リハビリを行う専門職として、PT、OT、STといった3種類の職種があります。PT、OT、STのいずれもリハビリテーションに関わる仕事ですが、病院や介護施設など同じような場所で働くことが多いうえに、名称も似ているため何が違うのか分からない人も多いのではないでしょうか。

今回は、そんな3つのリハビリテーション職の違いを、理学療法士の視点から分かりやすくご紹介していきます!

どの職種が良いか迷っている人も参考にしてみてください。

1.基本的な仕事や役割の違い

理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)は、いずれもリハビリテーションに従事する国家資格ですが、仕事内容や役割はそれぞれ異なります。

まずは基本的な違いを見ていきましょう。

PTの特徴

理学療法士とは、英語にすると「Physical Therapist」ですので、日本ではPTと略されます。Physicalは英語で「身体の・物理的な」、Therapistは「療法士」という意味があります。

理学療法士は、簡潔に言うと「体を動かす基本的な動作の専門家」です。具体的には、立つ・座る・歩く・起き上がる・寝返りを打つ・といった生活に必要な基本動作の維持・回復を目的とし、身体障害のある方や身体障害が予測される方などに対して、運動療法や物理療法などのリハビリテーションを提供します。

運動療法では、身体的かつ精神的機能を最大限に回復させ、できるだけ早くベッドから起き上がって自力で生活できる能力を取り戻すために、基本動作訓練、関節可動域訓練、筋力増強訓練、持久力強化訓練、呼吸訓練などを行います。物理療法は、痛みの軽減や血行改善を目的に、温熱、冷感、水、電気、光線、けん引などの物理的手段を用いて行う治療法です。

理学療法の始まりは諸説ありますが、日本における理学療法士の歴史は1960年の厚生白書で医学的リハビリテーションの重要性が言及され、1963年に国立療養所東京病院付属リハビリテーション学院が東京に開校されたことが始まりとされています。

近年では医療現場のみならず、高齢者の介護予防やフレイル予防、健康増進、生活習慣病に対する指導、スポーツ現場、産業分野など、求められることも増しており、活躍の場がどんどん広がっています。

【参照】厚生白書

PTについて詳しく知りたい方は、以下の記事もぜひ参考にしてください。

理学療法士と作業療法士の違い

理学療法士に似た仕事として、作業療法士(OT)があります。

作業療法士は英語で「occupational therapist」(オキュペーショナルセラピスト)と言い、英語の頭文字を取って「OT」と略されます。「occupational」は直訳すると「職業の、職業的な」という意味ですが、作業を通して身体と心のリハビリテーションを行う専門職であるという意味が込められています。

PTは、主に立つ動作や座位の保持、歩行などの身体能力に対するアプローチが中心になりますが、OTの場合は、「箸を持ち、食べ物をつかむ」「服を着る」「手を洗う」など、より細やかな動作に対してのリハビリテーションを専門分野としています。

他には、足のリハビリテーション=PT、手のリハビリテーション=OTと紹介されることも多く、OTは手の巧緻性など上肢へのアプローチが中心になります。

また、OTは応用動作のリハビリテーションだけでなく精神面でのリハビリテーションも必要なる点がPTとの大きな違いです。具体的には、精神の障がいや高次脳機能障がい、発達障がい、認知症などの老年期の障がいを持っている方のリハビリテーションも行います。

私の感覚にはなりますが、PTはどちらかというと男女ともに体育会系の人が多いのですが、OTは男女ともに細やかな気配りができる人が多い印象があります。

理学療法士と言語聴覚士の違い

STは、英語で「Speech-language-hearing therapist」と言い、英語の頭文字を取って「ST」と略されます。言葉によるコミュニケーションや嚥下に障がいを持つ人を対象としたリハビリテーションを行う専門職であり、脳卒中による失語症のほかにも聴覚障がいや発達段階での言葉の遅れ、声や発音の障がいなど、PTとは大きく異なる障がいに対応しています。

また、食べ物を上手く飲み込めない摂食・嚥下障がいに対しての訓練や指導なども行うため、病院によっては嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査という特殊な検査を行い、他職種と連携しながら嚥下機能を評価することもあります。

