別の仕事にチャレンジしてみたい、人の役に立てる仕事をしたいと思った時、作業療法士(OT)は、個々人の「その人らしさ」を大切にする作業活動に焦点を当てたリハビリが提供できる、とても素敵な職業です。

OTとはどういった仕事なのか、またOTとして働くためにはどういった経路で資格を取得する必要があり、資格の難易度としては難しいのかなど、気になることがたくさんあると思います。

そこで今回は、OTの資格を取るために必要な学習環境や費用・期間について解説していきます。さらに資格試験の難易度や、働きながら資格を取得するための工夫についても触れていますので、ぜひ最後までお読みください。

1.作業療法士(OT)とは

作業療法はリハビリテーションの職種の一つで、「作業」を通してリハビリテーションを行う職業です。病気や怪我によって、生活をするのに障害を抱えた方に対し、その人らしい作業に取り組むことができる様に、作業を用いて生活能力の回復や環境への適応を図るリハビリのお仕事です。

作業療法士(OT)が扱う「作業」とは、ものを食べたり、お風呂に入ったり、掃除や趣味活動するなど、人と環境の間に生まれる生活に必要な活動の全てを指します。作業は価値観や育ってきた環境など、人によって大きく違いがあります。

OTはDr.から指示を受け、作業を行うために必要な「身体」と「心」の両方に対してリハビリテーションを行います。患者様の障害像も様々であるため、それぞれの人に合わせた多様な作業療法プログラムを立案・提供します。

働く場所としては、「身体障害」や「老年期障害」の領域では、主に病院などの医療機関や高齢者施設、障害者施設で働くことが多く、病気や怪我により障害を負った方に対して自立度向上や自宅復帰のサポートをします。

また、「精神障害」領域では精神科病院で働けることも特徴的で、精神疾患を患った方に対して作業を通して精神面へのリハビリが提供できるというのもOTならではの強みです。「発達領域」では児童発達支援センターなど、先天的な病気や発達障害を抱えるお子様に対してもOTはリハビリを提供することもあります。

2.最短ルートは3年!OTになるには国家試験の受験が必要

OTは国家資格です。国家試験を受験するためには高校卒業後、4年制大学または3年制の短期大学、3年制もしくは4年制の専門学校いずれかの養成校で必要な知識と技能を修得する必要があります。

そのため、高校卒業している方がOTになりたい場合、養成校で3年間学び国家試験に合格することが最短で働く方法になります。

養成校では、まず基礎知識として解剖学や生理学、運動学などの医療的知識を学んでいきます。

それからOTとして働く上で必要な専門知識を学び、リハビリの実技練習や臨床実習を行い、必要な単位を取得していきます。すべての単位を取得して初めて、国家試験を受験することができるのです。

3.通信教育だけで資格取得できる?

結論からいいますと、通信教育だけでは作業療法士の資格を取ることはできません。なぜかというと、作業療法士(OT)の国家資格を受験するためには、
“高校卒業後、国が指定した作業療法士養成課程のある大学・短大・養成施設などで3年以上学び、必要な知識・技能を習得して卒業する必要がある”
と明示されているからです。

OTの国家試験を受験するためには、専門課程における講義を受ける必要があるのと、実際の作業療法学生として病院での臨床実習を受ける必要があるのです。

臨床実習は、病院をはじめとした医療提供施設で、実習時間の3分の2以上を割かないといけないことを要件に上げています。医療提供施設は病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院などが挙げられます。そのほかにも訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションに関する実習を1単位以上行うことも条件となっています。

OTが主に関わる領域として、大きく分けて「身体障害」、「精神障害」、「老年期障害」、「発達障害」の4領域があります。以下の表に主な実習先となる施設をまとめました。

身体障害領域リハビリテーション科のある一般の病院や診療所
精神障害領域精神科病院、精神科デイケア
老年期障害領域介護老人保健施設、特別養護老人ホーム
発達障害領域児童発達支援センター、病院(小児科)

OTの資格の取得方法について、インターネットで検索した際に出てくる通信教材は、国家試験対策の教材であるため、そういった通信教材だけでは受験資格を得ることはできません。

