学生で今後の将来をどうしようか考えている方はもちろん、現在社会人で資格を取って手に職を持ちたい方や言語聴覚士(ST)を検討している方も多いのではないでしょうか。

今回は、そんなSTのなりかたについて、詳しく紹介させていただきます。

記事の後半では、国家試験の合格率や、学生のうちに覚えておくと良いことについてもお伝えしていますので、すでに目指している方もぜひ参考にしてください。

1.言語聴覚士(ST)とは

STとは、生まれつきの障害や脳血管障害による後遺症で言葉がうまく話せない、コミュニケーションがとれない、食事ができないなど、言語(聞く、話す、読む、書く)や摂食嚥下(食べる)に問題がある患者様を対象に評価・リハビリを実施し、自分らしい生活を構築できるよう支援する専門職です。

また、患者様本人だけでなく、他職種やご家族が円滑なコミュニケーションをとれるよう、評価から得られた伝わりやすい声掛けの仕方や苦手なことなどを伝達、共有していく役割も担っています。

施設によっては高次脳機能という注意や思考、認知など脳の働きに関わる評価もSTが担当しており、リハビリの方針や予後を検討する上で重要な職種です。

成人領域におけるSTの活躍の場は、病院などの医療施設を中心に介護老人保健施設や障害者福祉施設のような保健・福祉施設、補聴器や人工内耳を扱うメーカーなど多岐にわたります。

小児領域では、小児を対象とした病院のほか、療育施設、ことばの教室などで活躍しており、ことばの遅れや構音障害、吃音などの言語発達障害と自閉症や学習障害など発達障害のある子供に対して発達の評価や発達を手助けするような助言・訓練も行います。

最新の統計データによると、2021年のSTの平均年収は4,265,400円となっています(残業代や交通費なども含めた額面)

給与については以下の記事でも詳しくご紹介していますので、興味のある方はぜひ参考にしてください。

言語聴覚士(ST)と年収給与UPの方法や月給を総まとめ

2.言語聴覚士(ST)になるには最短2年!国家試験の受験が必要

日本言語聴覚士協会には、言語聴覚士(ST)になる方法として次のような記載があります。

言語聴覚士になるは、法律に定められた教育課程を経て国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受ける必要があります。

法律に定められた教育課程とは、文部科学大臣が指定する学校(3~4年制の大学・短大)、もしくは都道府県知事が指定する言語聴覚士養成所(3~4年制の専修学校)を卒業することであり、高校を卒業して入れば誰にでも入学するチャンスはあります。(中卒なら高卒認定からスタートです)

同じリハビリ職である理学療法士や作業療法士とは違い、もし一般の4年制大学を卒業していれば、指定された大学・大学院の専攻科または専修学校で2年間学ぶことでも受験資格を手にできますので、大卒の社会人の方なんかはこちらを検討するのもおすすめです。

つまり、最終的に国家試験に合格する必要はありますが、高校卒の資格を取って、大学や専門学校に行って3~4年間学ぶパターンと、一般の大学を卒業後に2年間指定された学校で学ぶというパターンがあります。

3.通信教育だけでは資格取得できない

言語聴覚士(ST)の国家試験の受験資格を得るためには、文部科学大臣が指定する学校、あるいは都道府県知事が指定した養成所を卒業する必要があるため、通信教育での資格取得ができません。

また、国家試験の受験資格を得るためにはカリキュラムを全て履修する必要があったり、病院や施設での実習が必要であるため、通信教育だけではカバーできない部分が多くあります。

養成校で授業を行ってくれる先生は臨床経験も豊富なSTの先輩でもあります。STは活躍の場が幅広く、進路も様々ですので、受験資格を得る目的だけでなく、適切なアドバイスを受けながら、進路について考える大切な期間と言えます。

4.学校で知識や評価方法、リハビリの方法を身に着ける

養成校によって特徴は違いますが、言語や聴覚分野をはじめとして、解剖学・生理学・失語症・構音障害・摂食絵嚥下機能障害・発達障害・吃音・言語学・神経心理検査など様々な分野について学ぶことは共通しています。

座学で基本的な知識を身に着け、学生同士の練習で適切な評価方法や手順を学び、4年生大学では2~3年生で数日~数週間。4年生のときは約1か月の実習を病院や老人保健施設で行い、単位を取得します。

座学だけではなく、実際にオージオメーターを使った聴力測定の練習や、WABやSLTAなど失語症の検査や、コース立方体テストやRBMTなど知能や記憶など高次脳機能検査など、現場で使う具体的な技術の習得も並行していきます。

また、大学の場合は卒業の前には自分でテーマを決めて卒業論文の作成や発表もあります。

5.言語聴覚士(ST)の基礎を身に着ける各学校の特徴

ここからは、具体的に書く学校にはどういう特徴があり、どんな人におすすめなのかをみていきましょう。

まずは高卒資格を手に入れる

高校を卒業していない場合、大学や専門学校に入学するには、高卒認定という資格を取得する必要があります。

そのため、最終学歴が中卒の場合はまず高卒認定試験に合格することから始めましょう。

短期大学は忙しいが早く就職できる

短期大学は4年生の大学よりも早く資格を取得し働き始めることが大きなメリットです。その分、勉強や実習のスケジュールが詰まっているので、駆け足で勉強をする必要がありますが、集中して学べる環境が整っています。

