海外を含めて著名人が神経難病を公表するケースは少なくありません。理学療法士(PT)の中には、そうした病気と向き合う方をサポートしたいという方もいるのではないでしょうか。

しかし、実際の病気やリハビリテーションについては、具体的なイメージがつかないという方もいると思います。

そこで今回は、神経難病におけるPTの役割や仕事内容について詳しく紹介していきます。

この領域に携わる魅力にも触れていますので、業界に興味のある方はぜひ参考にしてみてください。

1.理学療法士(PT)が神経難病に対するリハビリで求められる役割

神経難病とは、明確な原因や治療法が分かっていない病気のことをいいます。

主な病気は、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄小脳変性症、重症筋無力症、脊髄筋萎縮症、進行性核上性麻痺、多発性硬化症などです。

原因が判明していないといっても、ある程度の治療法が判明している疾患や、根治は難しいものの治療により日常生活に支障をきたさない程度まで回復できる疾患もあります。

PTとしては、症状の進行によるADLの低下を防ぐことを目的とした機能維持や、運動能力の維持を目指して介入するケースのほか、短期集中的にリハビリテーションを実施することもあります。

先ほどお伝えした通り神経難病は完治することが難しいため、長期的なリハビリテーションが必要となることが多い傾向にありますが、一人のPTが介入する期間は勤務している施設によって異なります。

例えば急性期病院であれば、急性症状が落ち着くまで入院加療をする場合にリハビリテーションを提供するため、介入期間は急性症状が安定し、退院もしくは転院となるまでとなります。

発症初期の患者様で、疾患に対して適応できていない場合には、動作指導や自宅・職場の環境についても把握し、対応を協議していくことがあります。また、発症から年月が経っている方の急性期病院でのリハビリテーションは、機能維持や廃用症候群の予防がメインとなることが多いです。

回復期病院では急性期病院からの転院もしくは転棟から介入し、身体機能の維持・向上とともに生活の質が保てるようにリハビリテーションを実施していきます。

回復期以降は、自宅療養や入院療施設への転院、介護老人保健施設への転院などケースにより方向性が異なり、介入内容も病期によって大きく異なります。

回復期以降に携わるPTは、比較的長い期間介入することが多くなるため、患者様やご家族の変化についても注意を払う必要があります。

2.神経難病と向き合う理学療法士(PT)の仕事

神経難病を抱える患者様を担当するPTの仕事について具体的に紹介していきます。

理学療法士(PT)による神経難病へのリハビリ

神経難病へのリハビリテーションは、病期により内容が大きく異なります。

身体機能が維持できている間は、進行が緩徐になるよう関節可動域訓練や筋力トレーニングなどを行い、より長く現在の身体機能やADLを維持することが目標となります。

急性症状により一時的に身体機能が低下した場合には、元の身体機能を取り戻し、ADLを再獲得できるように介入をすることもあります。

症状の進行に合わせて、今までできていたことが難しくなってしまうことも珍しくないため、転倒リスクの上昇に伴い、歩行補助具や装具の選定をPTが行います。

例えば、歩行をしていた方の歩行能力が低下した場合、そのまま移動手段としてしまうと転倒リスクが高くなってしまうこともあり、車いすの使用を提案することもPTの役割です。その他にも、ご自宅の段差解消や手すりの設置などの環境整備においてもPTが携わる場合があります。

また、介護が長くなる場合には、主介護者の負担を軽減できるよう介助方法を指導するとともに、介助量の軽減を目指すことも重要です。

徐々にベッド上で過ごす時間が増えてきた場合においても、現在の身体機能や能力をいかに保てるかどうかに着目し、少しでも長く機能や能力を維持できるよう働きかけます。

症状が進み、ご自身で体を動かすことが難しくなったとしても、関節が固くなると介助者の負担が大きくなるため、能力が低下しても継続して関節可動域の確保を促すなど介入を続けます。

そのほかにも床ずれの予防や、ポジショニングによる姿勢改善などもPTの役割です。車いすやベッド上での座位姿勢を整えることは、嚥下にも大きく影響を及ぼすため、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。

