言語聴覚士(ST)を目指している方の中には、STがどんな職場で活躍しているか知りたい、自分にはどんな職場が合っているのか知りたいという方も多いのではないでしょうか。

一般的に「リハビリ」と聞くと病院でのリハビリを想像することが多いですが、最近では認知症高齢者の増加や発達障害への注目、こどもの言語障害・学習障害への早期介入などもあり、以前よりも身近な場所でも活躍しています。

今回は気になるSTの就職先や施設形態別の選び方について解説します。是非参考にしてみてください。

1.言語聴覚士(ST)の約3割が医療機関以外に就職

日本言語聴覚士協会によると令和4年4月1日現在の会員STの就業先として一番多く選択されているのが医療分野で全体の67%を占めており、次いで老健・特養20.2%、福祉7.3%となっています。

同じリハビリ職である理学療法士(PT)の医療機関就業率は令和4年3月末で70.2%、作業療法士(OT)では令和2年3月末で76.8%とSTに比べ高く、3部門の中ではSTが医療機関以外の分野でも多く活躍しています。

STが医療の現場以外でも多く活躍している背景としては、幅広い専門性と高齢化による需要の増加、小児分野での需要の高まりなどが挙げられます。

介護分野を例に挙げると、老人介護施設を利用している方の中には、加齢に伴う口腔機能の低下によって引き起こされる摂食嚥下障害や発話明瞭度の低下、老人性難聴によるコミュニケーションの難しさ、認知症など様々な問題を抱えている方が多くいます。これらの問題に対してアプローチをしていくのが、介護分野でのSTの役割です。

小児分野ではことばの遅れや発達障害などに対してアプローチしていきます。最近では児童発達支援センターのほか、放課後デイサービスなどでもSTがいる施設が増えてきており、関わり方の指導や学校生活をスムーズに送るための情報共有などを担っています。

2.言語聴覚士(ST)の就職先と仕事

STが活躍できる場は病院をはじめとして、介護保険施設、小児、一般企業など多岐にわたります。それぞれの具体的な職場と仕事内容についてみていきましょう。

病院施設

STの就職先として1番多いのが病院です。病院にも種類があり、施設によって業務内容や対応する患者様の疾患が異なります。STとかかわりの深い4種類の病院をあげてみました。

①.急性期病院

発症間もない患者様の評価・リハビリを行います。血圧管理やリハビリの制限などリスクが高い患者様が多く短期間での転院・退院となるため、多くの患者様と関わることになります。

院内勉強会をしている病院も多く、勉強や初期評価の経験を積みたい方におすすめです。高次脳機能障害、発声・構音障害、摂食・嚥下機能障害の評価・リハビリ、自宅に帰る方には在宅の過ごし方についての助言を行います。

②.回復期病院

回復期病院では、急性期病院から直接家に戻ることが難しい患者様の機能回復を図ります。1~3ヶ月程度の期間、理学療法士・作業療法士とともに毎日リハビリを行うため、チーム医療や患者様の変化を実感できる機会が多いです。

患者様とじっくり向き合うことができ、患者様の生活背景や住環境なども含めたリハビリの検討をしていきます。患者様の生活に寄り添ったリハビリに携わりたい方におすすめです。

③.神経内科

パーキンソン病や脊髄小脳変性症など神経難病の方に積極的にリハビリを行う現場です。神経内科は進行性の疾患をお持ちの患者様であることが多いので、進行状況に応じたリハビリを提供します。

摂食・嚥下機能、発声発語機能に対してアプローチを行い、代替コミュニケーション手段の習得などもサポートします。入院している方や外来でいらっしゃる方にリハビリを行います。

④.物忘れ外来

ドクターの指示のもと、神経心理学検査を行い認知機能の状態を調べます。

検査を実施する機会が多く、軽度認知障害の方からアルツハイマー型、レビー小体型など様々な認知症の患者様に出会います。認知症の評価・リハビリ・家族への助言を行います。

介護保険施設

介護保険施設とは介護保険サービスの一種で、要介護認定を受けた方が利用できる居住型の介護施設のことです。

高次脳機能障害、発声・構音障害、摂食・嚥下機能障害の評価とリハビリが主な業務になりますが、目的や入居条件によっていくつか種類が分けられます。ここでも主なものを4つ見ていきましょう。

①.特別養護老人ホーム

俗に「特養」と略される施設です。要介護3~5の方が利用できる施設で、原則として終身に渡り入居が可能です。

特養でのリハビリは安全に日常生活が過ごせることを目的に関わるケースが多いので、誤嚥性肺炎を起こさないための評価とリハビリ、認知機能や発話機能維持のサポートをします。

