リハビリの需要は今なお高く、作業療法士(OT)の就職率は高い数値を維持しています。

しかしながら、就業環境としては人手が足りている職場と、人手不足に悩む職場と混在しているのも事実です。

この記事では、OTの有資格者の現状を照らし合わせながら、人手不足となる職場の原因や、人手不足の職場で働くことへのメリット、そして、OTの将来的な需要について考えていきたいと思います。

1. 作業療法士(OT)の人員と需要について

作業療法士(OT)を目指す方にとって、OTが将来的な需要が高い職業かどうかは気になるポイントではないでしょうか。今後もリハビリの需要は見込まれるものの、養成校も増え、資格保有者も毎年増え続けているのも現状です。

ここでは、OTの需給状況や不足している現場の実態について、解説していきます。

業界全体で人手不足だったのは昔の話

かつてOTは人材不足が叫ばれ、制度の改正に伴い1990年後半ごろにかけて養成校が多く新設されました。

ただ、現在では190校を超える養成校があり、OTの資格保有者は9万人を超えるほどになりました。さらに、毎年4,000~5,000人が国家試験に合格し、OTの数は増え続けています。

これまで、OTの養成校の就職率はとても高い数値になっていましたが、その反面でかならずしも自らが希望する分野・職場が見つかるとは言い切れなくなってきました。

今では、ある職場ではスタッフ数が充実しており、就職したくても求人がほとんど出ないのに対して、別の職場では求人を出しても人手が足りないという二極化する現象が起きているのです。

OTの人員は足りているが業種によっては人手が足りない

OTの人員数は足りているものの、職場によって勤務するOTの数はばらつきがあります。

日本作業療法士協会が発表した「2019年度日本作業療法士協会会員統計資料」によれば、協会に属しているOTのうち病院などを中心とした医療法関連施設で働くOTは36,693人と全体の半数以上を占めています。

そのほか、介護保険法関連施設では6,147人、老人福祉法関連施設では2,274人、児童福祉法関連施設では1,241人となっています。このデータを見ても明らかなように、医療施設で働く人に対して、介護・福祉施設で働くOTの割合はまだまだ少なく、人手が足りていないのが現状です。

さらに同じデータから対象疾患別に見てみると、一番多いのが「脳血管疾患」で23,497人と圧倒的に多くなっています。また、「精神及び行動の障害」を対象とするOTの小計は8,680人となっていて、その中でも「心理的発達及び小児/青年期に通常発達する行動/情緒の障害」は844人です。

このことから、発達障害などの分野ではOTの人手が足りていないことが推測できます。

2.現役が考える作業療法士(OT)の人手不足について

具体的な数値としての人手不足は先ほど述べましたが、実際にOTとして働く中での人手不足について考えてみます。

病院が比較的人手が足りている理由

病院でOTの人員が多くなる理由として考えられるのが、リハビリ体制です。急性期病院や回復期病院などでは1対1での個別リハビリが中心であり、必然的にOTの数も多く必要になります。

人員が足りている職場の強みとしては、ある程度中堅~ベテランOTが揃いやすく、新人OTに対しての教育体制が整っており、新卒者が安心して就職しやすいということです。

それにより、在籍するスタッフが退職しても、新卒者が入職し人材を育てることで人手不足を自然と補っていける仕組みづくりができています。

また、人員が足りている・組織が大きいことで、給与面の福利厚生が比較的よかったり、休みの希望が通りやすいなどの良さがあったりと、就職先としての需要も高いと想定できます。

介護施設の数は多いのに、意外と働くOTの数は少ない

内閣府の発表によると、高齢者人口は「団塊の世代」が65歳以上となった2015年に3,387万人となり、さらに「団塊の世代」が75歳以上となる2025年には、高齢者は3,677万人に達すると想定されます。その後も高齢者は増加し、2042年にピークを迎えるだろうとされています。

つまり、今後も日本は「超高齢社会」が続いていくと想定されます。高齢化が進むことで、身体的衰えだけでなく、認知症を患う患者さんも増えることが考えられます。

その際、機能訓練はもちろん作業活動を中心としたリハビリを行えるOTは、高齢者分野でも活躍が期待できますが、医療機関で活躍するOT数に比べて、介護施設などで働くOTの数は少ないのが現状です。

