言語聴覚士(ST)を目指している方や現役で活躍しているSTの方の中にはキャリアアップのために大学院への進学を考えているという方もいると思います。

2022年現在、厚生労働省の医政局が実施する検討会等第3回言語聴覚士学校養成所カリキュラム等改善検討会の「言語聴覚士の養成における大学院教育の実情について」によるとSTを目指る大学は29校と数が少なく、大学院となるとさらに減少し、募集人数や応募要項にも制限があるため狭き門と言えます。

今回はSTが大学院で学ぶことで得られるものと、大学院進学に際して知っておきたい学費や学校選びなどについてまとめました。是非参考にしてみてください。

1.言語聴覚士(ST)が大学院で積めるキャリア

STが大学院に入学した場合、どのようなことを学びどう臨床に活かせるのでしょうか。まずは大学院に通うメリットについてみてみましょう。

大学院では学術的な視点やスキルを得られる

STが大学院に進学した場合、修士課程、博士課程ともに学士課程で得た知識を発展・応用させながら、理論に基づいた治療法や専門的で高度な知識を学び、研究していきます。

修士課程の基本修業年限は2年で、修了すると「修士」の学位が授与されます。修士課程では専攻する分野の知識や研究能力を磨き、より専門性の高く実践的な臨床技術を学びます。

博士課程の基本修業年限は5年で、修了すると「博士」の学位が授与されます。博士課程は、専攻する分野において自立した研究者として研究活動を行い、修士以上に高度な臨床技術と研究能力を身に付けることが求められます。

STとして臨床経験のある方であれば、研究・発表というと学会を思い浮かべる方も多いと思いのでないでしょうか。

大学院の研究も学会発表と同様に患者様からのデータ収集や考察など「研究する」という点では基本的に同じですが、大学院ではデータを正確に読み解く能力を学び、経験豊富な教授からの専門的なアドバイスや同じテーマを研究する院生とのディスカッションなど、より高い精度で研究が進められます。

さらに卒業単位を取得するためには、これらの研究をもとに必要な本数の論文を執筆する必要があり、研究データを客観的・論理的にまとめ、論文を作成するという手順を繰り返すことで、学位を取得する頃にはその分野のスペシャリストとしての活躍が期待されます。

他のSTにはない視点や教育分野へも進みやすくなる

大学院で得る知識は、臨床の場でも貴重な知識として役立ちます。自身の研究テーマに限らず全体的な知識量が豊富になるため、患者様の評価やリハビリを行う際にも論理的な思考に基づいて効果的な手段を選択・実施できます。

臨床だけでなく教育の場にも興味があるという方は博士の学位を取得していれば、臨床と並行して非常勤講師を務めたり、臨床を退いた後も大学教授など教員に転職が可能だったりするので今後のキャリアにも繋がります。

また、他施設への転職の際にも履歴書に記載できますので、募集枠が少なく複数のSTで競うという状況では有利にはたらく可能性があります。

2.大学院進学を選ぶ際に抑えておきたいポイント

大学院への進学を考える場合にはいくつか考えておかなければならないポイントがあります。特に経済面は生活に影響を及ぼす可能性もありますので、十分に検討が必要です。

必要な費用

大学院進学の際にはまず修士課程・博士課程ともに受験のための検定料3万円程度が必要です。入学金としては20~30万円程度、授業料は施設設備費と併せて年間100万円程度に設定されている学校が多いようです。

一部の大学院においては授業料が50万円前後と比較的安く設定されていたり、逆に150~200万円程度と高額になる場合もありますのでよく確認しましょう。

これらの費用は教科書代など研究にかかる費用は別ですので必要に応じて負担は増えていきます。さらに、通学にかかる交通費や場合によっては家賃等もかかってくる可能性もあります。

学費納入については日本学生支援機構の奨学金をはじめ、それぞれの大学独自の特待生制度や奨学金、学費ローンなど学費に関わるサポートもありますので、必要であればこれらも視野に入れた検討が必要です。

大学院の選び方

大学院を選ぶ際には、まず自身の専攻したい分野が決定している点が条件になります。言語聴覚士(ST)は特に専門分野が細分化されていますので、自身の興味のある分野の教授が在籍しているかどうかがポイントになります。

せっかく入学したのにその分野に詳しい教授が居ないということにならないよう、学校によっては願書提出前に相談会が開催されていたり、自身の希望する専攻分野と研究内容などの提出を求められる場合もあります。

また、通学にかかる時間や学費・奨学金制度についてもよく検討しないと、研究が続けられなくなる可能性が出てきますので、学校を選ぶ際には事前に確認しておきたいポイントです。

院生活・講義について

学生として進学する場合は、学習や研究に費やす時間が確保できるため、じっくりと研究に向き合えます。また学内のアルバイトなどに参加したり、他の学生や担当教授たちとも交流を深めながら学生生活を送ることになります。

