作業療法士(OT)が働く場所として病院や施設を思い浮かべる方が多いかと思いますが、公務員として働く方法があるのはご存知でしょうか。
OTが公務員として働くには、公立病院に勤務する場合や市役所や保健所など行政機関で働く場合などのケースが挙げられます。
この記事では具体的に公務員として働く方法や場所、年収や給料の仕組みなどについて解説していきます。
公務員として働くことに興味を持っている方の参考になれば幸いです。
目次
1.作業療法士(OT)が公務員で働くということ
まずOTが公務員として働くには、どうすればいいのかという所から、公務員としての仕事内容の概要や試験について解説していきます。
公務員には大きく2種類の働き方がある
OTの公務員としての働き方は、公立病院と行政機関に分けることができます。
公立病院で働く場合は、民間病院に勤務するOTと大きな差はありませんが、市役所などの介護福祉課や障害福祉課、保健所など行政機関で働く場合は仕事内容が異なってきます。
OTの専門性を活かして地域の公衆衛生や福祉に携わることもあるため、病院での直接介入とは違った角度から業務を行うことになります。
細かな仕事内容は、次の章で解説していきますね。
公務員で働くには試験に通る必要がある
OTが公務員として働くには一般的な公務員試験ではなく、病院や施設、行政機関が行っている採用試験に通る必要があります。試験内容は様々ですが、私の経験では国家試験形式の問題や小論文、面接試験など基本的な知識や社会性が問われることが多い印象です。
ただ、公務員としてのOTの採用試験は採用数が少ない割に人気があるため、競争率が高いケースが多く狭き門と言えます。
採用情報がハローワークや求人サイトに記載されていない場合も多いため、公務員として働きたい方はこまめに都道府県や市町村など自治体のホームページをチェックした方がよいでしょう。
2.公務員として働く場所と仕事内容

作業療法士(OT)が公務員として働ける場所は様々ですが、具体的にどういったところがあるのか、詳しく解説していきたいと思います。
公立病院
都道府県や地方自治体が運営する病院のことを公立病院と呼び、県立病院や市立病院が該当します。公立病院で働くOTは基本的に「地方公務員」となりますが、仕事内容は民間病院勤務とほとんど同じと言えます。
また、公立病院は比較的規模の大きい総合病院や医療センターである場合が多く、急性期~亜急性期分野のリハビリに従事することが多いでしょう。診療科も多く幅広い分野の疾患に携われる点も魅力であり、身体障害分野で経験を積みたい方におすすめの職場です。
国立病院
公務inによると、国立病院は厚生労働省が直接運営している病院、または厚生労働省管轄の独立行政法人として運営している病院を言い、具体的には「独立行政法人国立病院機構」や「独立行政法人労働者健康安全機構」などが該当します。
厳密に言うと、国立病院で働く場合は「国家公務員」というわけではなく、「みなし公務員(準公務員・非公務員)」となる場合が多いようです。ただし給与形態や福利厚生などの待遇は公務員に準じていることが多く、安定していると言えるでしょう。
また、実際の採用情報を確認すると「独立行政法人国立病院機構」は、関東信越地方、近畿地方などブロックごとの採用となるため、ブロック内で転勤制度がある点は注意が必要です。
国立病院は重症心身障害児病棟や結核病棟など、なかなか民間病院で携わることの少ない疾患のリハビリにも従事できるため、貴重な経験を積むことができる点も魅力のひとつです。
行政機関
市役所や町役場の介護福祉課や障害福祉課、保健所、精神保健福祉センターなど行政機関で働く場合は、病院で直接患者さんのリハビリに携わるのとは業務内容が違ってきます。
OTの専門性を活かして認知症施策、介護予防の推進のための企画調整や高齢者・障害者、その家族に対する相談業務、行政手続きのサポートなど、業務内容は多岐に渡ります。困りごとを抱える人達に対して制度の利用の案内や、必要ならば病院や施設に繋げていくパイプ役としての役割を担うことも多いでしょう。
行政機関で働く場合は前章でも説明したように、一般的な公務員試験ではなく自治体・施設の採用試験を受けることになります。採用枠が少なく競争率が高くなる場合が多いため、見逃さないようこまめに採用情報をチェックするようにしましょう。
職業訓練施設など就労関係
都道府県や市町村が運営する職業訓練施設や就労支援施設に勤務するOTも基本的には「地方公務員」に該当します。
身体障害、精神障害、知的障害、高次脳機能障害を抱える方に対して就労能力のアセスメントや職業訓練、雇用主に対して障害理解の促進や就労継続のサポートなどを行います。
精神障害や高次脳機能障害を得意分野とするOTにとって就労支援は専門性を活かして活躍できる職場であり、今後採用数の増加が期待できる分野と言えます。
特別支援学校など教育関係
