理学療法士(PT)は専門性が高く、病院や福祉施設でも重要な役割を担っています。「病院勤務の医療職は高収入である」という印象をお持ちの方も多いかもしれませんが、「理学療法士の給料は安い」といわれることがあります。実際はどうなのでしょうか?
この記事では、PTの給料が安いと言われる理由、PTの平均年収や他の医療・福祉職との比較、PTの生活について、年収の上げ方を紹介します。
目次
1.理学療法士の給料が安いとされる5つの理由
理学療法士は、医療・福祉職の中でも「給料が安い」と言われることがあります。同じく医療現場で働く看護師や薬剤師などと比較して収入に差があるのは、制度的な理由が関係しています。その理由を説明していきます。
①. 診療報酬による限界
理学療法士(PT)の診療報酬は、1単位20分で算定され、1人あたり1日24単位・週108単位までと上限が定められています。そのため、リハビリの質や成果に関わらず、提供できるリハビリの時間が限られており、対応できる患者数にも制限があります。
医師や看護師が処置ごとに報酬を得られるのに対し、PTは一定時間患者に向き合わなければ報酬を得られません。たとえ同じ患者に対して、経験豊富なPTが効率よく質の高いリハビリを提供しても、報酬は未熟なPTと変わらないのが現状です。
現在の制度では、技術や経験に応じて診療報酬を柔軟に反映する仕組みがなく、成果が収入に結びつきにくいことが、理学療法士の給料が上がりにくい理由の一つとなっています。
②. 基本給が安く手当がつきにくい
厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査によると、基本給や手当などを含めた給与額は、看護師が35.2万円、薬剤師が41.8万円、診療放射線技師が36.7万円の一方で、PTは30.1万円であり、他の医療系専門職と比べて給与の低さがうかがえます。
厚生労働省の同調査における、各職種の手当などを除いた所定内給与額を見てみると、看護師が31.9万円、薬剤師が38.9万円、診療放射線技師が33.6万円、PTが29.0万円となっています。
他職種は手当などが3万円程度あるなか、PTは約1万円にとどまっており、手当の付きにくさも給与が安くなる要因といえるでしょう。
(出典:令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計) 表番号1 | 厚生労働省 )
③.評価基準が確立されていない
大手企業などは昇格や昇給に対しての評価基準が確立されていますが、PTの場合は昇給に対する評価基準が明確ではないことも要因のひとつです。
リハビリテーションは、高い技術や豊かな経験をもっていても、それを数的に明確に評価することが難しい職種です。例えば同じ患者様を診た時に、ベテランPTは歩行訓練まで進めても、新人のPTでは車いす乗車までしか進めないなど、結果に差が出ることは珍しくありません。
しかし、多種多様な症例に対するリハビリテーションの可否を一律で評価することは難しく、個々の働きが数値化しにくい点はPTの特徴ともいえます。
そのため各施設で査定の評価基準は設けられているものの、リハビリテーションそのものの成果というよりも、院内や科内での働きが評価対象になることが多く、専門職としての頑張りが給与に反映されにくい点も給与が安い要因といえるでしょう。
④. 理学療法士が増え続けている
直近5年間のPTの有資格者数は毎年500人程度増加していますが、それと同時に、国の医療費も年々増加しています。令和元年度には医療費が43.6兆円にまで増加しました。
(出典:厚生労働省 | 令和元年度 医療費の動向)
こうした状況から、国は医療費の抑制に力を入れており、診療報酬の見直しや抑制が進められています。PTの給料は診療報酬から出ていますが、診療報酬が減額となる場合、給与を上げることは難しいでしょう。特に多くのリハビリ専門職が働いている施設では、限られた診療報酬で給料を分け合わなければならないため、一人あたりの給料は低くなってしまいやすいのです。

(出典:厚生労働省|言語聴覚士国家試験の合格発表について(第23回、第24回、第25回、第26回、第27回)、(出典:厚生労働省|理学療法士国家試験及び作業療法士国家試験の合格発表について(第56回、第57回、第58回、第59回、第60回)
前述のとおり、理学療法士だけでなく、作業療法士(OT)や言語聴覚士(ST)の有資格者も増え続けており、若い世代になるほど同年代のリハビリ専門職が多い状況となっています。
昔はリハビリ専門職全体の人数が少なかったため、科内の役職につくことで給料が上がるPTも多くいましたが、リハビリ専門職の総数が増えたことにより役職につける人も限られてきます。
また、多くのリハビリ専門職を抱える施設では、昇給に対して慎重にならざるを得ない場合もあり、その点もPTの給料が安い一因といえるでしょう。
2.理学療法士の給料は本当に安いのか?