PTやOTは共通科目があるなど似ている部分も多い印象ですが、PTとSTは別分野のリハビリテーション職と言えるほど、異なる分野の知識や経験が求められる点が特徴です。

私が勤めていた病院のSTには、頭の回転が速く知的な人が多くいたことに加え、STの国家資格合格率が低いことから、「狭き門を突破した優秀な人」というイメージを持っているPTが多くいたのを覚えています。

2.理学療法士(PT)と他のリハ職の人口や働く場所、将来性、給料、難易度の違い

リハビリテーション職として総括されることも多い3職種ですが、それぞれの人口や働く場所、将来性から給料まで、どのような違いがあるのでしょうか。

各協会のデータを元に詳しく紹介していきます。

人数や男女比で見る違い

PTは、3職種の中で最も人口が多く、令和5年度の統計で20万人近くの有資格者がおり、日本理学療法士協会の会員数も13万人近くにも上ります。男女比は、日本理学療法士協会会員における男性の割合が約60%、女性の割合が約40%と男性の方が多くなっています。

もともとは男性の割合がかなり高い職種でしたが、女性PTの割合は増加傾向にあり、若い世代を中心に男性との人口差は少なくなりつつあります。平均年齢は、男性が35.6歳、女性が34.7歳となっています。

一方で作業療法士(OT)は、有資格者が約94,255人(2020年3月31日時点)となっており、PTに比べると3.5万人ほど少ないです。ここ数年、PTは10,000人前後の有資格者が誕生しているのに対し、OTは4000人程度ですので、この差はさらに広がるでしょう。

また男女比で見ると、男性が38%、女性が62%とPTの構成人は逆になっています。

言語聴覚士(ST)は有資格者が38,200人(2022年4月時点)となっており、3職種の中でも最も数が少ない職種となっています。そもそも国家資格として誕生してからの年数がPT、OTよりも浅いため、数の少なさは仕方がない部分があるかもしれません。

日本言語聴覚士協会における男女比は、男性が約24%、女性が76%となっており、OTよりも更に女性の割合が高くなっています。

実際に私が勤めていた職場でも、PTが最も多く、OTはPTの半数くらい、STはOTの半数くらいの人数構成でした。男女比もやはり全国統計と同様の割合でしたが、年齢層は施設によって違いもあると思われます。

勤務先から見る違い

医療や福祉の現場で働く人が多く勤務先に大きな違いはありませんが、それぞれに特徴的な勤務先も存在しています。

PTの場合は、医療機関や福祉施設などのほかにスポーツ分野で活躍している人がいる点が大きな特徴です。上肢に関してはOTでもスポーツ分野で働くことはできますが、スポーツ分野で働くリハビリテーション専門職はPTが圧倒的に多い傾向にあります。

また、個人で整体院として開業しているリハビリテーション専門職もPTが多い傾向です。

OTの場合は、メンタルクリニックや精神科病棟、発達障がい児支援センターなどで働くこともできる点が他の職種とは異なります。精神科のデイケアや精神保健福祉センターなどの精神科関連の施設で働くOTも多くいます。

そのほかにも近年は放課後等デイサービスなど、発達児を対象としたリハビリテーション分野の求人も増えてきている印象です。

STに関しては、PTやOTと同様の勤務先のほかに、様々な声の悩みに対応する音声外来などの専門外来で勤務するケースがあります。

STは、発声や嚥下のスペシャリストであることから、PTやOTよりも専門性の高さが求められる勤務先があるのが特徴です。しかし、音声外来のような専門性の高い勤務先は、全国的にみても数が少ないため就職先も多くはありません。

将来性は明るく給料に違いはない

日本の少子高齢化に伴い、今後は更にリハビリテーション職の需要が高まることが予想されます。

将来的に飽和状態になるという噂がささやかれ続けていますが、実際にはリハビリテーション職の活躍の場は広がりを見せており、今後も高い需要が続く可能性は十分にあるでしょう。

