病院に勤務する言語聴覚士(ST)は、主に脳血管疾患等リハビリテーションと廃用症候群リハビリテーションを担当します。

厚生労働省の診療報酬算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項によると、廃用症候群リハについて次のように言及されています。

”廃用用症候群リハビリテーション料の対象となる患者は、急性疾患等に伴う安静(治療の有無を問わない。)による廃用症候群であって、一定程度以上の基本動作能力、応用 動作能力、言語聴覚能力及び日常生活能力の低下を来しているものであること”

実際にSTが担当するのは、安静臥床状態であった高齢者の摂食嚥下に対するニーズが多く、多職種との連携が非常に重要です。
 
今回は、廃用症候群リハビリテーションにおけるSTの役割についてまとめてみたいと思います。

1. 言語聴覚士(ST)に廃用症候群リハビリテーションで求められる役割

言語聴覚士テキストによると、廃用症候群は次のように定義されています 。

廃用症候群は、廃用、すなわち安静臥床や不活動状態が持続することにより引き起こされる病的状態の総称である。廃用症候群には筋委縮、骨委縮、起立性低血圧、運動能力の低下をはじめとして種々の症候がふくまれる。

STが行う廃用症候群リハビリテーションは、肺炎などの呼吸器感染症や手術後の安静臥床を原因とした摂食嚥下障害・認知機能障害の患者さま、または失語症などのコミュニケーション障害をお持ちの方が、新たに廃用症候群と診断された場合が挙げられます。

ほとんどの患者さまが認知症やフレイルを併発している高齢者のため、PT/OTとの連携が欠かせません。その中でSTは、口腔喉頭運動や認知・コミュニケーション面の専門家としてリハビリを担当します。

ちなみに、廃用症候群リハビリテーション算定日数は120日以内であり、脳血疾患等リハビリテーションの180日に比べて短くなっています。

2.廃用症候群リハビリテーションでの仕事

それでは、言語聴覚士(ST)が行う廃用症候群リハビリテーションの業務について見ていきましょう。

勤務スケジュールやイメージ

廃用症候群リハビリテーションのみを行う施設はほぼありませんので、ここでは一般病院での脳血管疾患等リハビリテーション、廃用症候群リハビリテーションを行うSTの一日のスケジュール例を挙げてみました。

時間業務内容
08:00~08:30出勤、準備
08:30~09:00朝礼、ミーティング、カルテチェック
09:00~12:00臨床業務
12:00~13:00昼食評価/休憩
13:00~16:00臨床業務
16:00~16:30病棟ミーティング、ケースカンファレンス
16:30~17:30臨床業務、カルテ記載、書類業務
17:30~退勤、勉強会などが入ることも

言語聴覚士(ST)による廃用症候群リハビリテーション

それでは、STが行う廃用用症候群リハビリテーションについて、障害別にご紹介します。

摂食嚥下障害

廃用症候群リハビリテーションの患者さまの多くが高齢者です。そのため、高齢者に起こる摂食嚥下器官の形態的・機能的変化に注意を払う必要があります。

言語聴覚士テキストでは、高齢者対して次のような注意点が明記されてい ます。

歯の減少や義歯の使用、唾液分泌量の減少、喉頭下垂、嚥下反射の惹起性や嚥下運動の低下、呼吸筋の筋力や肺の浄化作用の低下、呼吸相と嚥下のタイミングのずれ、咳反射の閾値上昇、味覚や嗅覚の鈍化、筋肉の萎縮や筋力低下が起こる

廃用症候群リハビリテーションで担当する患者さまは、これらの加齢に伴う変化が、安静臥床などの不活動により一層機能低下している状態です。

そのため、間接的嚥下訓練・直接的嚥下訓練を行いつつ、運動や栄養管理などの全身的なアプローチの視点を持ってSTならではの関わりが求められます

認知機能障害

廃用症候群リハビリテーションの患者さまは認知機能障害を併発している方が少なくありません。

認知症に対する個別STリハというよりは、入院生活全体で見当識や記憶、注意、遂行などの状態に対する適切な刺激を受けられるよう環境を調整することが主な仕事になります。

精神機能全般が賦活化されるに従い、認知機能面も改善されることは、廃用症候群リハビリにおいて良く経験します。

言語障害

廃用症候群を発症する前から失語症や構音障害をお持ちの方に対して、入院中の言語訓練を行う場合もあります。また、認知機能障害と同様に不活動により精神機能全般に低下がみられる場合、言語障害様の症状を呈する場合があります。

言語・コミュニケーション面においても廃用状態が継続しないよう、コミュニケーション環境を整えたり、会話機会を確保することが主なアプローチになります。

チーム医療の中で求められる役割

廃用症候群リハビリテーションは、全身の耐久性や筋力が低下している方の日常生活能力の低下に対するリハビリテーションであり、PT/OTによる全身的なアプローチが基本となります。

その中でSTは、口腔喉頭機能や嚥下機能、コミュニケーションに対するリハビリを行い、これらに関して多職種に情報提供を行います。STによる訓練だけで問題が解決することはむしろ少なく、PT/OTをはじめ病棟とも連携して環境を整えていくことが大切です。

たとえば、嚥下関連筋の筋力低下は口腔喉頭周囲の限局的な筋力の問題ではなく、体幹をはじめとした全身の筋力や持久力と密接に関連します。座位時間を長くする、離床スケジュールを立てる、発話機会を増やすなどチームの中でSTとしての視点を存分に活かすことが求められます。

また、食事面の担当者として栄養面へのアプローチに関してもチームへ注意喚起する役割があります。

3.言語聴覚士(ST)が廃用リハビリテーションに携わる魅力

いわゆる寝たきりなどの環境要因によって能力低下をしてしまった高齢者が主なターゲットとなるのが、廃用症候群リハビリテーションです。

脳血管障害など急性疾患の発症に起因する失語症や構音障害、嚥下障害などの患者さまとは異なり、不活動による二次的な障害を呈している状態も多いため、STが行うリハビリも機能障害へのアプローチに加えて、その不適切であった活動状態への働きかけが大切になります。

患者さまが本来もつ能力が発揮できるように、個別リハのみではなくチームで環境を整えていきながら徐々にお元気になられる過程を支えられる魅力があります。

4.まとめ

今回は、言語聴覚士(ST)が行う廃用症候群リハビリテーションについてまとめてみました。

廃用症候群リハビリテーションでは、不活動により機能低下が起きてしまった患者さまが少しずつ本来の姿を取り戻していく経過にチームで関われる醍醐味があります。

狭義の摂食嚥下・コミュニケーションに対するリハビリにとどまらず、広い視点を持って全人的に患者さまを支援できるSTでありたいものです。

関連記事

言語聴覚士(ST)の勤務先に関するおすすめ記事をご紹介。

【引用サイト】
Pt-ot-st.net 廃用症候群リハビリテーション料 通知 診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について 2

【引用書籍】
言語聴覚士テキスト第3版
P55  内科学 11老年病学-4廃用症候群
P409 摂食嚥下障害 2嚥下の年齢的変化-3高齢者