言語聴覚士(ST)が行うリハビリの一つに、摂食嚥下障害に対する嚥下訓練があります。

嚥下障害は、加齢によっても疾患によっても引き起こされるため、病院や施設だけでなく訪問リハビリや小児分野におけるまで幅広く関わる機会があり、STとして専門性が求められる分野の一つです。

今回は、嚥下訓練の必要性や実際にどのような嚥下訓練が行われているのかをご紹介していきます。

1.嚥下訓練の内容と必要性

嚥下訓練は、嚥下障害がどの部位で生じているかによって、訓練の内容が大きく変わってきます。

例えば、舌の筋力が低下して食塊形成や咽頭への送り込みが上手く行えない場合は、舌の筋力増強や発語器官の可動性へのアプローチが中心の嚥下訓練となり、咽頭のクリアランスが低下して残渣があり誤嚥する場合は、咽頭へのアプローチが中心の嚥下訓練となります。

このように、どの部位で障害が起きているかを評価し、必要性に合わせた訓練の内容を決めていくのもSTの大切な役割の一つです。

言語聴覚士(ST)が行う嚥下訓練とは

STが行う嚥下訓練には、実際に食物を用いて食べることにより摂食機能を高める直接的嚥下訓練(摂食訓練)と、食物を用いないで口腔の運動や喉頭の挙上訓練など嚥下諸器官の運動を誘発する間接的嚥下訓練(基礎訓練)があります。

摂食が可能になるには、直接的嚥下訓練の過程を経る必要があり、基礎訓練と並行しながら早期に開始することが摂食嚥下機能改善に有効とされています。

また、嚥下訓練は、必ず医師または歯科医師の指示の下行われます。医師から嚥下訓練が必要と判断を受けた方に対し、STが機能評価を行います。そして、カンファレンスで医師を含めたチーム間で共有し、方向性を決め、嚥下機能向上に対するアプローチを行っていきます。

嚥下訓練の必要性と摂食嚥下障害

嚥下機能が低下してくると、食物が上手く呑み込めなくなったり、食物を摂った時にむせ込んでしまったり、食物が気管に入って炎症を起こして誤嚥性肺炎になりやすくなります。

そして、嚥下機能がさらに低下して食べるのが難しくなってくると、絶食となり、体力や認知機能の低下にも繋がります。そうならないために、嚥下機能の機能維持・向上として、嚙む力や舌で送り込む力、喉でしっかり飲み込む力を鍛えていくことは非常に重要といえます。

嚥下障害は、加齢に伴っても生じますが、脳血管疾患の後遺症や神経難病などによって引き起こされることもあります。何らかの理由で、一度食事が食べられなくなった方が、再度食事を食べられるように摂食嚥下訓練を行っていくのも、STの大事な役割の一つです。

2.嚥下訓練の方法

ここからは、言語聴覚士(ST)が実際に行う嚥下訓練について詳しくご紹介します。

訓練①.直接的嚥下訓練

実際に食物を食べることにより摂食機能を高めていく訓練です。

各種検査で病態を把握し、残存能力を有効に活用して、姿勢や食物形態を安全で適切な条件に設定した上で行います。状態に合わせて、姿勢や食物の形態を変化させるなど、段階的に条件を変化させていきます。

訓練②.間接的嚥下訓練

間接訓練にはいくつか種類がありますので、それぞれ簡単にご紹介します。

アイスマッサージ訓練

凍った綿棒に少量の水分を含ませ、嚥下反射誘発部位を刺激して嚥下反射を誘発していきます。

肩・頸部・胸郭の関節可動域訓練

ストレッチを行うことによって、頸椎や肩甲骨の関節可動域を改善させていきます。

嚥下体操

発声発語器官や嚥下関連筋群の筋力維持や頸部・胸郭の可動性の維持に繋がる内容を多く取り入れた体操です。誤嚥性肺炎の予防として、食事開始前などに定期的に行うと良いとされています。