理学療法士の給料は本当に安いのでしょうか?ここでは、理学療法士の平均年収と、他の医療・福祉職や一般的な日本人の平均年収との比較をみていきましょう。
理学療法士の平均年収
令和5年における厚生労働省のデータによると、理学療法士の平均年収は約433万円です。
平均年収 | 4,325,800円 |
平均月収 | 300,900円 |
平均賞与 | 714,400円 |
他の医療・福祉職との比較
以下に、PTと他の医療・福祉職との平均年収を比較した表を示します。
医療福祉業界の年収を高い順に並べていますが、PTはその中ほどに位置しています。医師や看護師など他の有資格者に比べ、年収は少し低い傾向があります。

職業 | 平均年収 | 平均年齢 |
薬剤師 | 約577.2万円 | 40.3歳 |
診療放射線技師 | 約536.4万円 | 41.1歳 |
臨床検査技師 | 約508.0万円 | 41.3歳 |
看護師 | 約508.0万円 | 41.9歳 |
理学療法士(PT) | 約432.6万円 | 35.6歳 |
介護福祉士 | 約370.6万円 | 44.4歳 |
※「賃金構造基本統計調査」のデータは、従業員10人以上の企業を対象とし、一般労働者(フルタイム勤務)で役職についていない人の情報を使用しています。平均年収の算出方法は、「きまって支給する現金給与額」×12に「年間賞与およびその他の特別給与額」を加えたもの。
他の医療福祉職と比べてPTの給料や平均年収が低い要因には、以下の3つが挙げられます。
平均年齢の低さ
医師の平均年齢は約46.1歳、看護師は約41.9歳、保健師は約38.6歳であるのに対し、PTは約35.6歳と若めです。年齢や経験が増えるほど給与も高くなる傾向があるため、比較的若いPTは、他職種と比べて給与がやや低くなりがちと言えるでしょう。
法律によって給与に変動がある
PTを含むリハビリ専門職の報酬は法律により決められており、リハビリの費用も症状や施設規模に応じて細かく分類されています。このように、病院や施設で報酬を自由に変更できない仕組みがあるため、リハビリ専門職は給与が上がりにくい職種とされています。
夜勤がない
1章で”手当の付きにくさ”について触れましたが、PTは夜勤がほとんど発生しない職種のため、夜勤がある職種と比べると、夜勤手当がなく、年収がその分低くなります。しかし、夜勤がある介護福祉士よりも年収が高い点を考慮すると、夜勤がない職種としては年収が高いと言えるでしょう。
一般的な日本人の平均年収との比較
以下に、一般的な日本人の平均年収を比較した表を示します。
月収は理学療法士が30万900円、全産業が34万6700円、賞与は理学療法士が71万4000円、全産業が90万9000円、年収は理学療法士が433万円、全産業が507万円となっており、年収だけでなく月収や賞与額においても、全産業平均と比較すると明確な差が見られます。
国税庁の「民間給与実態統計調査(2023年分)」によれば、日本の給与所得者全体の平均年収は460万円です。これは、理学療法士が属する職種の平均年収よりも約30万円高い数値です。
(出典:令和5年分民間給与実態統計調査 P7 2章 1年を通じて勤務した給与所得者 (1)|国税庁)

平均年収 | 平均月収 | 平均賞与 | 平均年齢 | |
理学療法士(PT) | 4,325,800円 | 300,900円 | 714,400円 | 35.6歳 |
全産業 | 5,069,400円 | 346,700円 | 909,000円 | 43.9歳 |
PTは一般的な社会人の平均と比べて自身の給料が低いと感じる方もいるかもしれません。ただし、年代別に比較すると異なる印象を持つことができるかもしれません。
全職種の年代別平均年収を見ると、20~24歳で267万円、25~29歳で394万円となっています。一方で、理学療法士の20~24歳の平均年収は約330万円、25~29歳では約375万円で、若い年齢層では全職種の平均をわずかに上回っています。
(出典:令和5年賃金構造基本統計調査 結果の概況 一般労働者 (1)賃金の推移 | 厚生労働省)
3.勤務先によっても給料は異なる
理学療法士の給料は勤務先によっても異なります。最近は、小規模のクリニックなどでも専門性を活かして、いずれかの分野に特化した診療を行っているところだと給与が高いこともありますし、訪問看護ステーションなども病院に比べて給与水準が高いことも多いのが理由としてあるかもしれません。また、小規模事業所の方が勤務者の平均年齢が高くなっていることも関係しているかもしれません。
4.理学療法士は生活できないって本当?
