者福祉施設が主な就職先となっています。

ST、PTとの違いとしては、OTの仕事はメンタルケアなど精神分野にも関わるため児童養護施設、精神科デイケア、精神保健福祉センターなど、精神科病院施設で活躍するOTも多いです。そのほか、就労支援関係、支援学校、刑務所など活躍の場は広がっています。

将来性の違い

以前はリハビリ職の養成校が増えてくるにつれ、飽和状態になるのではとも言われていましたが、日本の高齢化はさらに進んでいくと考えられるため、リハビリ職の需要もまだまだ高まることが予想されます。

また、前述したように医療と介護の分野以外にも活躍の場が広がってきているので、PTOTST関係なく将来性もある職種だと考えられます。

給料の違い

リハビリ職は、給与調査において一緒に集計されることが多く、求人情報を見ても職種による大きな違いはありません。

厚生労働省の令和3年賃金構造基本統計調査によると平均年収は400~500万ほどで、キャリアアップを重ねて経験が増すごとに、給与も上がっていく傾向にあります。

難易度の違い

各職種の過去5年間の国家試験合格率についてご紹介します。

・言語聴覚士(ST)
第25回(2023年)は67.4%、第24回(2022年)は75.0%、第23回(2021年)は69.4%、第22回(2020年)は65.4%、第21回(2019年)は68.9%、過去5年間の平均は69.2%となっています。

・作業療法士(OT)
第58回(2023年)は83.8%、第57回(2022年)は80.5%、第56回(2021年)は81.3%、第55回(2020年)は87.3%、第54回(2019年)は71.3%、過去5年間の平均は80.8%となっています。

・理学療法士(PT)
第58回(2023年)は87.4%、第57回(2022年)は79.6%、第56回(2021年)は79.0%、第55回(2020年)は86.4%、第54回(2019年)は85.8%、過去5年間の平均は83.6%となっています。

国家試験合格率だけで見ると、過去5年間の平均合格率はSTが最も低くなっていることから最も難易度が高いといえます。しかし、あくまでも国家試験合格率だけの話ですので、各職種の仕事内容や国家試験出題範囲への感じ方には個人差があるでしょう。

3.言語聴覚士(ST)は専門性を活かした開業が可能

STと理学療法士(PT)や作業療法士(OT)との大きな違いとして挙げられるのは、PTとOTが行うリハビリは医師の指示が必要であるのに対し、STの一部の業務(言語訓練、構音訓練)は医師の指示なく実施可能な点です。

STは言語訓練や構音障害に特化したものであれば、独立して施設を開業することができます。

ただし、STのみでは保険請求が出来ないため、医師の指示を必要としない業務での「完全自費診療のリハビリ施設」や「セミナー主催会社」など限られた仕事になり、これらはSTの資格を持っていなくても開業可能です。

4.どの職種で働こうか迷っている人へ

この記事を読んでいる人の中には、リハビリの仕事に興味を持ってはじめて、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)の3つの分野があるということを知った方も多いと思います。

職種の選び方は人それぞれですが、PTが専門とする「散歩などの運動」、OTが専門とする「趣味活動や仕事」、STが専門とする「話すことや食事」の3つの中であなた自身が好きなもの、リフレッシュする時には「これをしたい!」と思えるものを選ぶと良いと思います。

患者様や利用者様の症状やニーズに合わせてリハビリの内容は変わりますが、毎日の仕事になるため、自分も楽しめる分野のほうが、「こんな風にしたら楽しんでもらえるかな?」とアイデアが出たり、患者様や利用者様との信頼関係も築きやすくなったりするように思います。

また、養成校のオープンキャンパスや施設などで実際にどのような働きをしているのか見て、チャンスがあれば話を聞いてみるのもおすすめです。

どの職種も臨床では毎日が新しいことの発見と勉強の繰り返しで、とてもやりがいのある仕事です。あなた自身のやりたいことや性質と向き合って、じっくり考えてみてください。

5.まとめ

今回は、現役言語聴覚士(ST)が考える理学療法士(PT)と作業療法士(OT)の違いについてご紹介しました。

リハビリと一言でまとめられてしまうことも多いですが、PT、OT、STはそれぞれの専門性を深めつつ、協力しながらよりよいリハビリを提供できるように日々努力しています。

これまで病院に行っても気付かなかったかもしれませんが、総合病院などでは院内の歩行訓練をしていたり、実はあちらこちらでリハビリの風景を見たりすることができますので、この機会にリハビリの世界を少し覗いてみてください。

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【参照URL】
言語聴覚士とは | 一般社団法人 日本言語聴覚士協会
日本理学療法士協会_統計情報
会員統計資料(『日本作業療法士協会誌』第102号:2020年9月15日発行pp.5-18)
令和3年 賃金構造基本統計調査 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
令和3年 賃金構造基本統計調査 【参考】職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)(役職者を除く)
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令和3年 賃金構造基本統計調査 職種(小分類)、年齢階級、経験年数階級別所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
賃金構造基本統計調査 職種別第2表
第25回言語聴覚士国家試験の合格発表について
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