急性期病院で働く言語聴覚士(ST)は、脳外科、脳神経内科、呼吸器科、心臓外科、内科、耳鼻科などの様々な診療科と関わっています。中でも脳血管疾患発症後に失語症や嚥下障害、構音障害を発症することから、脳外科とのかかわりが深くなります。

脳外科で働くことで、急性期の後の患者さまの回復を見る機会が少ないという寂しさもありますが、脳疾患や全身管理に関する医学的な知識や経験を得ることができる魅力があります。

今回は、そんなSTの脳外科での仕事の魅力についてまとめてみましたので、ご紹介します。

1.言語聴覚士(ST)が脳外科で求められる役割

脳外科では、脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血、外傷性脳損傷、脳腫瘍などにより後遺症が生じた中高年や高齢者が主な対象ですが、小児や若年層を担当することもあります。

術後の全身管理が必要な超急性期から介入することが多く、多くはリハビリテーション施設への転院までの数週間から1~2か月程度を担当し、嚥下や食事形態管理が求められます。外来リハを行っている病院では、自宅退院後のリハビリを継続して担当することもあるでしょう。

また、ご本人・ご家族ともに病気や障害への理解や受容ができていない時期のため、病状説明にも配慮が必要おなり、大まかな予後やリハビリ期間などについても、多職種と連携して伝える工夫が必要です。

2.言語聴覚士(ST)の脳外科での仕事

それでは、脳外科で働くSTの具体的な仕事内容をみていきましょう。

患者さんの特徴

脳血管疾患や脳外傷により、失語症・嚥下障害・運動障害性構音障害・高次脳機能障害を併発した患者様が担当になります。

高齢者は、病前から認知機能や生活機能が低下していた方も少なくないため、栄養状態やADLの評価も重要になり、脳腫瘍や脳外傷などの小児や若年層の患者さんに対しては、心理面や学習面への特段の配慮が必要です。

脳外科で多いSTのアプローチ

急性期では、嚥下評価が特に大切になります。意識レベルに配慮しながら、食事開始の可否や食事形態を医師が判断できるよう、適切な情報提供が求められます。また実際に食事が始まると、直接的嚥下訓練や食事形態の継続的な評価が必要なため昼食時は忙しくなりがちです。

誤嚥性肺炎予防のための口腔ケアも大切な仕事になります。病床数に対するSTの人数は限られるため、病棟看護師や介護職との連携が欠かせません。

次に大切なのが、高次脳機能障害に対する評価と本人・ご家族への説明です。それらをしっかりと記録し、回復期病院などへ情報提供を行うことで、スムーズな自宅復帰の足掛かりとしていきます。

小児や若年の患者さまは学校や職場などへの復帰が必須となるため、早期からの教育や福祉との連携も求められます。

チーム医療の中で求められる役割

脳外科では、意識障害が前景に立ちコミュニケーションに困難が生じやすいため、言語・高次脳面の評価や適切なコミュニケーション方法を多職種に伝達します。

それをふまえ、患者さまが安全に栄養摂取できるよう、摂食嚥下機能に高次脳面を考慮した食事方法や食形態、補助栄養などについて多職種と協働して検討していきます。

特に、姿勢や自助具についてはPT/OT、食事介助方法は病棟、栄養状態や食事形態・補助栄養は栄養士、医師や看護師との連携の中心としての役割がSTには求められます。

脳外科などの急性期で働いていると、退院されたあとの患者さまにお会いする機会が限られているため、患者さんの回復に対するイメージが持ちにくくなりがちです。

それを補うために、回復期病院などと情報交換するなどして患者さんの長期予後についての知見を積み重ねられるよう、積極的な連携も大切になります。

3.脳外科のスケジュールや勤務イメージ

脳外科で働くSTに対し担当患者さまの数は多く、ベッドサイドを1~2単位でどんどん回っていかざるを得ない施設もあります。その場合、離床してST室で評価や訓練を行える方が少ないということも少なくありません。

特に昼食時間は食事評価に忙しい時間になり、自分の昼食を食べる時間を確保するのが大変なこともしばしばあるでしょう。

以下はおおまか勤務イメージになります。担当患者が多い分、サマリーやカルテの数も多いので書類業務にも時間がかかります。

時間業務内容
08:15~08:30出勤。準備
08:30~09:00朝礼。グループMTG
09:00~11:30個別機能評価・訓練
11:00~12:00昼食評価、直接的嚥下訓練
12:00~13:00昼休み
13:00~16:00個別機能評価・訓練、外来訓練
16:00~16:30カンファレンス
16:30~17:30記録・書類作成
17:30~帰宅

4.言語聴覚士(ST)が脳外科で働く魅力

脳外科で働くと、手術に立ち会う機会を持てる、心電図や人工呼吸器などの医療機器、CTやMRIなどの脳画像に関する勉強の機会が多いなど、回復期や他のリハビリテーション科で働くよりも脳外科の医学的な知見と、リハビリに必要な全身状態に関する医療的な知識が身に付きます。

また、入院時には意識がままならかった患者さんが日に日に回復され、点滴や経鼻胃管の方が食事を摂れるようになり、失語症のため会話できない方が少しずつ自分を表現できるようになる、というような変化を日々目の当たりにすることができる魅力があります。

私が回復期リハビリテーション病院に勤めていた際に、患者さまから急性期の脳外科病棟でのリハビリの話を聞くことが多くありました。

病気による急激な自分自身の変化に混乱している時期に、確かな知識を持ったSTが嚥下やコミュニケーションについて説明してくれることを感謝されている方が多かったです。

担当患者数が多く忙しくなりがちですし、リハビリや評価途中で回復期病院などへ転院されることも珍しくありませんが、その分多くの患者さまに出会うことができるのが脳外科で働くSTの魅力の一つです。

5.まとめ

今回は、脳外科で働く言語聴覚士(ST)の業務内容と魅力についてまとめてみました。

医療職として働く場合には必須になる医学的な知識や全身管理に関する知識や経験を得られるのが、脳外科で働くことのメリットであり、介護業界などの医療職が少ない職場でも活躍しやすくなるでしょう。

患者さまにとって人生で初めて出会うSTとして、急性期の症状から劇的に回復される患者さまに寄り添っていけるように、忙しさの中にも丁寧さが求められる職場だと思います。

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