最近、労働環境の劣悪さを表す言葉として「ブラック企業」という表現が使われています。ブラック企業と呼ばれる条件は明確に定義されているわけではありませんが、法外な長時間労働や低賃金、給与の未払い、ハラスメントやいじめのような人間関係問題など労働環境に問題が生じた状態が長期にわたり、常態化している職場を指します。

言語聴覚士(ST)が働く施設は病院や介護施設、福祉医療関連の一般企業など様々あり、ブラックな職場環境の施設に入職してしまう可能性も十分に考えられます。

今回はSTのブラックな職場の特徴と付き合い方について解説します。

1.言語聴覚士(ST)のブラックな職場の特徴

STの場合、病院や介護施設など何らかの施設の職員として勤務しているという方が多くいますが、勤務時間や給与、勉強会への出欠席の取り決めなど、働くにあたっての規則は所属する施設により異なります。

労働者の心身の健康や働く環境を守るために、労働基準法や最低賃金法など労働に関する法律が定められており、これらが正しく守られていない、あるいは法を守ってはいるが就業に問題を生じる状況にあるのが「ブラックな職場」といわれるものです。

労働時間について

労働時間は労働基準法で「休憩時間を除き、週40時間を超えてはならない」こと、「一週間の各日については休憩時間を除いて8時間を超えてはならない」ことなどが定められており、これ以外の時間の勤務は「時間外労働」にあたります。また、休憩時間も労働時間に応じて労働基準法で定められています。

STが施設でフルタイム勤務する場合、患者様の朝食後9時から夕食前の17時までを臨床、それに加えてミーティングや臨床の準備などで前後30分程度を労働時間(実働8時間、休憩1時間を含む)としている施設が多いようです。

施設によっては朝夕の食事時間へのリハビリ介入のため早番や遅番を設けているという場合もありますが、労働基準法に基づいて最大8時間の実働と適切な休憩時間という条件は同じです。

どちらの場合も残業などの時間外労働がなければ特に問題はないのですが、実際には患者様の急な入退院や状態の変化、他部門との話し合い、院内勉強会への参加など、時間外労働も多くあり、場合によっては「ブラック」にあてはまる可能性があります。

労働基準法によると、時間外労働が長時間とならないよう、「時間外勤務の必要がある場合には延長する労働時間の上限規制を定めた協定を結ぶ必要がある(36協定)」としており、これを遵守しているかどうかがブラックな職場かどうかの判断基準のひとつとなります。

36協定では会社側と労働者側の話し合いで労使協定が結ばれれば残業をさせることが可能となり、定められた上限を超える残業を強いられるようであればブラックな職場と考えられます。

STは嚥下の状態を評価し、安全に摂取可能な食事の形態を決定するなど、特に患者様の安全に関する仕事は先延ばしにすることができないため、時間外であっても対応する場面が多くあります。院内勉強会に関しても衛生や防災に関するものなど出席が義務付けられている場合があり、就業時間外に出席する可能性もあります。

そのため、まずは自身の仕事量が適切であるかを把握し、自身がどのくらい時間外勤務をしているのか、施設側は職員の労働状況を把握できているのか(タイムカード等による正確な管理がされているか)、時間外の勉強会等への参加の扱いはどうなっているのか等、確認しておくことが重要です。

賃金について

賃金は、労働基準法で毎月一回以上、一定の期日を決め(いわゆる給料日)、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定められており、金額についても最低賃金法が定められており、都道府県ごとに最低賃金が設定されています。

最低賃金は時間制で記載されていますが、月給制でも同様ですので、手当などを除いた月ごとの給与(基本給)を労働時間で時間給に換算した場合に、最低賃金を下回ってはいけないことになっています。

労働時間外に行った労働に対しては時間給に加えて25~50%の時間外手当(いわゆる残業代などと呼ばれるもの)を付与することも労働基準法で定められています。そのため前項で解説した労働時間を適切に管理することは賃金の管理にも繋がります。

STの場合、臨床終了後に患者様に関する相談を受ける、院内勉強会への出席を求められるというような場面もあり、これらも労働時間以外であれば時間外労働にあたりますので、時間外手当のついた賃金が発生します。

ここで注意しなければならないのが、「みなし残業」です。みなし残業とは、残業をする・しないに関わらず、毎月一定の固定金額を残業手当として支払う制度のことです。例えば、みなし残業20時間であれば、残業が10時間であっても20時間分の残業手当が毎月支給されます。

みなし残業は業務効率の側面がある一方で、正当な残業代が支払われない可能性もあるため注意が必要になります。例えばみなし残業20時間の場合、20時間1分から残業代の支給が必要になりますが、支払われないケースがあります。

また、税金や雇用保険料など労働者が支払わなければならない費用以外に、労働者本人の同意なく「研修の費用」や「積立金」など不当な項目を給与から天引きすることも法律上禁止されている行為ですので、給与明細の項目をよく確認しておく必要があります。

給与の未払いに関しては、雇用主の義務である賃金の支払いを怠っており、労働基準法にも抵触しています。労働時間に対して賃金が適切に支払われていない職場は、ブラックな職場である可能性が高いです。

休日について

労働者の休日は「少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければない」という決まりと、週40時間までと定められた労働時間に基づき、週休1~2日で設定されていることが多いです。

STの場合、以前は医師の診察が休みとなる土日休で固定されていることが多かったですが、最近では病院や介護施設でのリハビリを365日実施している施設も増えてきているため、平日休などシフト制で出勤が組まれるパターンが主流です。

