これから言語聴覚士(ST)を目指そうと思っている方にとって、今後のSTの将来性は気になる要素だと思います。

変化の速い現代では今後について予測することは難しいところではありますが、超高齢社会に突入する日本においてはSTの将来性は明るいと考えられています。

今回はそんなSTの将来性とこれから求められることについてまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。

1.言語聴覚士(ST)の将来は明るい

STは「話す」「聞く」「書く」「読む」などのコミュニケーションと、「飲み込む」ことに障害のある方へのリハビリや支援を行う国家資格です。

小児から成人、高齢者までとすべての世代が対象となるため活躍の場は多岐に渡り、医療機関、保健・福祉機関、教育機関などに在籍しています。

近年では特に、飲み込みに障害をお持ちの高齢者に対するリハビリにおいて活躍しています。内閣府が公表している「令和5年版高齢社会白書」によると、2025年には75歳以上の後期高齢者人口が3653万人に達すると見込まれており、超高齢社会へと突入する日本においてこうした需要は更に高まっていくものと考えられています。

病院や医療施設であっても需要に追い付いていないのが現状ですし、その他の福祉や教育の場などにおいても求められています。

その背景として、1997年に国家資格として制度が始まった比較的新しい職業であることが挙げられます。

日本言語聴覚士協会のホームページによると2023年3月末の言語聴覚士国家資格合格者累計は39,896名であり、同じリハビリテーションの専門職である理学療法士(国家資格合格者213,735名※2023年3月有資格者)と作業療法士(94,255 人※2020年3月31日有資格者)に比べるとまだ取得者数が少ない資格です。

2.言語聴覚士(ST)の将来性が不安視される2つの理由

STの将来性は明るいというお話をしましたが、なぜ懸念されるのか、そのポイントについてもみていきましょう。

機械化によって仕事が奪われる

IT技術の進化により、様々な仕事が機械にとって代わられつつあること、また今後その傾向が加速していくことは周知の事実であります。

言語聴覚療法においても機械化への流れは始まっており、人型ロボットを利用した言語訓練の試みや、嚥下筋に対する電気刺激アプローチなどが取り入れられつつあります。

しかし、これらの機械化は、現時点では言語聴覚士(ST)不足に対処するための業務効率化や、より効果的な介入を目的にしており、STが行う業務にとって代わりうるものではありません。

また、コミュニケーション事体が人と人との間で成り立つもののため、コミュニケーションに対するリハビリそのものを機械化することは難しいと考えられます。

PTやOTのように飽和していく

STの国家資格試験の合格率は6~7割程度であり、その数は年々増えていくことでしょう。すでに同じリハビリ職であるPTやOTは、資格保有者数が増えたことで今後の活躍の場を懸念する声が一部で聞かれ始めています。

しかし、超高齢社会により医療・介護業界でのニーズは今後も高まるため、既存の医療・介護施設での働き方に加え、新たなサービスや雇用が生まれる可能性は十分にあり、将来性に関して心配する状況にはないとも考えられています。

STについて言えば、PT・OTと比べ数もまだまだ少なく、専門領域の一つである言語領域であれば開業することもできるため、医療や介護報酬などの制度に大幅な変化があったとしても、将来性は明るいと言えます。

3.これからの言語聴覚士(ST)に求められること

将来性があるとはいえその数は確実に増えていきますので、これからも活躍し続けていくためにどのようなスキルが必要かについてもみていきましょう。

他人に負けない得意分野

言語聴覚士は、幼児、学童、青年・高齢者までの言語コミュニケーションと摂食嚥下を担当するため、幅広い分野にわたって活躍します。

全ての分野を網羅するジェネラリスト的な働き方も少なからずありますが、自分の得意分野や専門性を持つことは重宝される人材になるには必須です。そのためには、STとして継続的に学び、研究発表や論文抄読などを行えるスキルを学生のうちから身に着けておくことをおすすめします。

もちろん、STになってからも日本言語聴覚士協会の生涯学習プログラムなどを利用して勉強し、認定言語聴覚士を取得するなどの研鑽プログラムも用意されていますので、安心してください。

今後需要の高まりが予想されるが、ST人口が少ない分野

一般社団法人日本言語聴覚士協会 会員動向(2023年3月31日現在)対象としている障害(複数回答)

  • 小児言語・認知

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所発達障害教育推進センターによると、自閉症・情緒障害特別支援学級に在籍する児童生徒数は2007年度以降、毎年約6,000人ずつ増加しています。したがって言語発達遅滞や構音障害などによりリハビリを必要とする児童も増加していますが、日本言語聴覚士協会によると、小児言語・認知分野でのST従事者は5413人と全体の約10%に留まっておりST不足が叫ばれています。

未来を生きる子どもたちを対象とする小児リハビリの重要性が年々高まるにつれ、言語発達支援の環境整備も進んでいることから、小児分野を専門とするSTは今後も多方面から求められるでしょう。

