さらなる収入アップを目指し開業を検討する方は多く、マッサージ師であればこれまでに培ってきた作業療法士(OT)の知識や技術を活かせるのではないかと、考える方もいるでしょう。

しかし、OTの国家資格だけでは、マッサージ師を名乗ることも開業することもできず、マッサージ師として開業するにはあん摩マッサージ指圧師の資格が必要になります。

そこで今回は、OTのマッサージ師としての開業とその違法性について、詳しくご説明します。

1.作業療法士(OT)の治療には医師の指示が不可欠

OTが「作業療法士」という名称を掲げ、マッサージを含めたリハビリを行うためには、医師からのリハビリテーション処方箋などの指示書が必要です。

これは、「理学療法士法及び作業療法士法」の第二条4項に明記されています。

『作業療法士』とは、厚生労働大臣の免許を受けて、作業療法士の名称を用いて、医師の指示の下に、作業療法を行なうことを業とする者

つまり、医師の指示がない中で、作業療法士としてマッサージやリハビリ行為をすることは違法となるのです。

2.マッサージで開業するにはあん摩マッサージ指圧師を取得する

作業療法士(OT)がマッサージ師として開業をするには、どうすればよいのでしょうか。

そもそもOTが開業するには、開業権を持つ国家資格を取得しなければならず、代表的なものにはあん摩マッサージ指圧師や柔道整復師、鍼灸師などがあります。マッサージを施術する医院を開業したい場合は、あん摩マッサージ指圧師の資格を保持することになるでしょう。

あん摩マッサージ指圧師を養成する専門学校などに通って勉強し、国家試験に合格してはじめてマッサージ店や訪問マッサージ事業を展開できます。

2つの国家資格を取得するのは費用も時間もかかるため、人数は多くありませんが、実際に開業する方もいらっしゃいます。

3.作業療法士(OT)とあん摩マッサージ指圧師の違い

OTとあん摩マッサージ指圧師の違いは何なのか、治療に対する目的や手技を踏まえてみていきましょう。

OTのマッサージは、あん摩マッサージ指圧師の施術するマッサージと目的が異なる

「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」で、第一条に次のように明記されておりOTは含まれていません。

医師以外の者で、あん摩、マッサージ若しくは指圧、はり又はきゆうを業としようとする者は、それぞれ、あん摩マッサージ指圧師免許、はり師免許又はきゆう師免許を受けなければならない

しかし、医師の指示の下に、医療機関や介護施設などで、身体機能の改善や日常生活動作の改善を図ることを目的に、体の筋肉をほぐす行為をするのは可能であり、これを広い意味で「マッサージ」と呼んでいます。

実は、理学療法士及び作業療法士法の中ではOTのマッサージについて言及はなく、厳密な意味でのマッサージを提供することはほとんどありません。ただ「マッサージ」という言葉は高齢の患者さんにも治療の意図が伝わりやすいため、あえてそういう言葉を使用しています。

そのため、OTが行う「マッサージ」は、あくまで疾患の影響によって緊張状態にある筋肉の凝りをほぐす「リラクゼーション」のようなものが多く、最終的な目的は、疾患により低下した心身機能の回復や維持を図ることになります。

それに対して、あん摩マッサージ指圧師の施術の考え方は、東洋医学から由来しているものであり、「つぼ」などの概念も熟知し、痛みなどの症状の改善やリラクゼーション目的に「あん摩、マッサージ、指圧」をメインに実施しています。

西洋医学をもとにしているOTの「リハビリの一環としてのマッサージ」と、あん摩マッサージ指圧師が行う「マッサージ」とは根拠となる考え方の違いや手技が異なり、似て非なるものであるといえます。

無資格者の安易なマッサージはリスクを伴う

公益社団法人日本あん摩マッサージ指圧師会によると、マッサージや指圧の施術については次のように記載されており、専門知識を持ったあん摩マッサージ指圧師が行わなければ、人体に危害を及ぼす恐れがあると言えます。

施術者の体重をかけて対象者が痛みを感じるほどの相当程度の強さをもって行う

事実、一般の無資格者が専門知識もなしにマッサージや指圧を行うことは厚生労働省からも危険視されているのです。

だからこそ、専門性が異なるOTが「マッサージ」をうたって開業することは禁止されており、あん摩マッサージ指圧師の学校に通い「あん摩、マッサージ、指圧」の知識・技術を学び、国家資格を取得しなければならないのです。

4.作業療法士(OT)がマッサージ師を目指すことについて

OTがあん摩マッサージ指圧師の資格を取得し、マッサージ師として開業することは、これまで勤めていた職場での知識や技術を活かし、作業療法の視点を交えながら、マッサージができるという利点があります。

整形外科の病院に勤めていた方であれば、整形疾患に対する知識が豊富であることから、整形疾患の患者さんにも幅広く対応でき、脳卒中などを対象とする回復期リハビリテーション病院に勤めていた方であれば、脳卒中の後遺症の方に対してこれまでの知識や技術を活かしながらマッサージが可能です。

現在、病院に入院してリハビリを受けられる期間は限られており、退院した後に受けられるリハビリは「症状の改善」よりは「現状の維持」がメインとなっているために十分なリハビリを受けられる時間を確保できない仕組みとなっています。

そのため、脳卒中発症からすぐにリハビリに精力的に取り組んだとしても、人によっては麻痺や感覚障害などの後遺症が残ってしまい、退院後も痛みや不快感といった苦痛に悩まれる方は多くいます。

しかし、デイケアなどでのリハビリは、回復期リハビリテーション病院でのリハビリに比べ時間数も少なく、患者さんが望むだけのリハビリを十分に受けられない現状があります。

実際に、私が回復期リハビリテーション病院に勤務していた時には、脳卒中の後遺症の方で、痛みが残る方や、年齢が若くもっと身体状況を改善したい方から、「自費でもいいからもっとマッサージを受けたい」「麻痺の状況をよくわかってくれている人に施術をもっとしてほしい」という声を耳にしていました。

そのため、OTの資格を持つ者がダブルライセンスを持ち開業することは需要があると感じましたし、そういう方がいらっしゃるのも納得でした。

5.まとめ

マッサージは日常生活でもよく耳にする言葉だと思います。しかしながら、法律的にマッサージができる職種は限られており、作業療法士(OT)は含まれていないことを十分に把握したうえで開業を検討する必要があります。

ダブルライセンスを持つこと自体は、より専門性の高い施術を患者さんに提供できるという利点がありますので、今後OT免許を持つあん摩マッサージ指圧師が増え、疾患による後遺症を持つ方にも柔軟に対応できるようになるとよいと思います。

また、再度資格を取るために時間も費用もかかる点から、ダブルライセンスを持つ方はまだまだ少ないかと思いますので、さらなるキャリアアップや収入アップを考えている方の参考になればと思います。

不明点があれば、是非PTOT人材バンクのキャリアパートナーに遠慮なくご相談ください。
作業療法士(OT)の求人・転職情報はこちら

関連記事

作業療法士(OT)の働き方関するおすすめの記事をご紹介。

【引用サイト】
厚生労働省 「理学療法士法及び作業療法士法」
厚生労働省 「あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」
公益社団法人日本あん摩マッサージ指圧師会「一般向け情報」

【参照サイト】
PTOT人材バンク「作業療法士(OT)が開業する方法と注意点」
厚生労働省 「あん摩マッサージ指圧師、はり師及びきゅう師と無資格者との判別について」