特にOTとSTに関しては、PTが毎年10,000人以上の国家試験合格者を出しているのに対してOTは4,000人前後、STは2,000人に満たない年もあるなど少ない状態です。実際にPTに比べて、OT、STの数が足りていない病院や施設も多くあり、一般病院においてもまだまだ供給が追い付いていない状況といえます。

今後も高齢化は進行していくとともに、3職種の活躍の場は広がりを見せることを考えると、いずれの職種も将来性ある仕事と言えるでしょう。

また、リハビリテーションの3職種は、施設内においてリハビリテーション職としてまとめられており、給与に大きな違いはありません。役職の有無や経験年数による給与の差はありますが、職種が異なることで給与に差が出ることは、ほぼありません。厚生労働省の令和3年賃金構造基本統計調査によると平均年収は400~500万ほどで、キャリアアップを重ねて経験が増すごとに、給与も上がっていく傾向にあります。

STに関しては比較的新しい国家資格であることから、現場で活躍している年代が若いため平均年収がPT、OTよりも低く出ることがあるかもしれませんが、3職種ともに国家資格を有する専門職であり、キャリアアップに伴い給与が上がる可能性がある点は同様です。

PTの給与については以下の記事でも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。

理学療法士_給料
理学療法士_初任給

難易度の違い

各職種の過去5年間の国家試験合格率についてご紹介します。

・理学療法士(PT)

第58回(2023年)は87.4%、第57回(2022年)は79.6%、第56回(2021年)は79.0%、第55回(2020年)は86.4%、第54回(2019年)は85.8%、過去5年間の平均は83.6%となっています。

・作業療法士(OT)

第58回(2023年)は83.8%、第57回(2022年)は80.5%、第56回(2021年)は81.3%、第55回(2020年)は87.3%、第54回(2019年)は71.3%、過去5年間の平均は80.8%となっています。

・言語聴覚士(ST)

第25回(2023年)は67.4%、第24回(2022年)は75.0%、第23回(2021年)は69.4%、第22回(2020年)は65.4%、第21回(2019年)は68.9%、過去5年間の平均は69.2%となっています。

国家試験合格率だけで見ると、過去5年間の平均合格率はPTが最も高くなっていることから難易度は3職種の中で最も易しいといえるでしょう。ただし、あくまでも国家試験合格率だけの話ですので、各職種の仕事内容や国家試験出題範囲への感じ方には個人差があるでしょう。

3.どの職種で働こうか悩んでいる方へ

リハビリテーションに興味があるけれど、どの職種にしようか悩んでいる人も多いと思います。そんなときには、自分のやりたい仕事を具体的にイメージし、それぞれの職種の特徴と照らし合わせてみましょう。

例えば、医療や福祉だけでなくスポーツ分野に興味がある人や、歩行などダイナミックな動きに興味がある人はPTとの親和性が高いと思われます。

また、手を使った作業や職業訓練、家事動作などの応用動作に興味がある人や精神科領域のリハビリテーションに興味がある人はOTが向いているのではないでしょうか。

そして、嚥下機能や口腔機能、発声などに興味がある人や、失語症などの高次脳機能障がいへのリハビリテーションに興味がある人はSTが合っていると思います。

3職種の違いを知り、自分の興味と照らし合わせて、より適合する点が多い職種を見つけたら、興味のある施設に見学を申し込んでみるのもお勧めです。

感染対策のために見学が難しい可能性もありますが、その場合はYouTubeなどで仕事内容を紹介している動画もあるので、参考にしてみてください。

4.まとめ

同じリハビリテーション職であるものの、3職種それぞれに異なる部分が多くあります。

対象となる方の大事なお身体を預かる職種であるため、それぞれの専門性の高さが対象者の方の人生を左右するほどに重要です。

どの職種でも言えることですが、専門職として責任を持ち、リハビリテーションを行うことが私たちリハビリテーション職の務めといえます。

自分に適した職種を見つけ、多くの方の助けとなる存在になることを願っています。

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【参照サイト】
統計情報|協会の取り組み|公益社団法人 日本理学療法士協会
2019年度日本作業療法士協会会員統計資料|日本作業療法士協会
会員動向 | 日本言語聴覚士協会について | 一般社団法人 日本言語聴覚士協会
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