社会人の方が仕事と並行して通学する場合には、収入があるため経済的には安定していますが、限られた時間で研究を進めていかなければならず、体力的な負担と忙しさがネックになります。しかし臨床で得た経験を研究に活かせるため、実戦的な視点での研究も可能です。

大学院は社会人入学者も多く、働きながら受講できるように時間割も夕方以降や週末に講義が組まれています。

近年ではオンラインでの授業も増えてきているため、オンラインと通学を組み合わせて受講するという方法もあり、時間的な融通は以前よりもききやすくなっています。

卒業後の進路について

大学院卒業後は研究者として研究機関で研究を続ける、セラピストとして臨床を続ける、教員・講師など教育者になるなどがあります。

修士・博士の学位取得者の割合について明確な情報は出ていませんが、日本言語聴覚士協会に掲載されている就業先についてのグラフをみると、医療67.0%、老健・特養20.2%、福祉7.3%、学校教育0.9%、養成校2.0%、研究教育機関1.5%、その他1.1%となっており、博士号が必要な研究者・教育者として就業していると考えられる養成校および研究教育機関と臨床(医療および介護福祉、教育)の比率で考えると臨床の場で活躍しているSTが多いようです。

また、大学や大学院に在籍している教員は並行して研究も続けている場合が多数ですので、自身の専門性を活かすには最適です。

3.大学院に行く前に知っておきたい注意点

言語聴覚士(ST)が大学院へ進学し、学位を取得するには研究に向き合う覚悟と十分な心構えが必要です。ここでは進学を決断する前に知っておきたい注意点について解説します。

初任給はあまり変わらない

STの場合、大学院へ進学して学位を取得しても初任給は同額であることがほとんどです。これは臨床の場では机上で得られる知識だけでなく、臨床で得られる経験を重視しているためです。

臨床では評価とリハビリ治療のほか、患者様やご家族との接し方、日常生活への介入の仕方、カルテ記載など様々な業務があり、リハビリの質の向上や他部門とも共有する情報源となるため治療と同じくらい重要です。

大学院に進むとより高度な知識を得られますが必ずしも収入に直結するわけではないため、初任給アップを目的として進学を考えるのは避けた方が良いでしょう。

ハードスケジュール

大学院での講義は養成校に比べると履修する科目数も少なく、時間割だけみると余裕があるように感じられるかもしれません。しかし実際は、1日の大半を研究に費やす必要があり多忙な日々を送ります。

特にレポートや論文の提出の時期には、期日までに膨大な数のデータの収集が必要だったり、研究発表の事前準備等に追われるかもしれません。

また、仕事と並行して通学する場合には、日中は職場での臨床業務、臨床終了後には症例検討会などの仕事が重なるケースもあります。通常の仕事量に加えて、研究の負担が増えるため、体力的にかなり大変になる覚悟しておかなければなりません。

必ずしも教員になれるわけではない

STの養成校など、教員として働くためには博士号が必須です。しかし、博士号を取得しても希望すれば必ず教員になれるというわけではありません。

STは養成校の数が少なく、2022年8月時点で日本言語聴覚士協会のホームページに掲載されている大学や専門学校など全て合わせても全国で73校しかありません。学校の数が少ないということは教員の数にも限りがあり、転職を考えたタイミングで希望する学校や自分の専攻する分野の募集枠が空いている可能性は低いです。

将来的に教員になる想定であれば、博士号を取得後、臨床でさらに経験を積みながら募集が出たタイミングを逃さないようにしましょう。臨床で得た経験は教員となってからも、学生にとって貴重な情報となります。

4.まとめ

言語聴覚士(ST)をはじめとしたセラピストは、臨床をこなす中で知識不足を痛感したり、もっと学びたいと思える分野を見つけたことなどをきっかけに、社会人になってから大学院進学を考え始めたという方が多くいます。

リハビリを含め、医療は日進月歩で様々な研究が進められており、セラピスト自身もSTとして働き続ける限り、学びを探求する姿勢が大切ですので、これを機に将来的なキャリアアップも視野に入れて、大学院進学について考えてみてはいかがでしょうか。

ご不明な点がございましたら、PTOT人材バンクに遠慮なくご相談ください。
言語聴覚士(ST)の求人・転職情報はこちら

関連記事

言語聴覚士(ST)を目指す方におすすめの記事をご紹介。

【参照URL】
厚生労働省 医政局が実施する検討会等
資料4
言語聴覚士の養成における大学院教育の実情について

日本言語聴覚士協会
会員動向(令和4年4月1日現在)
就業状況と勤務先

日本言語聴覚士協会
養成校検索 施設一覧1~8ページ