4.学校に通い、知識や技能を身に着ける

前述の通り、作業療法士(OT)になるためには養成校に通う必要がありますが、それぞれの養成校には重視するものや学び方に若干の違いがありますので、その違いとどんな人に向いているかをご紹介していきたいと思います。

まずは高卒資格を手に入れる

まず前提として、OTの養成校に通うためには高校を卒業していることが必要となります。

高校卒業している方であれば気にする必要はありませんが、もし中卒の場合は先に高卒認定試験で高認を取るようにしましょう。また、養成校や国家試験の受験に年齢制限はないため、年齢を気にする必要はありません。

大学は幅広い知識と多職種を知ることができる

4年制大学では、OTになるために必要な知識だけではなく、語学や一般教養など幅広い科目も選択しながら履修します。

医療や福祉の知識だけでは、患者様の生活や仕事を総合的に支援することはできません。4年制大学で学ぶ幅広い知識は、臨床に出てから必ず活かせる糧となります。

また、時間をかけて学んでいくため、直接的な知識や技能の習得だけでなく、考え方や学び方を身につけることができるのです。そして、多学科の多さも他の養成校と違う点として挙げられます。

4年制大学では、OTの学科とは別に医療や福祉、介護分野の他の学科も併設されている所が多く、学生の頃から他職種の特性を知り、多職種連携について触れる機会があるというのは臨床に出て大きなメリットとなり得るでしょう。

短期大学は幅広い知識を効率よく学べる

短期大学も4年制大学同様、一般教養に関しても単位取得が求められます。

幅広い知識と共に、OTに必要な基礎知識、そして専門知識と技能を学ぶことができるため、幅広く学びたいけど早くOTとして現場に出たいという方には短期大学がおすすめです。

一度別の大学を卒業している方や社会人を経験してOTを目指す方は短期大学に通う方が多い印象があります。

専門学校は実践力を身につけることができる

専門学校は幅広い知識を身につけるというよりも、OTとして現場で活かせる実践的な知識と技能習得に力を入れています。

大学に比べて比較的入学しやすく、OTになるための実践力をより多く身につけたいという方にとっては適した場所となるでしょう。

また、4年制の専門学校では国家試験の対策期間を十分に確保できるため、試験に受かるか不安、絶対1回で合格したいという方でも安心して学んでいくことができる学校が多いです。

5.主婦や社会人からめざす方へ!学費はどれぐらいかかる?

作業療法士(OT)になるために養成校への通学が必要だということがわかったと思いますが、養成校は大学、短大、専門学校と3パターンあり、それぞれ卒業までにかかる学費に違いがあります。以下の表に各養成校別のおおまかな学費の目安をまとめました。

養成校別学費総額メリットデメリット
大学(国公立)約250万円前後・学費が安い ・専門分野以外も学べる入学の際に高い学力が必要
大学(私立)約550万〜700万円・専門分野以外も学べる学費が高い
短大(3年)約400万〜450万円・短期間で専門知識を学べる ・専門分野以外の講義もある養成校が少ない (全国で4校のみ)
専門学校 (4年)約500万〜650万円・ゆとりを持って修学できる ・私大に比べて学費が安い ・専門分野に集中して学べる専門分野以外の学びは少ない
専門学校 (3年)約400万〜550万円・短期間で専門知識を学べる ・私大に比べて学費が安い ・専門分野に集中して学べる修学期間が短いため、卒業まで忙しい
夜間約110~133万円×年数・働きながら通学できる働きながらの学習はかなりハード

大学は国公立か私立かによって学費に差があります。国公立は作業療法学科に限らず、国が運営をしているので運営費用を税金で賄っているため、安い学費で修学できます。しかし、入学において高い学力が求められます。

その反面、私立大学は「学校法人」という、国や地方公共団体以外で運営をしているため、学校に対する公的な支援は低く、学生負担が大きいのです。大学は一般教養などの専門知識以外の学習もできることがメリットです。

短大は3年間という期間で専門知識を密に学習でき、4年制の大学よりも少ないですが、専門知識以外の一般教養の学習ができます。3年制ということもあり、4年制の大学に比べると学費を抑えることができます。しかし現状、短大の作業療法学科は全国的に4校しかなく、選択肢としては一番少ないです。