そんな短期大学から言語聴覚士(ST)を目指すおすすめの人は、早く就職したい人、学生時代は勉強に集中できる人です。実習や勉強のスケジュールが詰まっているため、大変な分集中して取り組むことができるでしょう。

ただ、人によってスケジュールの感じ方に違いはあると思いますが、アルバイトと両立する生活や、長期で旅行にいくことは4年制大学の学生より大変かもしれません。

大学は丁寧に学びやすく、勉強以外の経験を積める

大学で学ぶ魅力は、一般教養も身に着けながらSTの勉強ができることです。入る大学にもよりますが、他学科との交流する機会も短大や専門学校よりも多いので、サークル行事なども体験ができ、卒業時には「学士」という大卒の肩書も手に入れることができます。

4年間の時間をかけて学ぶため、理解が追い付かなかったところを復習することや、一歩踏み込んで勉強することが行いやすい環境ですが、集中して取り組みたい人や少しでも早く働きたい人には少し物足りないかもしれません。

そんな大学で学ぶ事は、慌てずにしっかり勉強をしたい人や、一般教養も身に着けたい人、大学時代にST分野以外にも経験値を積みたい人におすすめです。

一般の4年制大学を卒業済みの方は2年制の大学や専門学校でSTの勉強ができる

STの場合、一般的な4年生大学を卒業していれば2年制の言語聴覚士の勉強ができる大学や専門学校を卒業すれば、国家試験を受験できるようになります。

そのため、他の大学を卒業後に進路を変えたい方や、一度社会人を経験してSTのことを知り、資格取得を目指している人におすすめのルートです。

短大や専門学校同様、2年間のスケジュールで学科や実習の単位を取得するため、学業だけで忙しくなることもしばしばですが、大卒で2年制の大学で学ぶ人は資格取得の意欲の高い人が多いため、モチベーションが高い環境で学ぶ事ができるのも魅力の一つです。

専門学校は実習やカリキュラムが充実

専門学校はこれまで説明した大学とは異なり、習得したい知識や技術を専門的に学ぶ学校です。そのため、言語聴覚士とは関係ない一般教養などは学ぶ事ができませんが、より専門性に特化して学習することができます。

各専門学校によって特徴や魅力は異なりますが、実際に患者様と適切にコミュニケーションができるように実習に備えたトレーニングができるカリキュラムがある、小児の臨床現場を提携先で抱えている学校もあります。

専門学校では3年制と4年制がありますが、卒業までに取得する単位は変わりませんので、違いは学習や実習のスケジュールが3年間に凝縮されているか、4年間に分散されているかの違いです。

3年制の方は、1年分学費が安く抑えられ、早く就職することができます。そのかわり忙しく、授業のスピードも速いです。4年制の方は3年制と比べると余裕をもって学習できるので、自分のペースで知識を身に付けやすいといえます。

6.働きながら言語聴覚士(ST)を目指したい社会人の方へ

社会人が働きながらSTを目指す場合には、昼夜間部・夜間部がある養成校を選ぶという選択肢もあります。

昼夜間部とは平日は夜間、土曜日は昼間に受講するカリキュラムのことで、仕事を続けながら最短2年でSTを目指すことができますが、受験資格の条件として4年制大学卒であることが決められています。

昼夜間部・夜間部であっても、実習は昼間に実施されるため、実習期間中は仕事の調整を必要とする場合があります。また、授業時間が限られている分、課題も多くなるため勉強時間の確保など注意が必要です。

7.学費について

学校選びの際にしっかり確認しておきたいのが学費です。授業料ベースでみてみると、4年制大学の場合、私立で年間150万円程度、国公立で年間約50万円程度、3年制短期大学では年間約130万円程度、専門学校は年間約120万円程度、昼夜間は100万円程度とされています。

どの養成校を選んでも授業料以外に入学金や教材費、実習費、施設利用料などで50~70万円程度の費用が必要となります。

学費については以下の記事でも触れています。学費も含めどんな養成校を選べばよいのか詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてみてください。

8.言語聴覚士(ST)の国家試験は合格率約70%

話は変わりまして、言語聴覚士の国家試験の合格率に話を移していきます。

2023年の第25回言語聴覚士国家試験の結果

最新の言語聴覚士(ST)の国家試験の受験者数と合格者数は、下記の通りです。

受験者数合格者合格率
2023年2,5151,69667.4%

約70%の人が合格していることが分かります。全員が受かるわけではありませんが7割の確率で合格できる国家資格と言えます。

今度は、過去10年間のデータを見て、傾向を確認します。

過去10年間をみると合格率は71.5%程度を推移している

受験者数合格者合格率
2022年2,5931,94575.0%
2021年2,5461,76669.4%
2020年2,4861,62665.4%
2019年2,3671,63068.9%
2018年2,5312,00879.3%
2017年2,5711,95175.9%
2016年2,5531,72567.6%
2015年2,5061,77670.9%
2014年2,4011,77974.1%
2013年2,3811,62168.1%

