国立がんセンターによる統計情報によれば、日本人の2人に1人ががんと診断される時代になってきていると言われており、がん患者の数も増加の一途を辿っています。

一方で、がんと診断された方の5年生存率は改善傾向にあり、がんサバイバーと呼ばれるがん生存者の数も増加しています。

こういった背景もあり、2010年より「がん患者リハビリテーション料」が診療報酬に収載され、がん患者に対するリハビリテーションの必要性が広く普及されるようになりました。

現在では、がん患者に対して理学療法が処方されることも一般的になってきており、がん患者のリハビリを担当する機会も増えてくるのではないでしょうか。

今回はそんな「がんリハ」の内容について、理学療法士(PT)がどのように関わっていくのかに焦点を当てて紹介していきます。

1.理学療法士(PT)に求められるがんリハとは

がんになると、がんそのものによる症状(痛みや食欲の低下、呼吸困難感、倦怠感など)により、体の動きに制限が出ることがほとんどです。

また、がんの治療(手術や化学療法、放射線治療など)によって身体機能が低下したり、活動制限が起きたりします。

このような状況が続くと、日常生活活動(ADL)や仕事や学業などの社会活動、生活の質(QOL)低下に繋がります。

がんリハの目的は、このようながんそのものや治療によって影響を受けた身体機能の回復を促し、残存機能の維持や向上をることです。そして病期によってリハビリの目的は予防的、または緩和的なものに変化します

多くの場合、がんリハは1人の患者に対して多職種が関わるチームで提供されますが、PTは起居動作や起立、歩行などといった基本的動作能力や持久力といった運動耐容能に対してのアプローチを担います。

ただ、対象者の症状や治療の特色、もちろんニーズなども把握した上で、リハビリ実施の判断や負荷量の調整などを行う必要があり、加えて、患者によっては告知の有無や心理的な側面を考慮した関わりが必要になるケースもあります。

このように、がんのリハビリに携わるためには、リハビリ開始前に入念な情報整理が重要となってきます。

2.病期によって違うがんリハの内容

前章で病期によってリハビリの目的が異なることに触れましたが、この点についてこちらの章で詳しくみていきましょう。

がん診断時

がんと診断された時点から治療が開始されるまでのこの時期は、比較的身体機能も保たれているため、症状の進行や治療による影響で低下が予想される機能を維持できるように予防的な内容のリハビリが実施されます。

治療の一環として手術を受けられるようであれば、手術前からリハビリが処方されるケースもあります。事前にPTが関わることで、術後の見通しやその後のイメージを共有でき、術後の呼吸方法や排痰方法などの指導をスムーズに行えます。

もちろん、運動療法を通して、治療開始までの身体機能や体力を落とさないようにする目的としてのリハビリも処方され、有酸素運動や筋力強化運動などを積極的に行います。

がんの治療期間〜完治

がんの治療方法はいくつかありますが、抗がん剤による化学療法や放射線療法などを行うと副作用が生じ、一時的に免疫機能や身体機能が低下するケースが多々あります。

この時期のリハビリの目的は、治療に伴って低下した身体機能の回復が主になります。具体的にはストレッチや軽負荷での筋力トレーニング、歩行練習やエルゴメーターなどを使用した有酸素運動などを患者の状態に合わせて行います。

手術を行う場合でも、術後の合併症を予防し身体機能の回復を促すため、できるだけ早期から離床や身体活動を開始することがほとんどです。

治療が奏功し病巣部が軽快すれば、運動の種類や負荷量を変更しながら仕事や家庭への復帰目的でリハビリを継続していきます。

再発や転移があった時

最初の治療期間を終えて、病巣部に変化が見られない、がんの再発・転移が見つかった場合は治療を継続するか、他の方法に変更して治療が続くこともあります。

このような場合は、患者の身体が治療による副作用やがんそのものに由来する症状に曝される期間が長くなるため、身体機能の低下が長引く可能性が高くなります。

そうした時期にはできるだけ身体機能を維持できるように、可能な範囲での運動療法を行いますが、免疫抑制や血小板量の減少などの副作用により運動が制限されるケースもあります。

そういった際は他動的なストレッチや、関節可動域練習などの受動的なプログラムを行ったり、活動を維持するための自助具の提案や動作の工夫などセルフケアの面での指導を行ったりします。

積極的な治療が受けられない時

治療が奏功しなかった時や、残念ながら治療が行えない場合においては緩和的な内容でのリハビリを行います。

この時期に入ると、患者の身体機能というよりも生活の質(QOL)に焦点をあてた関わり方が重要になります。患者や家族の要望を聞きながら、PTとしてできることを提案していくことが必要です。

例えば、趣味活動が行えるような環境調整や自助具の選定、外出するための移動手段の選定、家族が介助する際の方法の工夫や指導などが挙げられます。

また、患者が自分らしく過ごせるように、他の職種のスタッフと協力して支援を行うこともPTとしての大切な役目になってきます。

3.がんリハとの向き合い方

がんリハに携わっていると、治療期間が長期に渡る患者や積極的な治療を行えず(行わず)緩和的なケアを行う患者に関わる機会も増えてくると思います。

一般的なリハビリの対象者と異なり、病状の改善の見込みが薄かったり、望めなかったりする方が対象となってくるので、関わり方に苦慮するケースも多いかもしれません。

このような際に重要なのは、患者本人はもちろん、その家族や関わりのあるスタッフとしっかりとコミュニケーションを取ることになります。

患者や家族が現状をどう捉えているのか、何を望んでいるのか、限られた時間をどのように過ごしたいのか、どう生きたい(逝きたい)のか、そういった意向をしっかりと聴取できるような関係構築が最初の課題となってきます。

それを踏まえたうえで、他職種と連携しながら理学療法士(PT)としてどのような関わり方ができるかを考え実践することが、患者や家族の幸福につながるのではないでしょうか。

4.まとめ

今回はがんリハの内容について紹介してきました。

がん患者に対するリハビリテーションは病期によって関わり方が異なってくるため、患者の状態を確認しながら進めていく必要があります。

また、緩和的なケアを要するようになると、患者や家族の要望をできるだけ汲み取ってあげることも重要になってきます。しっかりとコミュニケーションを取り、関係性を築きながら関わっていかなければなりません。

がんリハに携わると、辛い時期もありますが、それぞれの患者の多様な価値観に触れる機会も増えるため自身の成長にも繋がってくると思います。

興味のある方は是非チャレンジしてみてください。
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【参照サイトU R L】
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4.がんの生存率
5年相対生存率 年次推移