専門学校は大学と違い、一般教養などの講義はありませんが、その分専門分野の知識の学習に特化しています。資格取得後にすぐ活かせる知識や技術が獲得できるというメリットがあります。4年制と3年制があり、やはり学ぶ年数が多いほど学費が多くかかります。

また忘れてはいけないのが、学費以外にも教材費や実習費(短期のアパート代など)など、関連するまとまった費用がかかってくるということです。「準備する費用が足りなくなって実習を受けられない」とならない様、忘れずに準備しましょう。

学費については以下の記事でも詳しくご説明しています。前章の内容も含め、どんな養成校を選べばよいのか、こちらの記事も参考にしてみてください。

作業療法士(OT)を目指す養成学校の比較~大学・短大・専門学校の違いと選び方~

6.働きながら資格取得をめざす方法

働きながら作業療法士(OT)の資格取得を目指す方法として、「夜間の学部に通う」という選択肢があります。夜間コースは夕方以降の18:00〜21:00前後まで講義をしているところが多いです。昼間のコースがある学校に夜間コースも併設されている学校が多く、カリキュラム自体は昼間コースと同じで、内容が薄いという心配はありません。

夜間コースのメリットとしては、日中は働きながら夜間や土曜日を使って通学することができるという点です。社会人で新たにOTを目指したいという人におすすめの方法と言えるでしょう。また費用が昼間コースより安かったり、働きながら学んでいる同じ境遇の仲間と支え合いながら学べます。

しかし、働きながら夜間コースに通うのは肉体的にも精神的にもハードといえるでしょう。最終的な目標は国家資格の取得です。各期ごとのテストに合格するために講義以外の学習時間を取る必要があるため、テスト対策の学習時間を取る必要があり、プライベートな時間を確保することは難しいかもしれません。

また、実習は昼間のスケジュールを開ける必要があるため、日中の仕事のスケジュールを柔軟に調整できる職場であることも条件の一つとなります。夜間学部にはこういったデメリットもあるため、そういった側面も踏まえて学校を選択したいところです。

7.作業療法士の国家試験は合格率83.3%

OTの国家試験は毎年一回2月に行われますが、2023年の合格率は83.3%でした。OTの国家試験の合格率の推移と傾向をご紹介していきます。

2023年の第58回作業療法士国家試験の結果

2023年の第58回作業療法士国家試験の受験者数と合格者数は以下の通りです。

受験者数現役の数合格者(合計)合格者(現役)
2023年5,719人4,809人4,793人4,390人

2023年の作業療法士(OT)国家試験は83.3%と高い合格率となりました。国家試験の受験者のほとんどが養成校で学んでいる現役の学生であり、現役生の合格率は91.3%と高い数値を占めています。その反面、現役以外の国試浪人生の合格率は44%と5割を切っています。

その理由は学習環境が大きく影響しているといえます。現役で合格ができないと、国試浪人として、無資格で働きながら国家試験に合格するための勉強をすることになります。働きながら勉強をするのは、意欲やモチベーションを保つことが非常にハードになります。

現役では一緒に勉強に励む同級生もおり、お互いに鼓舞しながらモチベーションを高く維持できることも現役合格の大きな要因になっています。国家試験に合格するためには、集中して学習できる環境が整っている、養成校を卒業してすぐの「現役」での合格を目指しましょう。

合格率は80%程度を推移している

OTの2013年(第48回)から2022年(第57回)国家試験の受験者数と合格者数を表で示します。

受験者数現役の数合格者(合計)合格者数(現役)
2022年(第57回)5,723人4,861人4,608人4,311人
2021年(第56回)5,549人4,895人4,510人4,345人
2020年(第55回)6,352人4,795人5,548人4,515人
2019年(第54回)6,358人5,137人4,531人4,108人
2018年(第53回)6,164人5,289人4,700人4,506人
2017年(第52回)5,983人5,303人5,007人4,800人
2016年(第51回)6,102人5,004人5,344人4,711人
2015年(第50回)5,324人4,656人4,125人3,981人
2014年(第49回)5,474人4,391人4,740人4,137人
2013年(第48回)5279人 4,079人 

作業療法士(OT)の国家試験の合格率は過去10年間で70〜80%を推移しています。2018年と2019年は70%台と低い割合となりましたが、それ以外は80%を越えています。