舌・口唇・頬など口腔周囲のマッサージ・運動

口唇周囲筋群、舌の筋力増強、可動域改善させ、食物の口腔内保持や食塊形成、咽頭への送り込みを促進させていきます。

頭部挙上訓練

仰臥位の姿勢で頭部を持ち上げることで、舌骨上筋群の筋力強化をはかり、嚥下に必要な喉頭挙上を促していきます。

咀嚼訓練

ガムやスルメイカを用いて咀嚼を促し、咀嚼に必要な筋肉の筋力強化をはかっていきます。

咳嗽訓練

深く息を吸い込み、咳嗽を促します。むせた時にしっかりと喀出ができることを目的とする訓練です。

ブローイング訓練

水の入ったコップやペットボトルにストローを入れ、鼻をつまみながらストローから息を吐く訓練です。鼻から息が漏れる方や、軟口蓋が挙上しにくい方、呼気が減弱している方に対して行います。

3.嚥下障害の評価方法

嚥下障害の有無やその程度を評価する為に、問診やスクリーニングテストを行い、異常があれば嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)を行っていきます。

詳しく見ていきましょう。

スクリーニングテスト

スクリーニングテストには様々な種類があるので、それぞれ簡単にご紹介していきます。

反復唾液嚥下テスト(RSST)

唾液の嚥下を促し、30秒間の間に起こる嚥下回数を数え、咽頭期の障害を評価します。

改定水飲みテスト(MWST)

3mlの冷水を嚥下させ、嚥下運動およびプロフィールから、咽頭期の障害を評価します。

水飲みテスト

常温30mlを注いだ水を、普段通りに飲むように促し、水を飲み終わるまでの時間やむせ込み、湿性嗄声があるか、口からこぼれるかなどの状態を観察し、嚥下運動やプロフィールから咽頭期の障害を評価します。

食物テスト(フードテスト)

茶さじ1杯(約4g)程度のゼリー等の半固形物を用いて、実際に嚥下を促し、むせや呼吸変化が無いか、口腔内残差がないかを観察します。

発語器官の機能評価

口唇、頬、舌、顎の動きを直接観察し、会話場面で構音に歪みがあるかどうかから、発語器官に筋力低下や可動性の低下が無いかを評価していきます。

嚥下造影検査(VF)

X線による透視下で、実際の嚥下動作を確認する検査です。STだけでなく、医師、看護師、レントゲン技師と共に、誤嚥した際の吸引などの準備をし、安全性を確保した上で実施します。

検査では、バリウム等の造影剤を混ぜたゼリーやトロミ水、食事の一部などを、実際に飲み込みます。実際の水分や食物が口腔内に取り込まれてから、咀嚼や舌で送り込む様子や、咽頭を通過する様子を観察することができ、口腔内、喉頭、咽頭に残っていないか、飲み込む際に誤嚥していないかなどを確認することができます。

この検査によって、摂食嚥下障害がどの部位で生じているかがわかり、安全に摂取できる食物形態や水分形態、摂取する際の姿勢や介助方法について評価することができます。

そして、検査の結果から、経口摂取が可能かどうか、安全に食べる形態や姿勢、介助方法など食事環境の設定を行い、嚥下訓練の必要性や方針などを決めていきます。

嚥下内視鏡検査(VE)

内視鏡を用いた検査で、医師、看護師と共に実施します。鼻の穴から、直径3mm程度の内視鏡を挿入し、食紅などで着色した、ゼリーやトロミ水、食事の一部を飲み込み、咽頭を通過する様子を観察します。

咽頭を通過する食物がしっかりと咀嚼が行えているか、適切な大きさに食塊形成が行えているか、嚥下の動作はスムーズに行えているか、咽頭に食物残差はないかを直視下で観察することができます。

4.まとめ

食事を安全においしく食べるということを継続していくために、食べるために必要な筋力や可動性を維持していくことはとても大切なことです。

そのために、STが専門性を活かして、嚥下の状態やどこに障害があるのかを評価し、適切な内容の嚥下訓練を行っていくことは、重要な職務の一つといえます。

今回の記事が皆さんの職場選びの参考になると幸いです。
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