言語聴覚士(ST)として働いていると、性格など臨床経験以外の根本的な部分でも差が出てきます。また、知らず知らずのうちにあなたの行動や発言で、患者様や他のスタッフを不快にさせている可能性もあります。

良いSTとダメなSTは何が違うのか、STとして良くない行動はどのようなものがあるのかを知り、少し心掛けるだけでも、あなた自身にとって良い変化が得られるかもしれません。

今回は、周囲から「ダメなST」「STに向いていない」と思われてしまう特徴と、良いSTとなるために抑えておきたいポイントについてまとめてみました。自分自身はどうか振り返りながらチェックしてみてください。

1.ダメな言語聴覚士(ST)の5つの特徴

どんな仕事にも向き不向きがあり、それはSTでも同様です。苦手があるのは悪いことではありませんが、そのままでは成長できません。STとして働くうえで、良くない5つの特徴についてまとめました。

①コミュニケーションがとれない

STにとって一番重要な能力がコミュニケーション能力です。コミュニケーションが得意な人というと、人と話すのが好きな人、しゃべることが得意な人という印象を受けますが、一概にそうとは言えません。

コミュニケーションは自分と相手の双方からのやりとりで成り立つものですから、話すことが好きだからと一方的に話していては、コミュケーションがとれているとは言えません。また、相手からの伝達内容を正確に把握し、意味を理解することも必要です。

STが対象とする患者様はこのコミュケーション能力に障害がある方が多く、失語症のように言葉の理解・想起・表出が困難である場合や、自閉症のように相手の心情や状況を理解することが難しい場合、構音障害など構音器官の動きだけが困難な場合など、症状も様々です。

このような患者様と接する際に、STが相手の気持ちを理解・共感したり、言葉だけにこだわらないやりとり(非言語的コミュニケーション:言葉を媒体としないコミュニケーション)を使ってみたり、積極的にコミュニケーションを取ろうとする姿勢はとても大切です。

訓練場面では、STと患者様が一対一でリハビリを行うことになります。その際、患者様の緊張をほぐし、体の状態や心理的な負担など情報を得るのもSTの大事な仕事です。中には苦手な相手もいるかもしれませんが、誰に対しても同じように接することができるようこころがけましょう。

また、STは患者様だけでなく、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)をはじめとした様々な職種とも連携をとりながらリハビリを進めていきます。そのため、スタッフ同士でも日常的に積極的なコミュニケーションをとることで、より良いリハビリの提供にも繋がります。

②結果をすぐに求める

障害された能力を獲得・回復するには適切なリハビリをしていても時間がかかるものです。

病院での臨床で一人の患者様を任された場合、入院期間を通じて初回挨拶・インテーク、各種評価、訓練計画立案、訓練実施、再評価を行います。その間、全身状態の改善に伴ってぐんと良くなることもありますが、基本的には日々すこしずつ改善していくというのが一般的です。

また、患者様の心身の状態は日によって変わりますので、血圧など体調や気分が優れず思うようにリハビリを実施できないという日も多々あります。場合によっては、積み重ねてきたリハビリの効果が、ふりだしに戻ってしまうということもあり得ます。

昨日できていたことができない、実施しているリハビリの効果について思うような結果が得られないという時も、リハビリの改善点を検討しながら、患者様とじっくり向き合うことが求められます。

③多角的に物事をみれない

患者様がもっている障害や症状には何かしらの原因があると考えられ、STはなぜその事象が起きているのか、原因がどこにあるのかを検査結果や評価から検討し、訓練を実施します。

その際に、1つの見方に固執してしまうと、誤った解釈のままリハビリを進めてしまい、思うような結果に繋がらないということが起こりえます。似たような症状であっても、様々な要因が複雑に絡んでおり、原因は違うところにある可能性もあります。

また、患者様それぞれの性格や生活背景など、検査結果や評価を加味して考えなければならない情報もありますので、物事を1つの視点ではなく、さまざまな角度から考えるようにする必要があります。

「○○ができないからできるようにする」「この障害にはこの訓練」と他の要因を考えず、マニュアルのように当てはめてリハビリを実施することは、良いSTとは言えません。

④知的探究心がない

探究心とは興味の有無に関わらず、物事に関して新しい知識を得ようとすることや、疑問に感じた事柄の原因を突き止め解決しようとする気持ちのことを言います。

STがリハビリを行う相手は年代も症状・障害も様々です。そのため、患者様それぞれに合せた検査・評価・訓練が実施できるように、「なぜこのような結果(症状)になっているのか」「どうしたら良いのか」「そのために必要な知識・技術は何か」を考える力を身に付ける必要があります。

医療分野は日々進歩していますので、新しい治療法もどんどん出てきます。

STの臨床も続ける限りはいろいろな患者様や症状・障害と向き合っていくことになりますので、適切なリハビリを提供するために、ささいなことでも疑問に思う気持ちと積極的に知識を得ようとする探究心が大切です。

⑤協調性がない

リハビリは医師をリーダーにPT、OT、看護師、検査技師、栄養士など様々な職種で、患者様を取り巻くチームを構成して進めていきます。

それぞれが自分の役割を担っていくことになりますが、最終的なゴールとして設定する目標が同じ方向でないと、リハビリの十分な成果が得られません。

そのため適宜、検査・評価の結果やリハビリの進行状況などをカンファレンスまたは症例検討の場で話し合い、足並みを揃えてリハビリを行っていきます。

①の項目でも挙げたように、STをはじめとしたリハビリ職においてコミュニケーションは必須です。それだけではなく、それぞれのリハビリが相乗効果としてより良いものにしていくためにも協調性が必要となります。

