言語聴覚士(ST)の勤務先は、医療分野、福祉分野、学校教育など様々ありますが、その中でも医療施設で働く方が多いため、他の分野でSTに求められる役割や働き方をイメージすることが難しい方も多いと思います。

今回は、STが働く場所としては、まだまだ少数である病院以外の勤務先について、大まかな特徴を挙げ、医療施設以外で働く意義をまとめてみました。

転職活動を行う際には、病院以外の勤務先にも目を向けてみるとで、ご自身の希望に合う働き方や、今までのキャリアを活かせる場所が見つかるかもしれません。

1.病院以外で働く言語聴覚士(ST)は4人に1人

日本言語聴覚士協会によ所属している会員にはなりますが、医療施設で働く割合は約75%であり、医療施設以外で働くSTは約25%とまだまだ少数であることが分かります。

医療施設74.4%
医療施設以外25.6%

※2021年3月時点

2.医療施設以外の職場一覧

それでは、医療施設以外で働く言語聴覚士(ST)の勤務先にはどのような施設があるのでしょうか。

先ほどの日本言語聴覚士協会の調査によると、老健・特養が12.1%と約半数を占め、次に福祉、学校教育、養成校、研究・教育機関と続きます。

施設の特徴比率
老健・特養12.1%
福祉7.5%
学校教育1.9%
養成校1.5%
研究・教育機関1.2%
その他1.4%

※2021年3月時点

3.各施設で求められる仕事とは

ここからは、各施設で言語聴覚士(ST)に求められる仕事内容や給与について具体的に見ていきましょう。

老健・特養では嚥下と連携

介護老人保健施設(老健)や特別養護老人ホーム(特養)は、どちらも介護保険を利用した入所(一部は通所も併設)施設であり、主に高齢者が対象となりますが、老健は在宅復帰を目指したリハビリ施設、特養は機能維持や減退防止を目指してリハビリをしながら生活するという点で異なります。

施設名リハビリ目的
老人保健施設居宅生活への復帰
特別養護老人ホーム機能維持や減退防止

基本的なリハビリ内容は、「言語障害」「聴覚障害」「摂食・嚥下障害」ですが、在宅復帰を目指す老健では安全に栄養摂取できることがかかせません。一方で、特養では肺炎を予防しながら長期的な健康長寿を支えるために、摂食・嚥下リハビリテーションでの活躍が特に期待されます。

また、これらの職場ではリハビリ職員が少ないため、実際に介護や看護を行う職員との連携が重要です。

土日祝日が休みにも関わらず、言語聴覚士の平均的な給料またはやや高めの施設が多いです。

福祉施設では幅広い業務内容

福祉の現場でもSTの活躍する場所が多数あります。小児は発達支援、成人は在宅生活を送っている方への支援を行う機関でSTが活躍しています。

小児肢体不自由児施設、重症心身障害児施設、放課後等デイサービス、療育センターなど
成人デイケアなどの通所施設、訪問リハビリ事業所、障がい者福祉センター、就労支援施設など

小児を対象とした施設では、言語・コミュニケーションの面に加えて子どもの全体的な発達を促すために、個別・集団リハを取り入れていることが多く、言語発達に関する専門的な助言と共にグループ訓練を行うことが期待されます。また、家庭環境も重要なため、親御さんへの指導が鍵となります。

成人を対象とした施設では、機能訓練の枠にとらわれず、個々の利用者さんのニーズを的確にとらえてその問題を解決すること、またそれを実現するために多職種との連携が重要になります。

給与は運営母体により異なり、公立の施設では平均よりも高い傾向にあります。その他の施設はSTの平均的な給料ですが、訪問リハビリ事業所ではインセンティブを取り入れることで平均よりも高い給与水準となる施設が多いようです。

学校教育では言語指導や聴覚活用

小・中学校の特別支援学級や特別支援学校やことばの教室で働くなど学校教育に関わる仕事もあります。児童や生徒の言語力の形成、意思疎通やコミュニケーション、学校への適応を促すため、個別訓練に加えてや学級全体に対する指導や教師への助言などを行います。