県立や市立などの特別支援学校で働くOTは特別非常勤講師として、教員免許を持っていなくても学校で働くことができます。
非常勤としてではありますが、待遇は「地方公務員」に準ずる場合が多く、期限付採用などのケースもあり採用数も少ないため狭き門であると言えるでしょう。
OTとしての仕事内容は、発達障害や肢体不自由を抱える子供達に遊び、食事、工作など作業に係る指導をすると共に、必要に応じて個々の障害に合わせた補助具の開発のサポートやコミュニケーション手段の確立、感覚運動機能の向上を図ります。
3.公務員作業療法士の給料 | 月給、初任給、賞与
公務員として働く作業療法士(OT)の年収は、人事院規則によって定められた医療職俸給表(二)に沿って定められています。
| 月給 | 311,400円 |
| 初任給 | 230,000円 |
| 賞与 | 704,700円 |
俸給表によると、新卒の初任給の月給は2級1号俸、短大卒では1級17号俸に該当し、それぞれ230,000円と207,400円 となっており、これに各種手当が付く形になります。民間病院と比較すると低く感じるかもしれませんが、年数を重ねるごとに確実に昇給していくため長く働く程給与アップが見込めます。
民間病院であれば昇給制度がない場合や微々たるものである等、賞与に関しても母体の経営状況によって左右されやすく退職金にも影響を与えるケースもあります。
その点公務員は昇給についても棒給表により明確に定められており、年に1回は査定が存在します。賞与や退職金は勤続年数によって定められているため、経営状況に左右されにくく安定した収入が見込める点は大きな魅力であると言えます。
4.公務員試験の内容と試験対策
公務員試験の内容
作業療法士が公務員になるためにはどのような採用試験を突破しなければならないのでしょうか。大前提として、公務員試験を受けるには受験資格を満たしていなければなりません。作業療法士免許を有するだけでなく、中途採用の場合は指定された実務経験を満たす必要があります。
内容は各自治体によって異なりますが、地方自治体の一般的な試験は①書類審査②筆記試験(一般教養、専門知識)③面接試験④適性検査といった試験方式が多い傾向にあります。
ここで、具体的な例をいくつかご紹介します。
「独立行政法人国立病院機構」では、事前にWEBテストを適性試験として受けておく必要があります。その後、面接試験とし一人20分程度の個別面接を受けることとなります。
また、地方自治体A市の場合、実際に一次試験では以下のような内容が実施されていました。
① 自己アピール面接
② SPI検査:基礎能力検査(言語的理解、論理的思考、数量的処理等の能力検査)
③ 適性検査:クレペリン検査
④ グループワーク:当日指定されたテーマについて少人数グループで討議
これらを実施したうえで、二次面接として個別面接を実施して、採用の可否が決まります。
上記の試験を見てお分かりのように、自治体によって試験内容は大きく異なるので、事前の情報収集が大切になります。
試験対策
まずは面接を見越して、自分がなぜその職場で働きたいのか志望理由を明確にすることが大切です。さらに、少人数採用でも選ばれるためには、自分の強みはなにか、自分がその職場でどのような活躍ができるのかをアピールできることが大切です。面接で質問されやすい項目をピックアップし、事前にどのように回答するかをシミュレーションしておくことで、落ち着いて対応できます。
また、グループワークがある場合には、自分の意見を主張するだけでなく、相手の意見を聞く姿勢を持つことも大切です。
時事問題や社会科学、自然科学などといった一般教養を取り入れている場合であれば、一般教養問題を取り扱った参考書に目を通しておくだけでも、試験をイメージしやすく当日の焦りを軽減してくれます。
作業療法の専門知識であれば、臨床経験である程度補える場合もありますが、解剖学、生理学、運動学、リハビリテーション医学 といった基礎的な知識は一度復習しておくのがおすすめです。
5.作業療法士(OT)が公務員として働くメリット、デメリット

メリット
公務員と言えば「安定」のイメージがありますが、OTが公務員として働く魅力は具体的にどのようなものがあるのか、詳しく見ていきたいと思います。
長く働くほど収入アップが見込める
前章でも触れたように、公務員にはしっかりした昇給制度があり、年に一度昇給の機会があります(基本的には昇給していきます)
入職時の基本給は少なめではありますが、長く働き昇給を重ねていくことで民間病院より収入が多くなるケースが多いでしょう。
また、昇進して役職が付けば更なる収入アップが見込め、基本給が上がることで賞与の金額や退職金の金額も上がる点も大きな魅力と言えます。
福利厚生が充実している
公務員の場合、時間外手当、通勤手当、住宅手当といった各種手当や有給休暇、特別休暇(夏季休暇や結婚休暇など)がきちんと整備されています。産休や育休制度もしっかりしているため、子育て世代の方にもおすすめの職場です。