介護施設については、病院に比べると、患者さん一人ひとりに提供するリハビリ時間は20分と短く、一人のOTが多くの患者さんのリハビリを担当します。そのため、一つの施設に勤務しているOTの人数は少ない傾向にあります。

また、介護施設の多くは機能訓練指導員が人員基準に盛り込まれていますが、機能訓練指導員には理学療法士(PT)や言語聴覚士(ST)、看護師なども含まれるため、OTが勤務していない施設が多いのも事実です。

そのため、全国に介護保険法関連施設・老人福祉法関連施設は多く存在するのに、実際に働くOTは意外に少ないということに繋がります。

今後の高齢者分野での需要の変化としては、高齢者の数が増えていくにつれ、在宅で暮らす高齢者も増えていくことが想定されます。そのため、OTの需要は施設だけにとどまらず、訪問リハビリなどでも活躍の場を広げていけるようになるでしょう。

小児分野は働く場が広がっているものの、人手不足が著明

そして、実際に働く中で人材不足を感じるのが小児分野での施設です。具体的には、医療療育施設のほか、放課後等デイサービスや訪問リハビリなどの職場が挙げられます。

小児分野は医療療育施設が少なく、なおかつそこへ勤務するOT数も少ないことから、かつては養成校でも「小児は就職先が少ない」と言われていましたが、現在は「発達障害」への支援も広がっています。

2012年に放課後等デイサービスが開始され、未就学児童はもちろん、学校が終わった後の就学児童へのリハビリの提供が可能になりました。これにより障害児童に対する社会生活の場やリハビリ提供の場として、放課後等デイサービス利用の需要は高まっています。

放課後等デイサービスではOT以外にも、看護師や保育士、児童指導員など多職種が勤務し、連携を取りながら業務にあたります。

OTは機能訓練指導員に該当し、OTが必ず常勤しないといけないわけではないので、場合によっては一人職場であったり、OTがおらずPTのみ勤務していたりする事業所も珍しくありません。そのため、OTとしての教育体制は整っていない事業所も多く、新卒で就職する人は少ないのが現状です。

また、放課後等デイサービスと合わせて、小児への訪問リハビリへの需要も高まっています。訪問リハビリでは自分で判断し迅速に対応できる能力が求められます。

中には呼吸器の装着など医療ケアを必要とする児童も対象となるため、小児疾患に対する知識・リハビリ技術を持ち合わせていることはもちろん、看護師と連携しリスク管理ができる人材であることが求められます。

これらの理由から、小児分野に対する興味はあっても、未経験で飛び込みづらいという背景が影響し小児分野で働くOTが少なくなっているのではないかと考えられます。

3.作業療法士(OT)に求められる変化とは

リハビリ需要の高まりに合わせて、かつてに比べるとリハビリの方法もその対象も大きく広がりを見せているといえます。それだけにOTとしての働き方も多様化しており、自らの適性に合った職場選びをすることが、OTとしての可能性を広げられるかもしれません。

ここでは、OTが今後どのような分野での働きが期待されているかまとめてみました。

発達障害の分野で活躍する

私たちが子どもだった時代に比べ、今では学校教育の場面でも発達障害がある児童、もしくはその疑いのある児童に対する配慮や、児童の父兄に助言する場面も増えてきています。

かつては発達障害だと診断をされずに見逃されていた児童が認識されることで、適切な支援の手段の一つとして、リハビリ専門職との関わりが重要視されてきています。

OTは日常生活動作(ADL)にもアプローチでき、さらに「遊び」において作業活動も積極的に取り入れられるという特徴を活かしながら働くことができます。

特に、放課後等デイサービスの制度は比較的新しく、新規の事業所も多くあることから、自らも組織を作り上げる一端を担えたり、人手不足だからこそ、管理職を目指しやすかったりする利点もあるのです。

予防リハビリの分野で活躍する

これまで、リハビリの分野では疾病などによって起きてしまった「『心身機能』『活動』『社会的参加』などへの制限」を改善し、患者さんの生活の質(QOL)を向上することが主な目的となっていました。

もちろん、その重要性は変わりませんが、近年では、超高齢社会が続くことで、増加し続ける介護現場の負担や社会保障費を抑制するため、「体の衰えを可能な限り防ぎ、そもそも病気にならないように働きかける『予防リハビリ』」にも注目が集まっています。

特に、高齢者施設では、廃用症候群予防のための体操や、認知症の発症や進行を遅らせるための作業活動などをOT主導で積極的に取り入れています。ただ、施設に入居している利用者さんの中には、機能訓練へのモチベーションが低い方もいらっしゃいます。