国家試験の難易度は年によって異なるので合格率に幅がみられますが、10年間の推移を見てみてみると、毎年受験者数は2500名前後で合格率は65.4~79.3%、だいたい7割の合格率であることが分かります。

各大学や専門学校で国家試験対策を行っているので、国家試験合格率の高い学校を選び、過去問で入念に対策をすることで7割は合格を狙えると思います。

国家試験の勉強法や過去問の活用法については、こちらの記事でもご紹介しています。詳しく知りたい方は参考にしてみてください。

9.言語聴覚士(ST)になるために、学生の時にやっておくといいこと

言語聴覚士になって、今振り返るとこうしておけばよかったということを紹介します。

就職してからの自己学習や、職場の研修や勉強会でスキルや知識は磨いていけるのですが、学生時代は実は失語症・構音障害・小児発達・聴覚・摂食嚥下分野など専門的な知識を持った先生がそばにいて、図書館や教材などが充実しているので吸収しておくべきチャンスでもあるのです。

学生時代にもっとも勉強しておいた方がよいのは基礎基本

実際に働いてみて感じることは、解剖学や神経学、言語機能や嚥下機能など基礎基本が大事だと感じました。「どこが障害されると、どんな症状がおきるのか?」「原因をおさえて適切なアプローチをする」ことが重要です。基礎基本を押さえることで適切な評価ができます。

学生時代に、自分の就職したい分野(小児、成人、聴覚など)で携わる知識を覚えていくことと、実際に働いたときに復習しやすくておくことが大切です。

実習での経験を大事に

また、実習での経験は就職したときに実践で使えるものが多いため、先輩STの患者様とのかかわり方や、声のかけ方、関係性の作り方、リハビリの評価や手技をよく覚えておくと良いです。

そのときは何かわからなくても、見たり聞いたりしているだけで、のちのち結びついていくこともあるので、目を肥やしておくことが大事です。

10.万が一、国家試験不合格になってしまったときは?

どれだけ日々努力していても、試験当日に体調を崩してしまい実力が出し切れないなどのハプニングや試験ですので苦手な範囲が多く出題される可能性があるなど、100%合格するとは言い切れません。

言語聴覚士(ST)の国家試験は2月に実施されることが多く、合否の発表は3月末というスケジュールとなっています。そのため、就職先が決まっていても国家試験の合否によっては内定取り消しとなる場合があります。

国家試験に不合格になっても、これまでの努力や学費などを考えて再受験を目指す場合には、在籍していた養成校で研究生などの制度を利用し、学校で勉強を続けながら再受験を目指す方法と、独学で再受験を目指す方法があります。

一般的には養成校との繋がりをもっていた方が、次の国家試験の情報収集がしやすかったり、模試への参加が可能であったりと、独学で勉強するよりはモチベーションが維持しやすく、有利な環境と言えます。

また就職先に関しては内定取り消しになる可能性のほか、施設によってはリハ助手として臨床の手伝いをしながら実践的な知識を学ばせてもらえることもあります。その場合、受験勉強と並行しての仕事となるため、勉強のスケジュール管理に注意が必要です。

11.まとめ 

言語聴覚士(ST)になるには4年生の大学に行く、3年制の短大に行く、3~4年制の専門学校に行く、一般の4年制大学を卒業後に2年制の大学が大学院もしくは専門学校で学び、国家試験に合格することが必要です。

STになるための必要単位数は一律で決まっているので、3年制でも4年制でも学ぶ内容は変わりません。3年制では忙しい代わりに早く就職することができ学費をおさえることができ、4年制ではじっくり学んで実習や国家試験に臨むことができます。

国家試験は過去10年間で合格率70%が平均です。国試合格率の高い学校を選んだり、過去問でよく対策することで7割の人は合格できる確率です。

学生時代にやっておくといいことは、基礎基本を勉強することや、実習での先輩STの患者様への接し方や、リハビリ評価や方法をよく見ておくことです。その場ですぐわからなくても、実際に働くと「勉強していて思い出しやすかった」「あの時先輩STがしていたのは〇〇だったのか」と腑に落ちる場面が来ます。

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言語聴覚士(ST)の試験や就職に関するおすすめ記事をご紹介。

【引用サイト】
言語聴覚士学会 言語聴覚士になるには

【参照サイト】
厚生労働省 言語聴覚士法 第三十三条 (受験資格)
厚生労働省 第25回言語聴覚士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第24回言語聴覚士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第23回言語聴覚士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第22回言語聴覚士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第21回言語聴覚士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第20回言語聴覚士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第19回言語聴覚士国家試験の合格発表について
厚生労働省 第18回言語聴覚士国家試験の合格発表について
令和3年 賃金構造基本統計調査 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
令和3年 賃金構造基本統計調査 【参考】職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)(役職者を除く)
令和3年 賃金構造基本統計調査 職種(小分類)、年齢階級別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)
令和3年 賃金構造基本統計調査 職種(小分類)、年齢階級、経験年数階級別所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計)