クッションやマットなどを用いて除圧するとともに、姿勢の崩れを補正して、ご本人が楽な姿勢で過ごせるようポジショニングをしていきます。

また、呼吸器障害が発生した場合には、通常の関節可動域訓練などのほかに、呼吸介助や痰を出しやすくする姿勢で排痰を促すなど、呼吸療法の手技を用いて介入することもあります。

最終的に人工呼吸器が必要となる疾患もあるため、長く呼吸機能を維持できるよう早期から呼吸機能へのアプローチを行うことも大切です。

ある程度、病気の進行の傾向が分かる疾患では、長期的な視点で考察し、必要なプログラムを立案していくことが求められます。

勤務スケジュールイメージ

神経難病のリハビリに携わるPTの業務内容やタイムスケジュールは、次のようになっています。

時間業務内容
08:00~08:30出勤、準備
08:30~09:00ミーティング
09:00~12:00個別リハビリテーション
12:00~13:00休憩
13:00~16:30個別リハビリテーション
16:30~17:30カルテ記入、カンファレンスなど
17:30~退勤。場合によっては勉強会なども

チーム医療の中で求められる役割

神経難病を抱える患者様をサポートするチームには、医師や看護師のほか薬剤師、管理栄養士、社会福祉士、ケアマネジャー、介護福祉士、そして作業療法士(OT)や言語聴覚士(ST)のリハビリテーション専門職がいます。

それぞれの専門性を活かし、ご本人やご家族が過ごしやすい状態を保てるように働きかけるとともに、症状の進行に対してご意向に配慮しながら対応することが重要です。

その中でもPTは、生活の質を左右する運動能力の評価や治療を行うことから、チームの中でも重要な役割を担っています。

病気の進行とともに身体機能が低下していくため、転倒リスクなどを考慮したうえで、時には生活に制限を設ける判断をしなければならないときもあります。

そのため、ご本人やご家族のニーズだけでなく、現在の身体機能や能力を正確に評価し、冷静にリスクを分析して判断する能力が必要です。

また、病気の進行に伴い、寝たきりの状態へ向かっていく中で、ご本人がモチベーションを保てるようメンタル面へのサポートも意識して介入していきます。

他のスタッフには言えないことでも、リハビリスタッフには言いやすいというケースもあり、患者様の抱えている悩みや不安を吸い上げることも重要な役割の1つといえるでしょう。

また、機能が低下していく中でのリスク管理もPTの役割です。徐々に病気が進行し寝たきりの状態に進んでいく中でも機能を維持し、誤嚥性肺炎や床ずれなどの合併症の防止を目指します。

介入時に離床を促したり、ポジショニングを指導したりするほか、体位変換の際のポジショニングなどを病棟スタッフや主介護者、介護スタッフに伝えて実施してもらい、患者様が少しでも快適に過ごしてもらえるように努めます。

3.理学療法士(PT)が神経難病と携わる魅力

疾患にもよりますが、予後があまり良くない神経難病は多く、患者様やご家族に暗い影を落としていることも少なくありません。

その中で少しでも幸せを感じられるようPTとして何ができるのかを考えることは、難しい面ではあるものの、やりがいを感じる部分でもあります。

限られた身体能力や環境の中で、ご本人やご家族が幸せなときを過ごせるサポートをさせていただけることは、大きな魅力といえるのではないでしょうか。

4.まとめ

原因も分からず突然発症することも多い神経難病。

重い病気を抱える患者様にとって、理学療法士(PT)が提供するリハビリテーションが、生活の質を高く保ち、QOLの向上につながることは私たちにとっても幸せなことです。

その病と付き合っていく患者様やご家族をサポートしていく姿勢は、難しい面はあるものの、大変重要なことだと思います。

そのような意識を持ったセラピストが、多く誕生し、神経難病を抱える患者様やご家族を支えていけることを心から願っています。

神経難病の患者様が多く入院加療している病院もあるため、興味がある人は、ぜひ1度見学に行ってみてはいかがでしょうか。

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