そこで、ご本人に合わせた趣味的活動を取り入れることで、健康維持を図りながら、情緒面の賦活も図り生活のハリを見出すきっかけを提供できるという良さがあるのです。

予防リハビリの職域は、病院や施設に留まらず公民館などの場を利用して健康な方に向けた「健康講座」などの講演をすることもできます。中には病院に勤務しながら、副業として休みの日に予防リハビリをテーマとした「健康講座」の講師をしている方もいらっしゃいます。

ただし、講座を開催するには、ある程度のキャリアや知識・技術を持ち合わせており、人脈なども必要になるため、「思い立ったらすぐに始められる」というわけではありません。

将来講演などを行える立場を目指したい方は、勉強会や研修会などに積極的に顔を出し、自己研鑽と合わせて人脈づくりをすることもおすすめです。

リハビリ分野を理解しOTの役割を伝えられる架け橋になる

OTの特徴の一つに、身体機能面だけでなく、精神機能面のリハビリも対象としていることがあります。OTは医学知識をベースにして、音楽や園芸、手工芸などを含めた多彩な「作業活動」を活かして、患者さんのQOLを向上するための支援を実施できることが魅力です。

時に、作業活動を主軸とするリハビリが、他職種の方には「高齢の患者さんや精神疾患の患者さんと、ただ楽しそうに手工芸をしているだけ」のように映るかもしれません。

しかし、実際は手工芸を選択する理由やOTとしての関わり方の裏には、必ず医学的な根拠があります。それらを音楽療法士や園芸療法士をはじめ介護スタッフなどの他職種にわかりやすく伝えていくこともOTとしての大きな役割です。

他職種への指導的役割を担うこと、まとめ役となることで、仕事へのやりがいがより生まれることもあるでしょう。そして、他職種からOTとは異なる視点での知識を得ることで、自らのリハビリの幅を広げることにもつながります。

目の前の患者さんのリハビリに注力するのはとても良いことですが、ほかのスタッフと連携するよう積極的に働きかけることで、OTの強みを活かして職場で必要とされる人材になる努力をすることが大切です。

独立開業する

病院や施設に所属するのではなく、独立開業して自分で事業を経営する方法もあります。実際に2011年の東日本大震災の後には、在宅療養をせざるを得なくなった患者さんを支援するため、訪問リハビリや訪問介護事業を立ち上げたOTが多くいました。

中には、柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師などの開業資格のある資格を取得し、OTとしての専門知識や技術を強みにしながら、接骨院やマッサージ店を開業するという方法もあるでしょう。

開業をするには時間や労力、資金などを要し容易なことではありませんが、経営状況によっては組織に雇用されている時よりも収入を上げることも可能です。もし、自らのOTとしての知識や技術、経営手腕に自信がある方は、起業を考えてみるのも一つの方法かもしれません。

開業に関心がある方は、ぜひ以下の記事も参考にしてみてください。開業の選択肢や、注意点などもまとめています。

4.まとめ

これまで、作業療法士(OT)の人手不足についての現状やその理由について詳しく解説しました。人手不足の業界は人員が足りている職場よりも、業務面でも未開拓な部分が多く、ある意味でOTとして組織を作り上げていけたり、自分らしく働けたりする可能性を秘めています。

もちろん、人手が足りない分、業務に追われ多忙な日々を送ることもあります。その反面で、全体的なスタッフ数が少ない分、多職種間の協力体制が整っており、組織としての風通しがよく人間関係の良い傾向にあるのも特徴の一つです。大きい組織よりも自らの意見が反映されやすくなったり、出世がしやすくなったりするのも魅力です。

私自身、不安を感じながらも、発達障害分野の経験がない状態から小児リハビリを提供する施設に転職しましたが、数年経った今もやりがいを持って働いています。

事業所のスタッフ数が少ない分、理学療法士や言語聴覚士はもちろん、看護師や保育士のスタッフとのコミュニケーションもグッと増え、知識を増やすきっかけにもなっています。

この記事に書かれている分野に、これまで着目したことがなかったという方は、ぜひ就職・転職活動の選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか。自らに合った職場に出会えるかもしれません。

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【引用サイト】
日本作業療法士協会 「2019年度日本作業療法士協会会員統計資料」
内閣府「平成29年版高齢社会白書」