申請することで確実に手当がもらえるため、基本給プラス各種手当を受け取ることで収入の安定が見込める点も魅力です。
休日が多く働きやすい環境
行政機関や職業訓練施設、特別支援学校で働く場合は、原則カレンダー通りの休日となっており、公立・国立病院などは病院によって休日も交代勤務を行っていることもありますが、きちんと代休が取れるようになっているため、しっかり休日の数は確保されています。
有給休暇は1日単位の取得だけでなく、半日や時間単位での取得も可能なため有給消化がしやすくワークライフバランスが取りやすい点も魅力であると言えます。
幅広い経験が積める
公立・国立病院では、民間病院では担当する機会の少ない重症心身障害児や神経難病など幅広い疾患の患者さんのリハビリにも携わることができ、貴重な経験を積むことができます。
行政機関では介護・福祉に関する政策に携わることや、特別支援学校では講師として障害を抱える子供さんの教育に携わるなど、民間では経験できない経験ができる点も魅力です。
デメリット
初任給の低さ
公務員の作業療法士では、人事院規則によって定められた医療職俸給表(二)に沿って初任給を定められていることから、民間に比べると金額の低さがデメリットとなります。長く働けば、年収アップが見込めるものの、経験年数が浅いうちは給料が少ない傾向にあります。
特に、公務員は勤務場所によっては症例数の少ない珍しい疾患のリハビリに携わることもあります。やりがいがあり、作業療法士としての大きな成長が得られますが、日々の研鑽が欠かせないといった身体的・精神的な負担は多くなる可能性もあります。その一方で得られる給料が思ったよりも少ないと感じてしまうこともあるかもしれません。
さらに結婚などのライフスタイルの変化等で短期間での転職を余儀なくされた場合、「年功序列で着実に給与が上がる」というメリットを享受する前に辞めてしまうケースも少なくありません。
異動・転勤の可能性がある
民間の職場に比べ、公務員は異動先となる範囲も広いのが特徴です。例えば、「独立行政法人国立病院機構」では、地域ごとをグループ分けしています。関東圏メインの「関東信越グループ」であれば1都9県、32の病院が設置されており、そのグループ内で異動が行われます。もちろん個人的事情もある程度考慮はされますが、異動によって他県に引っ越さなければならないこともあるでしょう。
地方公務員においても、国立病院機構ほどの広範囲にはならないものの、県内でも距離の離れた病院に異動ということもあるでしょう。
さらに、異動におけるデメリットは通勤距離の増加や転居の有無だけでなく、病院によっては臨床分野の変更を余儀なくされることもあります。これまで身体障害分野で働いていたが、異動先が精神疾患メインの病院になったということも少なくありません。
年功序列制・頑張りが大きく評価されにくい
公務員は人事院規則によって給与を定められている背景により、個々の頑張りが給与に反映されづらいというデメリットがあります。民間の病院や施設などでは個々の頑張りを数値化する評価制度を取り入れているところもあります。
評価制度に基づき昇給があったり、ボーナスの額が増えたり、場合によっては出世につながったりとリターンが得られることで、日々の業務にハリが生まれやすくなるのです。
その点においては、公務員は個々の努力で給与を増やすことは難しく、出世においても年功序列で上がっていくことから、日々の業務のモチベーションを保ちづらい背景があることも否めません。
6.公務員になるには定期的に募集情報を確認!採用枠が少ないからこそ準備が重要
今回は作業療法士(OT)が公務員として働く方法や場所、年収や給料の仕組みなどについて紹介しました。
公務員の採用枠は多くないのが特徴です。特に新卒採用と比べると中途採用はより少なくなる傾向にあります。また、病院によっては理学療法士の所属人数に比べて作業療法士の人数が少ないということも珍しくなく、その分採用枠が少ないこともあるのです。そのため、公務員になりたい方は採用の有無を日頃からチェックしておくことが大切です。
気になった方は近くの自治体の募集状況を調べることから始めてみてはいかがでしょうか。
その他の転職情報も気になる方はPTOT人材バンクをご覧ください。

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【参照】
公務in 公務員が勤務する病院の種類について
国立病院機構 関東信越グループ 募集要項(作業療法士)
人事院 | 人事院規則九―八(初任給、昇格、昇給等の基準)(昭和四十四年人事院規則九―八)
人事院 | 行政職俸給表 医療職俸給表(二)
令和6年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 表番号1
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