また、嚥下体操などリハビリを日常の活動の中に取り入れるなど、日常生活に沿ったリハビリを提供します。

②.介護老人保健施設

「老健」と略される施設で、介護や看護、医師サポートを受けながらリハビリをして在宅を目指します。

基本的に利用者は3~6か月しか利用できないため、基本的なリハビリに加え、ご家族や介護に関わるスタッフに対して、機能維持に必要な口腔運動や意思疎通しやすいコミュケーションの方法など、在宅生活に必要な助言・指導を行います。

③.介護療養型医療施設

介護療養型医療施設は、急性期疾患から回復期まで医学的管理下のケアやリハビリが中心の施設です。

介護サービスではありますが、あくまでも医療機関という位置付けで、心身の状態が改善した場合は退所を求められる場合もあります。誤嚥による肺炎など全身状態が低下しないために口腔ケアや嚥下マッサージなどのリハビリを実施します。

④.サービス付き高齢者住宅

いわゆる「サ高住」は介護保険ではなく民間運営の施設ですので、日常生活が自立~要介護3程度の利用者様が対象となり状態が落ち着いている方が多いです。

軽度の利用者様が中心で集団訓練などゲーム的要素を取り入れた訓練や、食事場面や面談での本人の様子と家族の情報などから機能に変化がないかなどの評価と情報共有を行います。

訪問型サービス

訪問型のサービスは大きく分けて「訪問看護ステーション」と「訪問リハビリ」の2種類があります。どちらも自宅でのリハビリ提供となりますが、運営と介入の目的などに違いがあります。

①.訪問看護ステーション

「訪問看護」によるリハビリテーションを行います。利用者様ごとに主治医から指示をもらい「看護師の代行として訪問リハビリを実施する」という業態です。そのため、看護師が事業所内に必ず配置されていますが、医師は必須ではありません。

看護を目的として、食事やコミュニケーションなどリハビリを通じて患者様やご家族にとって穏やかな時間を過ごしてもらうなど、生活に寄り添ったリハビリを提供します。

②訪問リハビリ

訪問リハでは「医療機関」による訪問リハビリを行います。同事業所内にドクターがいて、その指示のもと訪問リハビリを実施します。

リハビリを目的としているため、機能回復・維持のためのリハビリや在宅から社会復帰を視野に入れたリハビリなど、本人とご家族のニーズに合せた目標を設定してリハビリを実施します。

通所サービス

介護保険のサービスで、通いで来られる利用者様が対象です。代表的なデイサービスとデイケアについて見ていきましょう。

①デイサービス(通所介護)

介護保険のサービスで、半日あるいは一日施設滞在して入浴や食事などの介護サービスを提供します。

リハビリテーションではなく「機能訓練士」という形で機能訓練を行い、高次脳機能障害、発声・構音障害、評価とリハビリを行います。重度の摂食・嚥下機能障害の方は少ないです。

②デイケア(通所リハビリテーション)

デイサービス(通所介護)と似ている名前ですが、利用者様の目的が介護を受けることではなく、リハビリを受けることが目的の施設です。

デイサービスと同じリハビリを提供しますが、デイケアにはリハビリ専用の設備や部屋が用意されています。

小児に関する施設

小児は最近、需要が増えてきている分野です。病院やクリニックもあれば、児童福祉施設もあります。

①.小児病院/クリニック

小児の言語聴覚療法(言語発達遅延、難聴、口蓋裂、構音障害、摂食・嚥下機能障害などの評価訓練)と家族指導を行います。

聴覚検査業務を行う病院もあります。

②.児童発達支援センター

児童福祉法で児童福祉施設に定義されている施設です。地域の中核となる障害児の専門施設として、障害の種別に関わらず適切な支援を受けられるよう質の確保を担っています。

児童の個別活動や集団活動を通じてのリハビリ(言語、聴覚、摂食・嚥下分野)、行事の計画や運営、保護者へのフィードバックとアドバイスを行います。

③.児童発達支援事業所

児童発達支援事業所障害のある、未就学の子どもが身近な地域で発達支援を受けられる施設です。

業務内容は児童発達支援センターと同じですが、通所しやすいようできる限り身近な地域に多く設置し、量の拡大を図る意味で設けられているのが違いです。

④.放課後等デイサービス

就学後~高校生までの障害や発達に特性のある子どもが、放課後や長期休暇に利用できる福祉サービス施設です。

授業やワークショップの運営と親御様との面談、学校の学習のサポート、個別の支援計画の立案などを行います。

教育関連や一般企業

大学、専門学校など養成校の教員のことで、専門領域科目やキャリア支援の授業担当、クラス担任や学生対応、学校行事、学生募集に関わるオープンキャンパスなどのイベント運営、相談対応などを行います。