退院処理やカルテ入力など仕事が終わらなかったからと言って、休日に出勤することは時間外労働にあたるめ、申し出なく勝手に出勤するなどの行為はしてはいけません。また、休日出勤を強制してくる施設はブラックである可能性が高いので注意が必要です。

休日には通常の休日のほか、有給休暇、女性の出産・育児休暇のような定められた休暇、福利厚生で設けられた特別休暇など様々な種類があり、一部条件はありますが、これらの休暇を取得できることも労働者の権利です。

労働者が休暇の取得を希望しているにもかかわらず、雇用主や上司が拒否するなど、休暇取得を認められない場合には、労働基準法もしくは労働契約に反していますので、ブラックな職場の特徴と言えます

福利厚生などの制度について

就職や転職の際に、給与などと同様にチェック項目として重要な福利厚生もブラックな職場かどうかの判断材料となります。

福利厚生とは、給与や賞与など金銭的な労働対価以外に、従業員もしくはその家族に与えられる報酬を指します。例えば雇用保険や労災保険への加入など安心して働くための環境を整えるほか、住宅手当、交通費の支給、退職金、育児・介護休暇などがあり、施設によって様々です。

求人票の福利厚生を見ると様々な記載がされていますが、補助の程度や実際に活用されている割合など詳細な情報は読み取ることができません。

一見良さそうな福利厚生の記載が並んでいても、交通費の支給限度が低額に設定されていたり、退職金は勤続年数が長くないと支給されないなど、従業員にとって十分な報酬と言えない可能性もありますのでよく確認する必要があります。

人間関係について

ブラックな職場といわれる環境で多いものが、人間関係の問題です。精神的・身体的苦痛を与えるパワーハラスメント(パワハラ)、性的な苦痛を与えるセクシャルハラスメント(セクハラ)、妊娠・出産した女性職員へのマタニティハラスメント(マタハラ)などがあり、社会的な問題になっています。

これらのハラスメントが日常的に起こっている職場では、従業員の人権が尊重されず、職場環境が悪化し、離職率が高くなる傾向にあります。離職率が高い職場では、勤続年数が短い人の割合が多いため、平均勤続年数なども合せて確認しておくと良いでしょう。

2.ブラックかもと思った時の向き合い方

所属する職場がブラックかも?と感じた時には、できるだけすぐに行動に移すことをおすすめします。過度な時間外労働やパワハラなどはあなた自身の心身を蝕んでいきます。健康被害が出る前に対処していきましょう。

客観的にみてみる

ブラックな職場は、労働基準法を守っていない場合や明白な法令違反を避けてグレーゾーンを狙ってくる傾向にあります。さらに労働者も、自分が受けている扱いが理不尽なのか、それともやむを得ないものなのか、判断が難しいことがあると思います。

そのため、まずは今の勤務先から受けている扱いが違法かどうか、労働時間や賃金などの数字、実際にされた行為の記録などをもとに客観的にみて判断する必要があります。

PTOT人材バンクのような転職エージェントに対し、労働環境について相談してみるのも良いでしょう。

証拠を残しておく

ブラックな職場であるということがわかった場合には、実際の労働時間を手帳などにメモをとっておくことや、給与明細を残しておくと後々、残業代を請求したり、法的手段に出る場合に重要な証拠となります。

ハラスメントなどについても、ICレコーダーで記録したり、いつ・だれが・どこで・何をしたか等、出来るだけ詳しくメモを残しておくことで、勤務先に対し、それらを防止するための必要な措置を求めることができます。

また、程度によっては加害者と勤務先の両方に対し、人格権侵害や肉体的・精神的苦痛による損害賠償を請求することも可能です。

ブラックではないけれど、負担が大きい場合

法的にも客観的にもブラックと言える職場でなかったとしても、言語聴覚士(ST)に多い時間外の仕事や休日の勉強会への出席などが負担に感じるという方も少なくないと思います。

この場合には、仕事量や担当する患者様の人数を調整してもらい、できるだけ労働時間内に対応できるようにしたり、勉強会は必要最低限の出席に留めるなど自身の力量に合せて調整すると良いでしょう。

安定して仕事を進められるようになったら、無理のない範囲で少しずつ仕事量を増やしていきましょう。

3.転職できることを視野に入れておく

2章では自身でできる対処法について解説しましたが、無理に同じ職場に留まる必要はありません。言語聴覚士(ST)として活躍できる場は、1つではありませんので、他の施設や分野など異なる環境に転職してみるのもひとつの手です。

自身の働きやすい雰囲気や職場環境の違いなど、様々な職場を経験することで分かることもたくさんありますので、前向きに検討してみましょう。

4.まとめ

言語聴覚士(ST)のリハビリはリハビリ職だけでなく多職種が関わるチームで進めていくため、STとして働く上で職場環境はとても重要です。

あなた自身が心身ともに健康で、安心して患者様と関わっていくためにも、ブラックだと感じた場合には、迅速かつ適切に対処していきましょう。

お悩みの際はお気軽にPTOT人材バンクのキャリアパートナーにご相談ください。
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【参照サイト】
・日本言語聴覚士協会HP会員動向 就業状況と勤務先
・e-GOV 法令検索
労働基準法
第三章 賃金
(賃金の支払)第二十四条 
第四章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
(労働時間)第三十二条 
(休憩)第三十四条
(時間外及び休日の労働)第三十六条
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)第三十七条
(年次有給休暇) 第三十九条
第六章の二 妊産婦等
(産前産後)第六十五条 第六十六条
(育児時間)第六十七条

・厚生労働省HP
地域別最低賃金の全国一覧
令和4年度地域別最低賃金改定状況