言語聴覚士(ST)は、日本国内で医療、福祉、教育と幅広い分野で活躍している職種ですが、中には活躍の幅を広げて海外で働いている方もいます。

海外で働くためには、日本でのST資格保有に加えて、現地の大学卒業など国ごとの学位基準を満たす必要があり、働くハードルの高さを感じる方も多いと思います。

しかし、海外ボランティアなどの制度を利用することで、現在の保有資格で働くことも可能です。

この記事では、STの資格を活かしながら国際協力や交流をしたいと考えているSTが、海外ボランティアでどのように働いているか、メリットやデメリットについて解説していきます。

1.言語聴覚士が海外ボランティアとして活動する方法

海外でのボランティアをサポートしている企業や団体はいくつかあると思いますが、まず思い浮かべるのは青年海外協力隊という方も多いのではないでしょうか。そのイメージの通り、STの派遣実績やサポート体制の充実など、安心して参加できる団体といえるでしょう。

JICA(独立行政法人国際協力機構)によると、青年海外協力隊はJICAが派遣を行っており、様々な専門職の方が、自分の持っている知識、技術、経験などを活かしながら、開発途上国の国づくりの貢献に努めています。

JICAボランティア事業は日本政府のODA予算により実施されており、事業発足から50年以上経過し、4万人を超える方々が参加しています。

STの場合は、病院や施設、特別支援学校で言語療法や嚥下指導を行う活動をしていきます。また、嚥下障害に関する知識が乏しい国がほとんどのため、現地スタッフに対して知識の普及に努めたりもしています。

応募できるのは20~69歳の日本国籍を持つ方で、日本におけるSTの国家資格を取得していることや、3年程度の臨床経験が必要となります。募集のタイミングは年2回(春・秋)あり、派遣期間は原則2年間ですが、1ヶ月から参加できる短期派遣制度もあります。

費用面でも様々な支給があり、月々3〜8万円の生活費や住宅費の支給があります。帰国後の就職準備金として、任期終了後に最大で約200万円の支給があります。さらに活動終了後に大学院に進学する場合、100万円ほどの奨学金を得やすいなどの待遇もあります。

2.ボランティアとして働くメリット

言語聴覚士(ST)として海外ボランティアに挑戦することで日本では経験できない体験ができ、新しく得る知識や技術も多くあり、さまざまなメリットがあるといえるでしょう。

ここでは、4つのメリットを取り上げて紹介していきます。

①.さまざまなスキルを身につけられる

海外で働くため、英語を始めとした外国語スキルを習得することができます。

また、異文化コミュニケーションが主となるため、コミュニケーションの多様性を知ることができ、様々な文化圏の方と交流をはかるためのコミュニケーションスキルや適応力、リーダーシップなどのスキルが身に付きます。

②.貴重な体験ができ、自信がつく

海外ボランティアとして働く場合は、開発途上国や貧困が問題となっている国、地域が多いため、医療設備が乏しい環境で携わることになります。

そのような環境の中で、現地の方がどのように働いているか、現地で医療を必要としている方たちに何ができるかを考えて取り組んでいくことは、日本では経験できない大変貴重なものです。そこでやり遂げた経験は、大きな自信にも繋がるでしょう。

③.将来のキャリアアップにつながる

海外ボランティアとして得た経験は、その後の進学や就職、転職にも役に立ちます。国際協力の仕事に応募する際に、開発途上国での就労経験を求められることがあるため、ボランティアでの経験が有利に働きます。

また、青年海外協力隊に参加した場合は、帰国後に大学院進学などの支援を受けることができます。

④.様々な人脈が得られる

海外で働いていると、派遣先の国の企業からヘッドハンティングされることや、派遣先で親しくなった方から就職先を紹介されることもあります。

日本以外のコミュニティーに参加できたり、得た人脈を活かして仕事を得られる機会があるのはメリットといえます。

3.ボランティア(インターンシップ)として働くデメリット

海外ボランティアとして働く場合には、メリットだけではなくデメリットもあります。

魅力ある海外ボランティアではありますが、注意すべき点も4つご紹介しますので、それらを把握した上で海外での働き方を検討していきましょう。

①.安全や環境面で問題があるケースもある

海外ボランティアとして働く国は開発途上国が主となるため、治安が悪い国もあり、日本ほど安全が保障されていないことが多いです。

また、上下水道の設備が整っていない国や、医療設備が十分に整っていない、衛生管理が行き届いていない国も多く、環境面で不安を感じることもあるでしょう。

派遣先や周囲のサポートもありますが、基本的には身の回りのことは自分で管理をしていく必要があります。

②.日本の情報を得たり、親交を持ったりするのが難しい

日本で主催される学会や勉強会、研修会への参加ができないため、最新の情報を得るのが難しくなります。

現在は、オンラインで参加できる勉強会も増えていますが、開発途上国ではネット環境の設備が整っているところが少ないため、オンラインでの受講をする場合には自身でネット環境を準備する必要があります。

また、ネット環境に加えて、時差もあるため、日本とは生活の時間帯が異なり、日本時間に合わせたやりとりや、家族や友人との連絡も限られてしまうことは、デメリットともいえます。

③.費用がかかることも

青年海外協力隊の場合は、渡航費用をはじめ、滞在期間中の生活費はかからず、渡航前に語学を中心とした研修を受けることができます。

しかし、民間会社を利用する場合は、プログラム費用や渡航費、滞在費などの諸費用は実費負担となることがほとんどです。

④.コミュニケーションをとるのが難しい

多くの国では、最低限の英語が話せないとコミュニケーションを取ることすら難しく、英語を話せたとしても、その国独自のなまりや方言があり、上手くやり取りできないこともあります。

また、英語圏でない国も多くあり、場合によっては現地の言葉を覚える必要もあります。

語学習得は、メリットでもありますが、慣れない環境で語学習得や異文化コミュニケーションを身につけていくことは負担にもなるため、あらかじめ日本にいる時から学習をスタートさせておく必要があります。

4.まとめ

海外派遣が多く行われている青年海外協力隊の中でも、言語聴覚士(ST)は「希少職種」として紹介されるほど、STとしての海外進出はまだ少ないのが現状で、貴重な存在ともいえます。

海外の開発途上国では、STのニードが高いにも関わらず、配置されていないことがほとんどのため、日本から派遣されたSTが担う役割は多く、非常にやりがいのある仕事といえます。

海外でのボランティアは、日本では得られない経験などメリットも多くあるため、非常に有意義な活動になるといえるでしょう。

海外進出を考えている方は、上記のようなメリットやデメリットをしっかりと把握していただき、働き方を検討する上での参考になれば幸いです。

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【参照サイト】
JICAボランティア事業の概要 | JICA海外協力隊
募集ボランティア要望調査票|青年海外協力隊(JV)|JICA-ボランティア
JICAボランティア ソロモン日記(14)| ソロモン | 大洋州 | 各国における取り組み – JICA
待遇と諸制度【一般案件】(派遣期間:1ヵ月~1年未満) | JICA海外協力隊
青年海外協力隊で活躍する理学療法士の給料は意外に高い | 理学療法士の働き方改革 (gekokujyoublog.com)