また一般企業では、補聴器や人工内耳の会社や嚥下食の開発メーカーのほか、最近では高齢者をターゲットにした介護福祉用品の会社など、一般企業でもSTを積極的に採用している会社が増えてきています。

3.言語聴覚士(ST)に求められるスキルとキャリアプラン

STは話す、聴くなどのコミュニケーションや食べる事のスペシャリストと称されることが多いですが、詳しく分類してみるとSTが専門と「言語・認知」「発声・発語」「聴覚」「摂食・嚥下」に分けられます。さらに年齢層に合せて「小児」「成人」と対象を分けている施設もあります。

日本言語聴覚士協会の調査によると会員が対象としている障害として多いのは「成人」の「言語・認知」「摂食・嚥下」「発声・発語」でほぼ同数となっています。

成人を対象とした施設(病院などの医療機関、老人介護施設など)では、脳血管障害による高次脳機能障害・片麻痺のような障害を持つ方や、老化に伴う認知症・口腔機能の低下がある方がSTの対象となります。

「発声・発語」と「摂食・嚥下」は、同じ口腔器官で行われるものですので、両方に問題が生じている場合が多くなります。また、失語症や注意障害、認知症など脳に関わる部分も「言語・認知」の面で共通しているため、同じようにSTの専門的なフォローが必要となります。

成人分野においては「言語・認知」「摂食・嚥下」「発声・発語」全般に関する評価・訓練のスキルが必要であり、それらの臨床経験があれば医療・介護など分野に関係なく、自身のキャリアとして活かしていくことができます。

成人に比べると少数にはなりますが、小児の分野でもSTは活躍しています。小児の場合、大きく分けて「言語・認知」と「聴覚」の2つの分野に分けることができ、「言語・認知」の分野で活躍しているSTが多いとされています。

小児分野では特に言語発達障害、構音障害など言語獲得のための評価・訓練に関するスキルが必要とされています。成人とは異なり、言語獲得期のこどものサポートとご家族や幼稚園・保育園・学校などとも連携をとっていきます。

最近は児童発達支援センターや放課後デイサービスなど病院以外の場所でSTを配置している施設が増えてきており、今後さらに活躍の場が広がっていく可能性があります。

4.働く場所はキャリアプランで考える

職場を決める方法はいくつかありますが、「将来どのように働きたいか」「自分がなりたい言語聴覚士(ST)像を目指す」を念頭において考えることをおすすめします。

具体的な例をあげると、将来小児の言葉の教室を開く目標があるのならば、小児の病院やクリニックで医学的な治療法やドクターと関われる環境で経験を積み、児童発達支援事業所で多くのお子さんや家族に触れ、実際に言葉の教室のベンチャー企業で立ち上げ方を学ぶ。というキャリアプランを計画することができます。

明確なキャリアプランがない、興味のある分野や自分の向き不向きがまだわからないという場合には、今やりたい仕事という観点で職場を選び、働いていくなかでキャリアプランを考えていくというやり方もあります。

それでも施設選びやキャリアをベースに考えるのが難しい場合は、患者様の年代や関わり方、勤務体制の理想を突き詰めていく方法があります。自分の希望条件や避けたい条件を転職エージェントに伝えることで、マッチしそうな職場を紹介してもらう方法もありますので、うまく活用していくと良いでしょう。

PTOT人材バンクは将来のキャリアアップを考慮した上での転職サポートも行っておりますので、キャリアパートナーに遠慮なくご相談ください。

5.まとめ

今回は、言語聴覚士(ST)の就職先や施設形態別の選び方について解説しました。STは専門分野の幅広さから、職場の選択肢も多くあり、どの職場が自分に合っているのか迷ってしまう場合もあるかと思います。

今後のキャリアに繋がるしっかりとした目標があると、日々の臨床でも達成感や充実感を得ることができますので、職場を決める際に、給与などの条件だけでなく、将来的に自分が理想とするST像や働き方についても考えてみてください。

自分に合った就職先を見つけてもらいませんか

関連記事

言語聴覚士(ST)の勤務先や選び方に関するおすすめ記事をご紹介。

【参照サイト】
日本言語聴覚士協会HP
会員動向(令和4年4月1日現在)
就業状況と勤務先
会員が対象としている障害

日本理学療法士協会HP
統計情報 会員の分布

日本作業療法士協会HP統計情報
場所:2019 年度 日本作業療法士協会会員統計資料