PTの給料が安い理由について紹介してきましたが、安いといっても真面目にPTとして働き散財することがなければ生活に困窮することは、ほぼ考えられません。
結婚をしてマイホームを持つ人も多くいますし、複数のお子さんを持つパパやママも多く活躍していますし、海外旅行や車などお金のかかる趣味を楽しむ人もいます。
PTの仕事だけでセレブのような贅沢な暮らしをすることは難しいですが、計画的にお金を使うことで十分に安定した生活を送ることが可能です。
厚生労働省の令和5年賃金構造基本統計調査の概況によると一般労働者の賃金は31.8万円となっており、PTの給与と大きな乖離は見られません。そのため、PTは一般的な生活水準で暮らすことができるはずですので、安心してください。
5.理学療法士(PT)の年収の上げ方
できればPTとして働き続けるなかで、給料も上がっていけると嬉しいですよね。ここからは、年収を上げるための方法をご紹介します。
スキルアップをする
日本理学療法士協会が定める「認定理学療法士」や「専門理学療法士」などの資格や、各学会が定める「心臓リハビリテーション指導士」や「3学会呼吸療法認定士」といった関連する資格を取得することで手当や昇給につながる場合があります。
診療報酬の認定を受ける際に上記の資格が必要となる場合もあるため、施設としても取得を進めていることもあります。
登録理学療法士制度などPTの質を担保する制度も誕生しており、今後はスキルに応じた診療報酬の増減が加わる可能性もあるためスキルアップをしておくと安心です。
職場によっては昇給や手当がない場合もありますが、これらの資格の有無はキャリアアップを目指して転職時に有利に働くことがあるため、早めに取得をしておくのも良いでしょう。
管理職になる
現在の職場で給料を上げたい場合、最も確実な方法が昇進することです。昇進して管理職に就くことで基本給の昇給や役職手当などの給料アップが期待できます。
管理職になることで、残業代が支給されなくなり給料が減るという話を聞いたことがあるかもしれませんが、近年は働き方改革により残業を減らす方向に社会全体が動いているため、よほど残業時間が長い場合を除いて心配する必要はないでしょう。
また、管理職になることで各種法制度の知識が求められたり、マネジメント業務や他部署との調整役を依頼されたりなどPTとしての知識や技術以外のスキルが求められます。
スタッフが多い場合は管理職になれる人の数も限られてくるとともに、管理業務の負担も大きくなりがちなので施設規模や職場の状況に合わせて検討しましょう。
副業・起業をする
近年は一般企業でも副業が認められており、副業をすることも珍しくなくなってきました。
副業は現在働いている施設と病期の異なる施設で働くこともおすすめです。視野が広くなり、PTとしての引き出しを増やす良い機会にもなるでしょう。
その他にも整体やリラクゼーションの分野など保険診療枠外で起業をする人もいます。経営の知識が必要になり容易ではありませんが、経営がうまくいけば施設勤務時よりも収入が大幅にアップさせる可能性を秘めています。
6.年収を上げたい場合は転職も検討してみる
3章で述べたとおり、給与は施設ごとに大きく異なります。給与が高く手当や福利厚生が充実している職場に就職できると結果的に収入を増やすことにつながるため、早く年収を上げたい方はそのような職場を選ぶのも一つの手です。
ただし、就職先を選ぶ際には給与の額面だけはなく、しっかりと内訳もみることが大切です。
基本給が安くても資格手当が高く設定されている職場も多くあり、年収に換算するとかなりの金額になります。ただし基本給は昇給しますが、資格手当は経験年数でも同額の場合がある点は注意が必要です。
PTOT人材バンクは年収を考慮した上での転職サポートも行っておりますので、迷っている段階でもぜひ一度ご相談ください。➡相談してみる(無料)
7.まとめ
現代では終身雇用という概念が崩れ、どの仕事も将来的な安定が確約されているわけではありません。理学療法士(PT)は、国家資格を保有し、専門性の高い仕事を請負う重要な役割を担っており、これからも続く超高齢化社会において益々活躍が期待されている職種でもあります。
給料は高いとは言えませんが、一般平均と同程度の収入を得ることができ、社会情勢の変化に対しても比較的影響を受けにくい安定した職業である点は大きな安心にもなるのではないでしょうか。
また、若く給与が安い世代が大きな割合を占めており、今後若い世代が年齢を重ねるなかで平均年収が上がる可能性も秘めています。
これからPTを目指す方の中には、給料が安いという理由で迷っている人もいるかもしれませんが、一般労働者平均と同程度の給与で安定した職に就ける魅力的な仕事ですので、安心してチャレンジしてください。

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