特に、教育業界の中では数少ない医療資格として、医学的側面からの専門性をもって対応し、学習や生活に必要な支援と環境調整を行うことが期待されます。

なお、言語聴覚士資格のみで勤務可能な施設もありますが、小・中学校における特別支援学級及び特別支援学校で言語聴覚士が働く場合は教員免許も取得している必要があります。

学校で働く場合の給与は、自治体ごとの教職員に対する給与体系に準じます。

養成校なら得意分野を生かした後進育成

言語聴覚士の養成校で教員として働くこともできます。

養成校で働く場合は、言語聴覚士を目指す学生に対して、国家資格取得に向けた講義、臨床実習、試験対策などに加え、学生指導や広報などの学校に関する幅広い業務が仕事となります。

また、養成校の付属機関や以前の勤務先で臨床や研究を行う教員が多いようで、自分の得意分野や専門性を生かして後進育成する能力が求められます。

平均的な言語聴覚士の給料より少し高めの設定になっている施設が多いようです。

研究・教育機関は研究実績が必要

大学や大学院などで主に研究や研究指導などを行うSTもいます。

博士の学士を有している者、あるいはそれと同等の研究実績があるなど、相当の専門性が必要ですので、求人情報を見つけるのも大変です。気になる方はPTOT人材バンクのような転職エージェントを活用して探すことをおすすめします。

4.医療施設以外で働く意義

病院以外で言語聴覚士(ST)が働く施設をご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。

多様な働き方がある中で、医療施設以外で働くことの意義について4つ整理しましたので、最後に考えてみましょう。

①.需要がある

特に慢性期における需要は高く、訪問リハビリ事業所などの在宅分野、老健・特養などの高齢者施設では、高齢者の死亡原因として肺炎の割合が増加している背景もあり、その予防や改善に対して摂食・嚥下に対するリハビリテーションの需要が多くあります 。

また、コミュニケーション障害を持ちながら在宅生活を送る方々にとっては、障害の理解を得ながら暮らしていくのにはまだまだ多くの障壁がある状況です。

病院勤めの方の中には、退院後のフォロー先を探す際に、地域生活におけるST不足を実感することもあるのではないでしょうか。

②.医療施設での経験を活かせる

医療施設では複数のSTや他のリハ職と共に業務に取り組むことがほとんどですが、医療施設以外ではSTが1人であったり、リハビリ職員が自分のみということもあります。

多職種と協働して試行錯誤することになるため、医療施設での経験を積み、STとしての基礎を身に着けてからこそ挑戦できる分野も多く、やりがいを感じられます

③.ワークライフバランスの向上&給与upの可能性も

医療は365日体制ですので、土日祝日も交代で出勤し、単位のノルマや勉強会、症例発表の準備など、目まぐるしい生活を送っていらっしゃる方も少なくありません。

医療施設以外では、平日のみ、残業はほとんどないという施設も多く、勉強や趣味の時間を確保したり、子育てしながらも働きやすい場所などが多いです。また、STに対する需要が高い訪問リハビリ事業所や老健・特養などの高齢者施設では、給与水準が医療施設よりも高い傾向にあります。

④.幅広い経験でSTとしての経験値もup

病院の外へ出て様々な職種や利用者さんと出会うことで総合的な知識や技術を身につけることができ、STとしてのキャリアアップができます。

そして、その経験値は医療現場で働く際の強みとなります。

5.まとめ

言語聴覚士(ST)によるリハビリを必要とする施設は様々あり、働き方も多岐にわたります。また、診療報酬や介護報酬などの改定により、STが活躍できる内容や求められる姿も変わり続けていくことでしょう。

転職活動の際には、病院以外の勤務先にも目を向けてみることで、ご自身の可能性や将来のイメージを広げられることもあると思います。

是非、今回の記事を参考に、ご自分にあった職場を探してみてください。
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【参照サイト】
会員動向 | 日本言語聴覚士協会について | 一般社団法人 日本言語聴覚士協会
https://www.japanslht.or.jp/about/trend.html