  • 聴覚

近い将来超高齢社会となる日本では、高齢者増加に伴い加齢性難聴などによる軽・中度難聴者は増加する可能性が高いと考えられます。補聴器装用者数も増加しており、一般社団法人日本補聴器工業会によると、1990年に301,178台だった日本国内補聴器出荷台数は2022年には600,178台と約2倍になっています。しかし日本言語聴覚士協会によると、聴覚分野に従事している会員は2753人と全体の約5%程度となっており、聴覚分野でのST不足が浮き彫りになっています。

STが補聴器と関わることができる職場には、耳鼻科や補聴器外来が設置されている病院、補聴器専門店、補聴器メーカーなどがあります。専門店には「認定補聴器技能者」という補聴器の機種選びのお手伝い・フィッティング、耳型採取、購入における公的制度に関する助言、購入後のアフターフォロー(掃除・点検・再調整)などに幅広く対応可能な資格を所有しているSTもいますがごく少数なため、聴覚分野を専門とするSTは優遇される可能性が高く、今後STをめざすにあたり注目すべき分野といえるでしょう。

【参照】特定非営利活動法人 日本補聴器技能者協会 認定補聴器技能者とは

  • 2020年度診療報酬改定において新たにSTの活躍の場となった分野

2020年度診療報酬改定では「疾患別リハビリテーション料に係る言語聴覚士の配置の見直し」「嚥下リハビリテーション評価の見直し」が行われ、具体的な変更点は以下の通りです。

・呼吸器リハビリテーション料の実施者に言語聴覚士を追加
・難病患者リハビリテーション料の施設基準に言語聴覚士を追加
・脳血管疾患等リハビリテーション料(Ⅱ)の施設基準に、言語聴覚療法のみを実施する場合の規定を設ける
・言語聴覚士の摂食嚥下支援チームへの介入が必須条件に

これにより今まで以上に幅広くSTの活躍が期待されることになりましたが、前述のように需要に追いついていない現状があります。そのため、改定後に追加された分野に知見のあるSTは希少性が高いといえるでしょう。

医療に関する知識

現在はSTの多くが病院で働いていますが、今後は更に活躍の場を広げ、介護や福祉・教育の場にも積極的に出ていくことが望まれています。

その際の強みとなるのは、医療現場での経験と医療に関する知識です。たとえば訪問リハビリテーションであれば、一人で患者様のお宅へ訪問してコミュニケーションや摂食嚥下のリハビリを行うことになり、血圧や体温、血中酸素飽和度など基礎的な体調管理と共に、肺炎や誤嚥兆候、急な体調悪化、脳血管疾患の再発などに関する知識や対応が求められます。

将来的に介護や福祉・教育の場で働くことを目標にしている方でも、一度は医師の指導の下で医療従事者として働くという経験を積んでみてもいいかもしれません。

言語聴覚士以外の経験、特技・趣味

言語聴覚分野や医療に関する知識や経験が前提にはなりますが、実は自分の人となりそれ自体を生かせるのがリハビリ職として働く醍醐味とも言えます。

特にSTは成熟していない分野で、訓練に使用する絵カードや教材1つとっても、適宜購入したり手作りしたりと、患者様のためにカスタマイズを始めれば限がありません。

また、患者様のリハビリの最終目標は、「その方らしい生活を送る」ことです。患者さんそれぞれの趣味や生活背景、価値観などによってリハビリの方向性を少しずつ変えていく必要があります。

そのため、自分の特技や趣味(例:絵が描ける、プログラミングができる、パソコンスキルがある、歴史に詳しい、料理がうまいなど)の全てが、言語聴覚士として活躍していく上での強みとなります。

また、言葉にならない患者様の思いをくみ取り、想像することも信頼関係の構築に欠かせません。

4.まとめ

今回は、言語聴覚士(ST)の将来性とこれからSTを目指す方が求められることについてまとめてみました。

STは、社会的な認知度が高くなく、制度的にも整っていないのが現状です。しかし、聴高齢化社会に突入する日本においての需要は高く、また多様性に関する認識も高まっている中で、自閉症や学習障害など学齢期のお子さんへの支援も求められています。

この記事を参考に、まだまだこれからに将来性があると言えるSTのお仲間が、一人でも増えてくれると嬉しく思います。

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【参照サイト】
「日本言語聴覚士協会HP 日本言語聴覚士協会会員の所属機関」
「日本理学療法士協会HP 理学療法士国家試験合格者の推移合格累計」
「2019 年度 日本作業療法士協会会員統計資料」
内閣府「令和5年版高齢社会白書」
独立行政法人国立特別支援教育総合研究所発達障害教育推進センター 統計情報
一般社団法人日本補聴器工業会 日本国内補聴器出荷台数の推移
特定非営利活動法人 日本補聴器技能者協会 認定補聴器技能者とは
厚生労働省保険局医療課 令和2年度診療報酬改定の概要(個別的事項)