2.言語聴覚士(ST)として抑えておきたいポイント

STとして働くために学校や実習で学ぶことはとても多いですが、国家試験合格という通過点がある以上、知識の面に目が向きがちです。そのほかに考えられる、STが臨床の場において活躍するために意識しておきたいポイントについてまとめました。

チームの一員である意識

1章のコミュニケーションや協調性の項でも述べたように、リハビリはチームで行うものです。リハビリの効果を十分に発揮するためにはチーム全体が目標を共有し、一人ひとりが自分の役割をしっかりこなす必要があります。

STの評価や今後期待される改善レベルの見解など、まずは自分の意見を持ち、他のリハビリの進み具合や生活場面の情報などを総合的に判断して、STのリハビリでは何をすべきか考えていくことが大切です。

これはSTが訓練室で行うリハビリだけに限らず、訓練室に移動するまでの動作や食事場面のような日常生活場面の観察・介助においても同様です。

理学療法(PT)や作業療法(OT)でどのようなリハビリをしているかを情報共有し、STの訓練場面でも積極的に取り入れると、より患者様にとって有益なリハビリに繋がります。

根気強さ

リハビリは評価、計画、訓練実施の繰り返しです。

その間、順調に効果が得られることもあれば、そうでないこともあります。すぐに効果が得られない場合にも、原因は何か、どうしたら良いのか、患者様の気持ちに寄り添えているのかなど、じっくりと向き合う時間が必要です。

勉強面においても、治療に必要な知識を見つけたり、学会や勉強会で発表するための研究など根気強さが求められる場面が多くあります。

治療でも勉強でも、「これでいいや」と諦めることは簡単ですが、STとして働いていくのであれば、途中で投げ出さずにやり抜く根気強さが必要です。

広い視野

STが専門とする分野は言語や嚥下、聴覚障害など幅広く、対象も勤める施設によりますが年齢層も小さな子供からお年寄りまで様々です。

STは1日に複数の患者様にリハビリを提供します。症状も年齢も異なる患者様に対して、正確に症状を把握し、評価・訓練を行うためには、訓練場面だけでなく、発症前の生活や自宅・病室での様子など、可能な限りの情報を得て、様々な角度からの検討をする必要があります。

患者様の立場に立って広い視野で物事を捉えられるようになると、障害の全体像を把握しやすくなり、あらゆる場面での困難や今後起こるかもしれないトラブルを予測することができるため、訓練計画の段階から生活に寄り添った問題点について考えられます。

想像力

STが対象とする患者様の中には、失語症で言葉の理解や表出が困難な方や、構音障害で言葉が不明瞭になってしまう、認知症で言っていることがちぐはぐであるなど、コミュニケーションを円滑にとれない方が多くいます。

STは訓練場面や自由会話場面を通じて、患者様が何を話しているのか、どんな気持ちなのかなどを発される言葉やジェスチャー、表情など少ない情報から読み取る必要があり、相手の気持ちを理解しようとするST側の想像力が問われます。

筆談や絵カードの提示など、患者様が確実に使える手段を用いる事もひとつの手ですが、リハビリを進めていく中で、同じ作業を一緒に行う(作業を通じた感情の共有)ことは、患者様との信頼関係構築に繋がります。

また、評価の際にも「この症状は○○が××だから起きているかもしれない」など仮説を立て、観察や検査で実証していくため、さまざまな現象に対する「なぜ」という想像力が必要になります。

向上心

患者様にとって適切なリハビリを提供するためには、疾患や障害に関する新しい知識を取り入れたり、他に良い方法はないか考える必要があります。

順調に回復しているから同じ内容を継続し続ける、退院・転院したからおしまい、というのではなく、時には「本当にこれで良いのか」「他に出来ることはないか」「他の訓練も取り入れてみてはどうか」など、自分がしていることを振り返り、評価してみることも大切です。

この作業で得られたことを次の患者様に活かし、これを繰り返していくことで、関わった患者様との経験を無駄にすることなく、自身のSTとしての力に変えることができます。

3.言語聴覚士(ST)としての自分に不安になった方へ

これまで、ダメなSTの特徴や抑えておきたいポイントについて解説してきましたが、苦手なことやできないことがあるということは、必ずしもダメなSTというわけではありません。

苦手なことやできないことがあってもそれを避けるのではなく、自分の欠点を自覚していれば、何がだめなのか考え練習したり、周囲にサポートを頼んだりと、十分にカバーできます。

今は難しくても経験を重ね、ちょっとしたコツや楽しめるポイントを見つけることができればグッと勢いがつき、できるようになるかもしれませんので、諦めずにコツコツと続けていくことが大切です。

仕事の振り返りや自己分析をしてみると欠点ばかりに目が行きがちですが、自分の良かったことにもしっかりと目を向けてあげましょう。

ST訓練の場を仕切るのはST自身ですので、自分の得意・不得意を把握しておくと、自分の得意な流れにもっていきやすく、臨床の場でも活かすことができます。

4.まとめ

今回はダメな言語聴覚士(ST)の特徴と、そうならないためのポイントについて解説しました。「ダメなST」「良いST」と言っても、人と接する態度や治療内容などみるポイントによって感じ方は人それぞれです。

治療技術が未熟で「ダメなST」と周囲から思われていても、患者様との信頼関係を十分に築くことができたり、治療も患者様との関係も良好であっても周囲のスタッフへの態度が横柄で関係が悪ければ施設にとって「良いST」とは言えないなど、簡単に分類することはできません。

自分なりの「良いST」をイメージし、チーム医療の一員として自身の得意・不得意を把握したうえで、日々向上心を持って臨床に臨んでいきましょう。

お悩みの際はぜお気軽にPTOT人材バンクのキャリアパートナーにご相談ください。
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