高齢化が加速する日本において、障害や疾病を抱える高齢者がいつまでもその人らしく暮らすため、適切な医療・介護サービスに関する調整が行われています。

その中で高齢者のリハビリを担当する機会が多い言語聴覚士(ST)には何が求められているのでしょうか。

今回は、高齢者を対象とする際のSTの役割についてまとめてみたいと思います。

1.言語聴覚士(ST)の高齢者への向き合い方

STは、言語・コミュニケーション、摂食嚥下などのリハビリを通して、その機能や能力を改善させ、社会参加を促進させる役割を担っています。

高齢者に対しては更に、加齢による影響を考慮することが大切で、難聴やフレイル、低栄養、活動量の低下などの身体的・環境的要因や、介護者や家族状況などをトータルに評価し続け、ゴール設定を更新していく必要があります。

さらにはそのゴールを達成するために、地域社会資源を活用して高齢者のコミュニケーションと食事を支えるコーディネーターとしての役割も、STに求められるようになってきています。

2.高齢者に対して言語聴覚士(ST)が求められる役割

STが高齢者を対象とする際の具体的な役割についてみていきましょう。

聞こえの障害に対する働き

加齢による難聴は進行が緩やかなため自覚が乏しく、家族など周囲からの理解も得られにくいため、高齢者の難聴は放置されがちです。

しかし、難聴によりコミュニケーションが少なくなり、社会との関わりが減少することで、認知機能に影響がでる可能性があることは、広く知られています。

STは、聴力、言語機能、認知機能を評価し、対象者のコミュニケーションをトータルで把握できる強みがあるため、補聴機器の適用、効果に加え、価格や購入方法などの知識を持つことで、個人の状況に合わせた聴覚保証方法を提示する力が求められます。

近年では、介護老人保健施設入所者に高率で難聴が合併していることが報告されており、STによる聴覚障害へのアプローチが、医療、保健、福祉の各領域で積極的に展開されることが期待されています。

言葉の障害に対する働き

高齢者が失語症になった場合には、言語症状に加えて脳損傷による発動性の低下、興味関心の広がりの低下、また運動障害の合併などが生活に大きく影響を及ぼすことがあります。

家庭に閉じこもってしまうことも少なくないので、STが失語症友の会や地域資源を紹介し、環境を整えることで、高齢の失語症者が社会参加できるよう促すことが必要です。

摂食嚥下障害に対する働き

高齢者は、摂食嚥下関連器官の形態的・機能的変化や摂食嚥下中枢の神経や抹消神経の変化などが起こりやすく、若年者に比べて嚥下機能の予備力(余裕をもってできる能力)が低下します。

また、活動量減少や低栄養により、虚弱状態(フレイル)や筋肉量減少症(サルコペニア)になりやすいので、運動や栄養管理による嚥下障害の予防も重要なリハビリの一つとして位置付けられます。

食事を用意するご家族も高齢である場合も多いため、ご家族の介護力を考慮して食事形態を設定したり、配食サービスを導入するなど、ご家族単位でのきめ細やかな支援が必要になります。

認知機能の障害に対する働き

認知症のリハは、機能低下を遅らせ、生活の質を維持することが目的となります。服薬や環境調整が主になりますが、STとしてはコミュニケーションや嚥下機能をできるだけ維持できるよう、予防的な対応を指導します。

各病期によって必要となる支援が変化していく上に、摂食嚥下の問題が出てくることも珍しくないため、継続的に支援できる体制が理想となります。

3.超高齢社会で求められる言語聴覚士(ST)像

2025年には団塊の世代が75歳以上となり、高齢者に対するリハビリの需要が高まり続けると考えられます。

2021年4月に行われた介護報酬改定では、介護老人保健施設において、ST、PT、OTの3職種を配置することが評価指標の一つとなり、今後はさらに介護保険サービスにおける言語聴覚療法の提供体制が強化され、STの役割が拡大していくことでしょう。

摂食嚥下機能を高めることは、健康寿命の伸延につながり、コミュニケーション支援は社会性の維持とともに意欲や自立心を向上させる効果が期待できるとされています。

超高齢社会の中で、STも食事やコミュニケーションに関する継続的な支援を地域社会と共に支えていく役割が求められると考えられます。

4.まとめ

今回は、高齢化社会における言語聴覚士(ST)の役割についてまとめてみました。

「コミュニケーション」と「食事」は、人の生活の質を大きく左右し、高齢者のリハにおいては加齢による変化や予備力の低下に対応する必要があります。

そのためSTは、一時点での機能や能力低下に対する訓練にとどまらず、長いスパンで必要な支援についても考える力が求められます。

STの勤務先は医療施設が多い現状ですが、今後はさらに活動範囲を広げて、地域の中で高齢者を支える役割も果たしていきたいものです。

今回の記事が皆さんの職場選びの参考になると幸いです。
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参照文献
言語聴覚士テキスト第3版
日本言語聴覚士協会「ST AND UP」2021年第53号
テクノエイド協会「福祉用具シリーズ vol.19」