介護老人保健施設(老健)は、医療・看護・介護・リハビリテーション・栄養管理などを通して要介護者が安心して在宅生活を送れるよう支援する施設です。2021年の専門職配置加算が改定されたことにより言語聴覚士(ST)への需要が高まりつつあります。

今回は、老健でのSTの仕事内容とその魅力についてまとめてみました。

高齢者と向き合うその他の施設との違いについても触れていますので、老健への就職を考えている方はご参考になさってみてください。

1.介護老人保健施設(老健)とは

全国老人保健施設協会によると、介護を必要とする高齢者の自立を支援し家庭への復帰を目指すために、医師による医学的管理のもと、看護・介護はもとより、リハビリテーション、栄養管理・食事・入浴などの日常サービスまで併わせて提供する施設が老健です。

2017年交付介護保険法第8条には、

居宅における生活を営むための支援を必要とするものに対し

という文言が明記され、在宅支援・在宅復帰を目的とした地域拠点としての位置づけが強化されました。そのため、通所リハ、訪問リハを併設する施設が多く、STが活躍する幅も広がっています。

また2021年の介護保険法の改定により、老健におけるリハビリテーション専門地域拠点として、専門職配置にPT/OT/STの3職種が配置されることによる加算も設けられたため、老健でのSTの需要はますます高まってきています。

2.介護老人保健施設(老健)での仕事

まずは、言語聴覚士(ST)が老健でどのように働いているのかみていきましょう。

言語聴覚士(ST)の基本的な仕事内容とスケジュール

STの仕事内容は、主に個別訓練や集団訓練における言語療法で、施設によってはデイケア利用者や訪問リハビリも担当します。

リハビリ対象は、摂食嚥下、失語・構音障害が主になりますが、認知症や高次脳機能障害などの広義のコミュニケーション障害へも対応します。

老健におけるSTのスケジュール例

時間業務内容
08:30~09:00リハビリ科朝礼
09:00~12:00入所/通所リハビリ
12:00~13:00昼休憩、昼食評価・介助
13:00~16:30入所/通所リハビリ、時折訪問リハビリへ
16:30~17:30カルテ記入、書類作成

また、入所者への個別・集団訓練はPT・OT・ST合計で週に2回(早期加算時は週に3回)程度にとどまるため、適切なコミュニケーション手段や安全な食事方法・誤嚥性肺炎の予防などについて、多職種や家族へ理解してもらうことも大切な仕事です。

老健の特徴と言語聴覚士(ST)の役割

家庭復帰を目標とする老健では、安全な栄養摂取方法を確立する必要性があるため、STのリハビリ内容も摂食嚥下に対する需要が高いです。

病院のように嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査を行える老健はほとんどないため、嚥下に理解のある歯科医院の往診などを積極的に導入するなどの行動力が求められることもあります。

また、コミュニケーション障害のある患者様には、入所中にも適切な言語刺激が持てるように配慮・工夫する役割も期待されます。

老健で働く魅力は、デイケア(通所リハビリ)や訪問リハビリ事業所を併設している施設が多いため、退所後にも引き続き利用者さんの生活を支える機会があることだ、私は感じています。

また、入所利用者に対してはスケジュールを柔軟に調整できるため、医療施設に比べて休みがとりやすい印象です。

一方で、自宅復帰を目的とした施設ではありますが、現実的には長期入所される方も少なくなく、リハビリの目標を更新しにくいという難しさもあります。

3.高齢者と向き合うその他の施設と老健の違いとおすすめ

言語聴覚士(ST)が高齢者と向き合う施設は他にもあります。老健との違いを簡単にまとめてみたいと思います。

特別養護老人ホーム(特養)との違い

介護保険を利用した入所施設は、老健の他に特養があります。日常的な介護を必要とする高齢者(要介護3以上)に、介護と生活援助サービスを提供する入居施設で、いわゆる終の棲家としての役割も担います。

そのため、リハビリも機能低下の予防を目的とし、安全に健康的な生活を継続できるような関わりを提供します。

老健では多職種協働でリハビリテーションを必要とする高齢者の自宅復帰を支援しますが、特養でのリハビリは介護の補助的な側面が強くなります。

生活期のリハビリを通して利用者様の心身機能を維持向上させ在宅生活を支援したい方は老健、生活の場での高齢者の生きがいや健康維持をサポートしたい方は特養での勤務がおすすめです。

回復期リハビリテーション病院(回復期病院)との違い

回復期病院は高齢者に対するリハビリの中核で、障害を負った方が自宅や社会へ復帰するための集中的で専門的なリハビリテーションを行います。

老健も回復期病院のように他職種が協働して自宅復帰を目標にするという点で似た機能を持っていますが、利用する病期や施設の規模、リハビリテーションの頻度などが大きく異なります。

地域の中で生活全般を支えたい方や病院を経験して生活期を学びたい方には老健、医学的知識やリハビリテーション手法、チームアプローチをしっかりと学びたい方や回復期病院での勤務を選択すると良いでしょう。

デイケア、デイサービス(通所リハ、通所介護)との違い

デイケアやデイサービスは、医療施設退院後や認知症などの発症、老健の退所後にも利用する通所施設です。

自宅で暮らす要介護者のリハビリと介護を行い、心身機能を維持向上させることで在宅生活を支えます。在宅で介護される方が安心して自分の活動ができるように、要介護者の日中の居場所としての役割も持ちます。

デイケアやデイサービスなどを利用しながら自宅で生活している利用者が、加齢や新たな疾病のために在宅生活が難しくなった場合には、老健に入所して短期集中リハを行うことにより自宅復帰を目指すこともあります。

先にも述べましたが、そうした役割を担うことから、老健にデイケアが併設された施設もあります。入所を含めた生活期のリハを行い方は老健、自宅で過ごす利用者様を支えたい方はデイケア・デイサービスがおすすめです。

5.まとめ

今回は、老健での言語聴覚士(ST)の役割と働き方についてまとめてみました。

老健は要介護者にとっての地域リハビリの中核拠点としの役割を持ち、STに寄せられる期待も大きくなってきています。

今回の記事を参考に、老健での勤務に興味を持っていただければ幸いです。

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【引用サイト】
全国老人保健施設協会「期待される老健の役割

【参照サイト】
全国老人保健施設協会「老健とは」