合格率が高い理由として、国家試験を受験するために、在学中の定期試験や臨床実習を受ける過程で、一定の知識を身につけられるからです。

言い方を変えますと、在学中の学習過程で一定のハードルを越える必要があるということです。国家試験を受験する前に必要な単位の取得ができず、卒業ができないということも十分に考えられます。

また、国家試験を受験する前に卒業試験を設けている養成校もあり、一定の合格水準に満たなければ国家試験の受験資格がもらえないということもあります。

8.作業療法士(OT)になるために学ぶべきこと

学生の時だからこそ学べる大切なことがあります。特にOTとして大切な基礎の部分は、臨床現場に出てからの自分の軸となるため、その土台がしっかりしていれば、どんな分野に進んだとしても対象者に合った最適な作業療法を提供することができます。

そんなOTになるために、学ぶべき大切なことを2つご紹介していきたいと思います。

学生時代にもっとも勉強しておいた方がよいのは“考える過程”

作業療法というリハビリは、提供するセラピストや対象者の状態によって異なり、一つの正解があるわけではありません。

そのため、対象者に合わせて適切な評価をし、目標設定をして、どんなリハビリを行ったらよいかという道筋を対象者の方と一緒に考え導いていくことが必要となります。

知識や技能だけを修得すればよいということではなく、OTとして“考える過程”が大事なのです。養成校では、知識と技能と合わせて、そういった考え方を学んでいくことが大切になります。

「作業療法とは」を理解する

作業療法は対象分野も多岐に渡り、働く職場や提供するリハビリも人それぞれことなります。

そんな時重要なのが、作業療法とは何かという軸を明確に持っていることです。

“作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。”

作業療法士協会が定義しているこの作業療法を軸とし、自分はOTとしてどんなリハビリを提供したいか、どんなOTになりたいかというブレない軸を学びながら考えていくことが必要となります。

9.万が一国家試験不合格になってしまったら

万が一、国家試験に不合格になってしまった場合、働きながら翌年の国家試験のための勉強をする場合が多いです。現役の作業療法士(OT)学生は、国家試験の合否が決まる前の養成校在学中に就職活動をし、内定をもらっていることが多いです。

国家試験に落ちてしまった場合は、OTとしての内定が取り消しになってしまいますが、就職予定のあった病院によっては、厚意でリハ助手としてアルバイトという形で雇ってもらえる場合もあります。

他には介護施設などで介護職員としての非常勤として勤務をしたり、他にも医療・福祉系に限らず、勉強と両立できる様なコンビニなどのアルバイトで生活費を稼ぐという人が多い様です。

国家試験に落ちてしまった場合の勉強方法は、今までやってきた勉強方法を見直す必要があります。今までの過去問はありますが、出題の傾向が変わることもあるため、しっかりと答えが導き出せる様にしっかりと知識を理解しておくことが大切です。

また、国試浪人生は孤独になってしまうこともあるため、国家試験の勉強をする上で1人にならないことも大切です。1人だと相談ができず不安を抱えることになってしまいます。同じ学校で国家試験に落ちてしまった人がいたら情報を交換し合ったり、予備校に通ったり、養成校の先生に相談をしながら勉強をしましょう。

10.まとめ

作業療法士(OT)になる方法と必要なことについてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。

資格保有人口が年々増え、少しずつメジャーな職業へとなりつつあるOTですが、学んでいくとよりOTの魅力ややりがいを知ることができます。

私自身、養成校に入るまでは理学療法士(PT)になりたいという気持ちが強くありましたが、OT学科に入学し、学んでいくにつれて、OTのやりがいに魅了され、自分はOTを目指して良かったと今では思っています。

ぜひOTについて知っていただき、より多くの方に自分なりのOTを目指していってほしいと思います。

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【引用サイト】
作業療法士協会 作業療法の定義

【参照サイト】
厚生労働省 第51回理学療法士国家試験及び第51回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第52回理学療法士国家試験及び第52回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第53回理学療法士国家試験及び第53回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第54回理学療法士国家試験及び第54回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第55回理学療法士国家試験及び第55回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第56回理学療法士国家試験及び第56回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第57回理学療法士国家試験及び第57回作業療法士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第58回理学療法士国家試験及び第58回作業療法士国家試験の合格発表について